第3回 空き家を片付けてみてわかった、地方の空き家問題の深刻さ
ー体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」2024年度春学期ー
中村 祐太(政治経済学部 4 年)
2 回目の実習にあたる 2024 年 6 月 23 日、午後の活動では、大学在学中に丹波山村へ移住し、不動産事業を起業された梅原さんと共に、空き家の清掃を行った。

丹波山村の散策
丹波山村の 97%は森林が占め、平地はわずか 3%しかない。
新たに家屋を建てる土地がなく、既存の建物の再利用が欠かせないため、丹波山村では積極的に空き家の再生事業が行われているのだ。
実習に参加した私は「空き家清掃」という言葉から、いろいろな「お宝」が眠っているのではないかと想像し、密かに胸の内を踊らせながら現場へ向かった。
正直に空き家清掃の感想を述べたい。
私は、空き家の清掃をなめていた。
私自身、両親が転勤族であり引越しは経験していたし、友人の引越しを手伝ったこともあったため、ものを「捨てるだけでいい」空き家清掃の方が、通常の引越しよりラクなのではないかと考えていたのだ。
ラクだと想像していたとはいえ、大変ではないと「なめていた」訳では無い。
しかし、空き家を人が再び使えるようにするためには、私の想像を上回る労力が必要なのだと知った。

処理場へ運ぶために軽トラへ積み込む
空き家清掃の何が大変なのか?
それは、単純だが「捨てる」ことの大変さに尽きる。
引越しであれば、必要なものは運んで、ある程度不要なものを捨ててしまえばそれで終わりだ。
家族連れの規模であれば、ある程度のモノを段ボール箱につめこめば、その後は業者に頼んでしまうだろうし、一人暮らしの規模であれば、それほどモノが多くなければ数人で一日かければ引越しは可能だ。
しかし、今回、私たちが清掃に協力した物件は、2 階建て家屋 2 軒分、さらに居住者が生前に家を離れたそのままの状況であるため、ある意味で「ヒトの一生分」の残置物があるのだ。
それらすべてを捨てなければいけない。
どんなに大きい家具、重たい家電であっても捨てなければいけないし、天井近くまで積み上がった布団も焼却場まで運び処分しなければならない。

高く積まれた布団
そして、効率的に焼却場まで運ぶために、それらの廃棄物を分類し、解体する必要がある。
事前に「お宝探し」でもできたらいいなと考えていたものの、実際にはそんな余裕はまったくなかった。立派な和箪笥も複数廃棄されており、どこかで再利用できるのではないかという考えが頭を過ったものの、「捨てる」こと以外に余裕は無いと感じた。
今回は、廃棄物の分類から、ある程度の解体までを行ったため、それらの作業がいかに労力がかかるかを体感した。
地域おこし協力隊の方の協力を含め、大の大人 20 名ほどで作業にあたって、3 時間ほどかけたが、取り組んだ 2 軒のゴミのすべてを片付けることはできなかった。
大変なのは、単純に労働力の観点からだけではない。
「そのまま」で残されている腐敗した食品の匂いや、ホコリやカビが舞う古い木造住宅の匂い、かつての人の暮らしを感じさせる残置物を見ることなしに、清掃を終えることはできない。
物件によって違いはあるのだと思うが、体力以外に精神的にも疲弊するのは確かだろう。

ゴミは一旦処理場に集められ、木造の家具は手作業で解体し村外に運び出され る
これらの清掃を外注すればいいのではないか、と考える読者も多いのではないかと推察するが、清掃業者に頼むにも数十万円の費用が必要らしく、誰がその費用を準備できるのか、というのは難しい問題だ。家族は住む予定のない家の片付けにお金をかけたくない。それゆえに、残置物が放置され、使えない空き家になり、移住者が丹波山村に来たくても住む場所がない状態が生まれている。

これでもまだ今回の清掃の一部分にすぎない
今回の空き家清掃を経て、日本の空き家問題について考えさせられた。
特に地方における空き家問題では、空き家の所有者を突き止めたとしても、再生にかかるコストが予想される収益よりも高くなってしまえば、再生への意欲は下がり、問題解決の難易度は大きく上がる。
地方に限らず、「住居を朽ち果てるまで放置する」という選択肢以外を取るのであれば、居住者の死後には、誰かが「残された遺物」を処理することになる。
私たちは、そうした「遺物」に対する処理の責任をどれほど意識して生きているだろうか。
今回の空き家の清掃では、もし居住者の方が、生きているうちに少しでも「遺物」を片付けてくれていれば、という思いが頭をよぎった。
空き家の再生にかかるコストが低ければ利活用が可能になり、それは、丹波山村のような地域では、村の生死に関わると言っても過言ではない。
実際には、生前に所有物の整理を行うことにも多くの困難が伴うだろうことは想像に難くない。だが同時に、死後にそれらの処理を行う誰かがいることは、ひとりひとりが意識しなければならない問題なのではないか。
今回の実習を通じて、空き家問題は、住居に暮らす私たち全員が意識しなければならない問題だと感じた。
空き家の清掃のあとには、建物全体のリフォームが必要であり、実際に活用に至るまでの道程は長い。
まずは身近なものの整理やごみ捨てを始めるところから、空き家問題について考えてみたいと思う。
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