【教員便り】科目「パラスポーツとボランティア」実習報告
~ルールを変えてみる~
WAVOC准教授 兵藤智佳
「だったら、みんなが椅子に座ればいいじゃん。」
モルックという棒を投げて並べられた木を倒すゲームをしていたときに、ある学生が放った一言です。
6月1日(土)にWAVOC(早稲田キャンパス99号館STEP21)で行われたこの実習では、車いすに乗った高校生たち4名に早稲田大学に来てもらい大学生たちが準備したレクレーションを一緒に行いました。日頃、特別支援学校に通う彼らは、大学生(13名)との楽しい時間を楽しみにしていました。学生たちにとっては、始めての障害を持つ高校生たちとの活動です。
それまでの講義では、「パラスポーツは、障害者のためのスポーツではなく、障害を持つ人も持たない人も一緒に楽しめる共生の可能性である。そのためには参加者、みんなが楽しめるようにルールを変えればよいし、その場でつくればいい」という考え方を座学で学んでいました。そんな学生たちは、車いすでも楽しめるゲームとして、モルックを準備しました。高校生も大学生も誰もが「棒を投げる」という動きが可能だから、みんなが一緒にできるゲームだと想像したのです。
さて、当日、実際にゲームが始まるとうまく木を倒せる人も失敗する人もいました。チーム戦で盛り上がったのですが、車いすの生徒たちは、座っているので投げた棒に角度がつきません。学生たちは立って投げるので、角度がつくのです。この状態は、多くの参加者の中に、なんとなく「なんか公平じゃない」という違和感をもたらしていました。そのときに、一人の学生のアイディアが提案されたのです。
それからは、全員が椅子に座って棒を投げるルールになり、みんな同じ角度で棒を投げることになりました。まさに、「みんなが公平に競う」というパラスポーツの理念が実現された場です。障害を持っている人を特別に扱うのではなく、ルールを変えることでみんなが楽しく競える場をつくれる。学生たちが、理論ではなく、身体で実感した瞬間です。
この体験は、「ルールは守るもの」として教えられ、「既存ルールの中で勝つこと」を目指してきた多くの学生たちにとっては、大きな発見です。「そのルールは何のためなのか」、「そのルールは誰に有利なのか」を常に問わなくてはならないのは、私たちの社会の課題でもあります。私は、パラスポーツを通じてそれができた学生たちは、社会の現実の中でも、その場にいるみんなにとって公平なルールに変える人になっていくはずだと期待しています。