実習科目「狩猟と地域おこしボランティア」の履修生による体験レポートです。自然豊かな山梨県丹波山村で、猟師さんや地域の方との出会いや実習を通して履修生は何を感じ考えたのか?
ぜひお読みください!
【第3回】ボランティアの可能性
ー体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」2023ー
西森 旭(社会科学部 4 年)
「あなたはボランティアをしたことがありますか?」
ちなみに私は 1 か月前までしたことがなかったです。
授業の実習内で、空き家清掃のお手伝いをしたことが、私にとって初めてのボランティア経験でした。この出来事を通して、「ボランティア」というものに対する考え方が大きく変わり、自分自身が人間的に成長することができました。
そもそも私がこの 22 年間ボランティアをしてこなかったのには、ある理由があります。
それは、「ボランティアってどうせ労働力の搾取でしょ」という考え方を持っていたからです。この考え方は今現在も大きくは変わっていません。ボランティアを受け入れる側は崇高な理念を披露することで、若く逞しい労働者を‘騙して’、労働力として駆り出す。ボランティアという枠組みの中では、従事者は「永遠の giver」、受け入れる側は「永遠のtaker」であり続ける。実際、先の東京五輪では労働力を確保するべく、「世界的イベントの一翼を担える」であったり、「ここでの経験が社会に出て役立つ」といった若者にとって非常に魅力的な言説を用いて‘無賃金’の従業員として働かせていた、と私は認識しております。このような考えのもとで、つい一か月前まではボランティア活動に従事したことはありませんでした。
転機は 4 年生の秋学期、授業「狩猟と地域おこしボランティア」のなかで丹波山現地実習に行ったことでした。正直言って、当時は狩猟という言葉に誘われてこの授業を受けることにしただけで、ボランティアという点については一切考えていませんでした。授業の内容は、狩猟そのものについての理解を深めると同時に、狩猟との親和性の高い分野である「地域おこし」を 2 回の現地実習を通して学んでいくというものでした。現地実習では狩猟を用いて地域おこしを現在進行形で行っている山梨県丹波山村に足を運び、その様子を自分の目で見て理解を深めるとともに、自らが地域おこしボランティアとして空き家掃除などに従事するという内容でした。
もちろん、私にとって狩猟に関する内容は非常に興味深いものでした。狩猟道具の説明から始まり、モデルガンの銃体験、ジビエの流通に関する講義など今まで自分にはなかった世界が開かれていくようなものばかりでとても刺激的な時間でした。
一方で、午後に行った空き家清掃ボランティアも刺激的な体験でした。丹波山村では全国各地の自治体と同様に空き家問題が深刻ですが、その解決への一歩として空き家を清掃し、そこに移住希望者に住んでもらうという取り組みを行っています。私はその空き家清掃の労働力として授業の一環でボランティア活動を行いました。
この活動で特に印象的だったのは、「得られたことがたくさんあった」ということでした。前述した通り、私はボランティア活動について非常に否定的な立場であり、ボランティアという枠組みを「一方的な搾取である」と考えていました。しかし、実際に自分自身がボランティアを体験したことで、その考え方が一部間違っているということを知りました。実際、空き家ボランティアの活動中に現地の方から、丹波山の歴史や風土、そして文化など生きた学びを得ることができました。特にその中でも、「丹波山では 20 年ほど前までは火葬ではなく土葬を行っていた」ということを教えていただいた際には非常に驚きました。また、活動の中で何よりも嬉しかったことは、現地の方からの感謝の言葉です。活動に対して感謝の言葉をいただき、自分自身の中に「幸福感」というなによりも得難いものを得られました。この体験を通して、ボランティア活動では従事者にも得られるものがあるということを強く感じました。
しかしながら、前述したボランティアに関する考え方を変えるつもりはありません。ボランティアとは、どこまで行っても労働力を搾取する枠組みにほかならないと考えているからです。ボランティアという崇高そうでもっともらしい言葉を使って無賃金の労働者を創り続ける。これは事実としてそこにあります。一方で、ボランティアをする側が何も得られていないかというとそうではないのも事実です。実際私は空き家ボランティアを通して、その土地の文化や歴史を教えていただいたと同時に、自分自身の幸福感を得ることができたからです。これはいい意味で give-and-take な関係を築けていると思います。ただ単にこちらが労働力を give するだけではなく、相手側から何らかの give があり、そしてお互いがお互いの give を take する。これこそがボランティアのあるべき形であり、もしこのような当たり前の関係が築けてないボランティア活動は、「搾取的枠組み」というレッテルを貼られても異議を唱えることはできないでしょう。ボランティアを受け入れる側もボランティアをする側もお互いの give-and-take を意識し続けることこそが、この状況の改善と有意義なボランティア活動の実施に繋がるだろうし、またそれこそがボランティアという枠組みの可能性を広げることに繋がると考えています。
体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」
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