「わたしが猟師になったわけ」 〜めざせ女猟師!1~

イノシシに田んぼを荒らされて途方に暮れる
9月はじめのある朝、ヤツは、とうとうわが家の田んぼにもやってきた。脱サラして夫が移り住んだ千葉県鴨川市。昨日までたわわに実った稲穂が美しかった棚田が、一夜にして無惨な姿になってしまった。稲はなぎ倒され、食い散らかされて見る影もない。「うちの田んぼも今週は稲刈りだね」と話していた翌日のできごとだった。半年間、汗水たらして育ててきた稲が、収穫直前のもっともおいしいところで食べられてしまったのだ。
ヤツの正体はイノシシ。
日本全国でイノシシやシカが害獣となって農村で増加しているが、鴨川も例外ではない。この10年ほどで、どんどん被害に遭う地域が拡大している。
もともとわたしは、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターの教員として、アフリカのタンザニアでゾウによる農作物被害に苦しむ農民を支援するプロジェクトを実施していた。その中で、タンザニアの農民たちが「ゾウが憎い、殺したい!」と悔しそうに語る姿をいつも見てきたし、「彼らの力になりたい!」と活動してきた。しかし、こうして自分で作物を食われてしまう悔しさを体験してみると、以前のわたしはタンザニアの農民の怒りや悲しみを、これっぽっちもわかっていなかったことを思い知る。

イノシシの解体を学ぶ
ぬかるみに足を取られながら、耕運機と命がけで格闘して耕起した田んぼ、照りつける太陽の下でフラフラしながら刈った雑草……そんな半年間の苦労が、たった一夜ですべて無かったことになってしまうのだ。その時の絶望感と虚無感といったら、どう表現したら伝わるのかわからない。
そんなわけで、にっくきイノシシを獲るために、わたしは大学教員でありながらも猟師になることを決意したのだった。まだまだ修行中のひよっこ猟師だが、そんなわたしの目から見た狩猟の世界を少しずつ紹介していきたい。
(つづく)