【正課の取組】体験的学習科目「狩猟と地域おこしボランティア」
─ 2025年度秋学期 ─ 第4回 丹波山で見つけた、地域密着型ベーカリーに惹かれて
法学部4年 川原麻菜
地元で愛されるパン屋は、いくつになっても、ふとした時に行きたくなる。丹波山にも、美味しさと人の温かさに包まれたベーカリーを見つけました。
道の駅たばやまから徒歩約20分(車で約3分)。のぼり旗と看板が目印の小さなパン屋「きのしたベーカリー」が営業しています。丹波山村で唯一のパン屋さんで、焼きたてが味わえる希少なスポットです。
我々の実習初回は三連休の中日、かつ登山シーズン。11時半頃に伺うと既に数種類のパンしか残っていませんでした。実習生十数名でお店を覗き込んでみると、ショーウィンドウの奥から「こんにちは~!」と、木下ご夫婦が笑顔で出迎えてくださいました。
全て買い占めたい衝動を抑えて、購入したのはチーズがゴロゴロ入ったパン。国産小麦100%・無添加にこだわってつくられており、パン生地はふわっふわで甘い香り。次週の実習のお昼休みにもリベンジして、今度はフォンダンショコラのパンを購入しました。
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このベーカリーを経営されている木下ご夫妻に、村の方々との関わりについて伺いました。
木下さん:「丹波山は小さい村で、2017年にパン屋を始めようとしたときは、どんどん店が閉業していて。村の人たちからしたら、今始めちゃうのって(心配そうな)感じだったと思うけど、『頑張って』って応援してくれて、開店したらみんな喜んでくれました。」(カッコは筆者追記)
「スーパーとかでも安いパンは買えるけど、『焼きたてのパンが食べたい』って来てくれる村民の方がいる。いつも応援してもらっているのがありがたくて、頑張ることができています。」
ベーカリーのパンは市販品とは異なり、焼きたてが買えるだけでなく「この人がつくっている」という安心感も与えてくれるもの。つくり手と会話を交わすことができ、かつ国産・無添加で小さい子どもでも食べられるパン屋は、村民が「あったらいいな」と密かに感じ続けていた、貴重な存在です。
木下さん:「物価上昇であんまりもうけはないんですけど…安心安全なパンを、他よりも安く販売したい、という思いで続けています。」
一方でパン屋を始めてみて気付いたのは、1日14時間労働の体力勝負だということ。定休日には仕込みを行いますが、お客さまに会うこともなく、「大変なだけで元気が出ない」一日だといいます。
それでも続けられるのは、「おいしかったよ」というお客様の声に元気をもらい、その度に「また誰かに喜んでもらいたい」という思いが強まるからだと、木下さんは繰り返し言葉にしていました。
きのしたベーカリーは、丹波山名産物の発信拠点としても注目される存在。季節限定で、地域特産の素材「原木舞茸」を使ったパンを製造しています。製造のきっかけは数年前、舞茸の生産者である丹波山倶楽部から「舞茸祭(まいたけまつり)に向けて、原木舞茸を使ったパンを作ってくれないか」という依頼を受けたことでした。
そこから誕生したのが「原木舞茸味噌マヨパン」。原木舞茸の収穫期間は2〜3週間と短く、丹波山倶楽部から仕入れたものをそのまま使用しています。「(新鮮な)原木舞茸が食べたい」という声に応え、今や4、5年以上続く一番の人気商品に。さらに今年からは「原木舞茸シチューパン」も登場し、原木舞茸パンは2本立てのラインナップになりました。
この名物商品は遠方からの注目も集めており、中でもSNSでライダー仲間の投稿を見て訪れる観光客が多いそうです。また丹波山のキャンプ場の利用者の方が「今年も来たよ」と立ち寄ることもあるなど、リピーターからも愛されている様子が伺えます。
最後に、日々丹波山村を見守ってきた木下さんは、地域の人の流れやにぎわいの変化をどう感じ取っているのでしょうか。
木下さん:「ベーカリーを始めたときはうちしかなかったけど、最近は「灯里(あかり)」、「TABA CAFE」、(今はやっていないけど)「オオカミ印の里山ごはん」、さらに今年は焼き鳥屋が釣りエリアにあったり……丹波山に飲食店が増えて、にぎやかになったなと思います。TABA CAFEやオオカミ印ではうちのパンを使ってくれたり、連携もできています。」
「住んでる側からしても、美味しいお店が増えて丹波山が元気になるのはうれしいです。村内でも、舞茸祭みたいなフェスとかイベントの機会もあって、住んでる人も楽しいですよ。」
丹波山村の人柄を「あったかい」と形容する木下さん。村外から地域おこし協力隊などで移住されてきた人々の中でもかなりの割合が残り、積極的に関わってくれるといいます。
木下さん:「今は田舎でもAmazonとか生協とか宅配で取り寄せができて、それほど暮らしは不便じゃないです。移住したい人には、自然がたくさんで過ごしやすいんじゃないかと思いますし、私も少しでも村がにぎやかになったらと思います。」
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きのしたベーカリーは、丹波山に根を下ろし、村やベーカリーに人々が訪れるのを心から喜んでいるように見えました。素材、製法、人柄、そのどれもが、スーパーやコンビニには代替できない役割を担っているのです。
丹波山の資源と生活リズムに寄り添いながら、温かく接してくれるこのお店に、私も既に懐かしさを感じています。
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