【教員便り】「私たちはなぜスラムに向かうのか?―1000日住み込んだ文化人類学者と学生が見た『貧困』のリアル―」写真・パネル展
佐々木 俊介(平山郁夫記念ボランティアセンター講師)
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2025年12月19日、早稲田キャンパスGCC Common Roomにて、写真・パネル展「私たちはなぜスラムに向かうのか?―1000日住み込んだ文化人類学者と学生が見た『貧困』のリアル―」を開催いたしました。年末の多忙な時期ではありましたが、学内外から多くの方々にご来場いただきましたことを、この場を借りて御礼申し上げます。
本企画は、私が研究拠点としているスラム街の現状を写真で提示するものでしたが、結果として、来場者の方々がそれぞれの視点から意見を交わす、活発な交流の場となりました。
以下、当日の様子と、主催者として感じた意義について報告いたします。
視覚情報がもたらす学生たちの反応
当日は、私が授業担当する「スラムから学ぶコミュニティ支援論」や「フィールドワークと社会貢献」の履修学生が多数来場しました。
普段の講義では、文献や言葉を通じて現地の状況を伝えていますが、写真という視覚情報が提示されることで、学生たちはまた違った側面から現地への関心を深めている様子でした。学生たちは、パネルに写された路地や人々の生活の様子を一枚一枚確認し、友人同士で活発に議論していました。教室での座学とは異なる、写真展示という形式だからこそ生まれるコミュニケーションがあり、教育的な観点からも意義深い時間となりました。
また、今回は学内の他箇所の教職員の方々にもお越しいただきました。普段は異なる部署に所属している教職員の方々にも、写真を通してスラムの現状や研究の一端に触れていただけたことは、大変嬉しい出来事でした。
中学生と大学生による対話の創出
今回の展示において特筆すべき点は、学外からの来場者、特にお父様と一緒に来場されたある中学生の存在でした。
その中学生は、非常に積極的に質問をしてくれました。スラムの生活環境や、そこに住む人々の背景についてなど、その質問は具体的なものでした。
興味深かったのは、その中学生の質問に対して、会場にいた本学の学生たちが応答していた場面です。中学生からの率直な問いに対し、学生は自身の経験を踏まえ、自分の考えを伝えていました。
中学生の質問がきっかけとなり、学生自身が「自分はどう考えるのか」を改めて整理し、話す機会が生まれていました。本イベントが、意図せずとも中学生と早大生をつなぎ、双方にとっての学びの場として機能したことは、今回の展示会の重要な成果の一つであったと捉えています。
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研究者としての気づきと、多角的な視点
教員、職員、学生、そして学外からの参加者など、多様な立場の人々が同じ展示を見て言葉を交わす状況は、私自身にとっても多くの示唆を含んでいました。
私は、スラム街での長期フィールドワークを行っています。そのため、研究成果を専門外の人々にどう伝えるか、そして受け手がそれをどう解釈するかを知ることは、研究活動を社会に還元していく上で不可欠なプロセスです。
今回の交流を通じて、アカデミアの文脈とは異なる視点からの意見や感想を数多くいただきました。所属や年齢が異なる人々との対話は、専門家としての視点を相対化し、自身の研究テーマをより多角的に捉え直すきっかけとなりました。キャンパス内やフィールドに閉じこもるだけでは得られない知見が、こうした開かれた場にはあります。
今後の展望
今回の写真・パネル展は、研究成果発信の一形態です。今後も、論文執筆や学会発表といった学術的なアウトプットと並行して、今回のような展示やその他の手法を用いながら、研究で得られた知見を広く社会に共有していきたいと考えています。
最後になりましたが、熱心に展示を見てくださった中学生とそのお父様、授業の合間を縫って参加してくれた学生たち、教職員の皆様、そして本イベントの開催にご尽力いただいた関係者の皆様に、改めて感謝申し上げます。
【参加者の声】
- 佐々木先生の豊富なフィールドワークの知見から、とても面白くスラムの現状を知ることができました。先進国に生きる人間として、スラムの生活はどこか切り離して考えてしまいがちでした。しかし、そこに住む人たちの生活はごく自然な人間の欲求に基づいていて、我々の生活とそう大きく変わらないことが分かりました。また、スラムの人々の収入が低くはない現状というのも興味深い学びでした。「貧困がお金を得るため消費されている。」国際協力にかかわることを志す人間として感じていた違和感が、それで言語化された心地がしました。
- スラムについて、正直、可哀想な方々が住んでいるイメージしかなかったのですが、スラムができてしまう要因や、その生活の中で彼らが衣食住にさほど困っていないこと、ある意味で生活の均衡が取れていることを知りました。それを変に外部が改修して壊してしまうリスクもあるということが印象的でした。
- 子どもが貧困・スラムについて興味を持っており、早稲田大学の見学も兼ねて、参加させていただきました。先生から娘に、とても懇切丁寧に説明していただき、質問にも多くの時間を割いてご回答いただき、大変有意義な時間を過ごさせていただきました。世の中の現実と虚構を知ることができ、個人的にも大変知的好奇心をくすぐられて面白い内容でした。
また、会場に来ていた学部生の方からも娘にアドバイスをいただき、大変参考になったとともに、早稲田大学の雰囲気にも娘が興味を持ったようで、大変うれしく感じました。








