【教員便り】福島スタディツアー「福島でアート」実施報告
WAVOC准教授 兵藤 智佳
■活動実施日:2025年5月5日(月)~5月6日(火)
「今の福島を自分の足で歩き、アート作品をつくるスタディツアーを実施します。」——そんな呼びかけから始まった本企画は、東北芸術工科大学との共催で行われた。
東日本大震災と福島第一原発事故から14年が経つ福島県には、いまだ帰還が困難な地域がある一方で、復興が進み、新たな営みが芽吹く場所もある。ネットやメディアのイメージではなく、自分の身体で「福島の今」を感じ、それをアートで表現することで、学生自身が伝え手となることを目的としたツアーである。
「あなたにとっての福島のイメージを一枚の色画用紙に描いてください。」
という問いかけからスタディツアーはスタートした。「福島」に行く前に参加学生が描いたのは、「会津の歴史」といった断片的な土地の知識や福島で働く友人の顔だった。福島は、2011年の東日本大震災で原発事故が起きた地域なのだけど、原発に関連するイラストを描いた学生はいない。
そんな早大生たち4名が山形にある東北芸術工科大学の学生たち4名と一緒に福島県の双葉地区や富岡地区を訪れ、足が棒になりそうなくらい「街歩き」をした。地元で活動するNPOのスタッフと一緒に自分の足で福島を感じようとした。
そして、夜には、自分たちが見たものや感じたことを「ブリコラージュの作品」にしてみた。今の福島で感じたことを言葉にするのではなく、アートで表現してみるという試みである。アートの作品づくりは、協働になるから、どうしてもみんなで「対話」しないと作業がすすまない。制作する学生たちの横で教員たちは学生たちが撮影してきた写真をせっせと印刷する。
学生たちのブリコラージュ作品の制作では、「線」がキーワードとなった。原発事故による帰宅困難地域とそうではない地域には見えない線があった。その線は「政治」や「政策」という人の力によって引かれている。それぞれの地域にも人が戻っているところと戻っていないところがあって、そこにも線がある。今の福島には廃墟もあれば、新しい住宅もある。私たちはその線をどう考えたり、描いたりできるのだろう。学生たちは、夜も夢中で作品をつくった。できた作品は、自分たちが感じた今の「福島」である。
そんな学生たちが東京に帰ってきて、もう一度、一人ひとりが「私にとっての福島」を色画用紙に描いたら、詳しい説明の文字が消えていた。そして、新たに描かれたのは、「福島の生活」を表現するイラストになって、「福島」が、人のいるイメージになった。「私たちは、なぜ、現場に行くのか」、「学生たちは何を学ぶのか」の答えのひとつがそこにあった。
かつて帰還困難区域だった地域を自らの足で歩き、現地の人々と関わり、アートという手法を通じて「今の福島」を見つめ直した2日間。東北芸術工科大学との共催により行われたこのスタディツアーは、学生たちにとって「現場に行く意味」を深く問い直す機会となった。情報ではなく体験から立ち上がるリアル。その手応えをもとに、学生たちはアートで福島を伝え始めている。