相馬御風ゆかりの地、都の西北と糸魚川
早稲田大学校歌の作詞者である相馬御風。
2023年8月11日(金)、出身地である新潟県糸魚川市にて、生誕140周年記念イベント「石塚勇 昼下がり朗読アワー」が開催されました。
冒頭で早稲田大学混声合唱団が早稲田大学校歌を披露。公演後は相馬御風記念館を訪れ、相馬御風と早稲田大学校歌について考察しました。
早稲田大学混声合唱団有志によるレポートをお届けします。
1.相馬御風の生い立ち

相馬御風(糸魚川市ウェブサイトより)
新潟県糸魚川市出身。自らの出身校である早稲田大学校歌「都の西北」、日本初の流行歌「カチューシャの唄」、童謡「春よ来い」など、現在も日本で愛されている数々の名曲を生み出した相馬御風は、歌人、詩人、作詞家、翻訳家など文芸全般を網羅し、稀代の文人として幅広い活躍をされました。
その活躍は文芸にとどまらず、日本にヒスイの産地がないとされていた当時、糸魚川市でヒスイが発見されたのは、「糸魚川市にヒスイがあるのではないか」という相馬御風の一言がきっかけだったそうです。
相馬御風が作詞した曲の一覧、特に童謡や歌謡曲の一覧を拝見すると、春夏秋冬を詠んだ詩が多く散見されますが、糸魚川市では毎日夕方5時から、季節に合わせ相馬御風が作詞した曲のチャイムが流されています。2月から4月は「春よ来い」、4月から7月は「ふるさと」、7月から9月は「夏の雲」、9月から2月は「カチューシャの唄」がそれぞれ選ばれています。相馬御風の数多の名曲は今なお郷土糸魚川市に根付き、愛され、その春夏秋冬を彩っているのです。
2.早稲田大学校歌「都の西北」
相馬御風は新潟県外約70の学校、県内に至っては140以上の学校の校歌の作詞に関わっていますが、その中でも最も有名な校歌の内の一つが、我らが早稲田大学校歌である通称『都の西北』です。『都の西北』は1907年、相馬御風が24歳の時に、母校であった早稲田大学創立25周年を記念して作詞された曲で、作詞から100年以上経った今でも早稲田の愛唱歌として入学式や卒業式などの公式のイベントだけでなく、応援歌としても演奏され、早稲田の学生にとって最も馴染みの深い楽曲です。
この『都の西北』は,大正時代は大会や行事に用いられるだけにとどまらないほどの人気がありました。この曲は普通の食卓や電車の中でもかけられ、あらゆるものの応援歌として知らぬものはほとんどいないほど盛んに歌われました。
相馬御風がご自身で「早稻田大學新聞」に「校歌『都の西北』と私」という表題で掲載された記事の中にも「作者たる私には格別のなつかしさのあることはいなめない」、「しかし今日ではそれが自身の作つた歌であるといふやうなゝつかしみを超えて、私を亢奮させる」と書かれているように、この曲が彼にとって校歌の処女作であることや彼が早稲田に強い愛校心をもっていることもあり、非常に印象深い曲となっています。
3.糸魚川市、そして相馬御風に寄せて
まずは、早稲田大学校歌の作詞者である相馬御風の故郷である、糸魚川という地で校歌を演奏するという機会に恵まれたことに感謝申し上げます。糸魚川は相馬御風の創作の源泉ともいえる場所であり、実際にその地を訪れ、雄大な自然に囲まれ、心地よい風や太陽の光を浴び、僅かではあるものの追体験のようなものができたことで、単なる文章ではなく心で感じる「詩」として、より感銘を受けました。
早稲田大学校歌は、我々早稲田大学混声合唱団にとっては、事あるごとに何気なく歌っている曲でしたが、こういった機会を経て、改めてその歌詞や内容に触れたことで、さらに親しみ深い存在となりました。
個人的な感想ではありますが、早稲田大学校歌は1番から3番まで全体を通して、まず早稲田大学を取り巻く環境や自然の情景描写に始まり、段々そこにいる人の意思や理想といったものにフォーカスしていき、大学の威光や素晴らしさを表現するという構成になっており、最初に物理的に雄大なものを引き合いに出すことで、それに対応する人の「心」もまた雄大であることを表現しているように感じました。
1番から3番まで全ての歌詞に登場する「理想」という言葉は、まさに歌詞中で最も表現したいことと言え、学生たちがそれぞれ描く「理想」が、やがて大学全体としての「理想」につながっていく、そういったことを表現したいのではないかと思います。
相馬御風が作詞したこの歌詞は、もちろん糸魚川に直接関連する内容ではないものの、彼の作品で度々登場するような細かい人物描写や美しい自然描写といったものは、間違いなく故郷での体験に潜在的な影響を受けているはずであり、それが早稲田大学校歌にも表れているといえるでしょう。
歌、というものは始めそのメロディーやリズムといったものでその雰囲気を感じ取り、そしてその歌詞を聞いて理解し、その曲の深みに触れる、というものだと感じております。今回の体験は、我々に歌における歌詞の重要性というものを再認識させてくれるものであり、一合唱人としても貴重な経験となりました。
今回のイベントは、糸魚川や相馬御風の歴史について感銘を覚えるとともに、「われらが母校」である早稲田大学にも思いを馳せる結果となりました。早稲田大学の学生であれば皆知っているであろう校歌について、こうして深く考えることができたというのは他の学生にはない経験であると感じます。
このような貴重な機会を与えてくださった糸魚川市の方々に、再び感謝申し上げます。ありがとうございました。