【開催レポート】まつだいスタディツアー「アートを支える」
学生リーダー 菊池侑大
2023年8月3日から4日に、新潟県十日町市まつだい地区で「まつだいスタディツアー『アートを支える』」を実施しました。7名の学生が、里山のハイキングや屋外にある美術品のメンテナンスを行いました。以下はその開催レポートです。
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一日目
トンネルを抜けるとそこは里山であった―――ついそう書き始めたくなってしまいます。私たちは電車に揺られながら、新潟県十日町市のまつだい地区に向かっています。越後湯沢駅で乗り換えたローカル線の窓の外には、青々とした稲が見えます。
私たちが降車したまつだい地区は、日本で初めてのアートトリエンナーレの舞台として有名です。草間彌生やイリヤ & エミリア・カバコフなどの手による作品が、緑豊かな里山の中に展示されています。「大地の芸術祭」というイベントの期間には、海外からの観光客も増えるそうです。この里山でアートを「支える」視点を学ぶことが、今回のスタディツアーの目的です。
参加者の顔合わせを終えると、私たちは里山のハイキングに向かいました。展示されている作品を鑑賞することで、作品への理解を深めるためです。山の頂上付近にある「松代城」からスタートし、道の傍らや林の中に置かれた美術品を見て回りました。
どの美術品も、地形や植生といった土地の条件と上手く適合したものになっています。私が特に注目した作品は『観測所』という作品です。両耳をパイプにあてて、一方からは田んぼの音を、もう一方からは空の音を聞くという体験ができます。私が耳を当てた時は、両方から曖昧な音が聞こえてきました。季節によって聞こえる音が違うのではないかと思うと、この時耳にしたのは「夏ならではの音」だったのかもしれません。
ハイキング鑑賞の後は、「農舞台」という施設で働いている竹中さんに質問をしました。参加者からは作品を維持していく工夫についての質問が挙がりました。一年間の作業スケジュールや、スタッフが協力して作品の環境を維持することの大変さを教えてくださいました。
その後、私たちは「まつだい棚田ハウス」という、かつての中学校の冬季宿舎を改装した施設に宿泊しました。地元で採れた食材を使ったご飯をいただき、ハイキングでたまった疲労を癒しました。
二日目
2日目は、朝から里山の作品をメンテナンスするボランティアを実施しました。今回の対象は『夏の三日月』という作品です。里山の中に置かれた、三日月に似た形をした物体です。私たちは手作業で表面に付いた苔を落とし、作家がもともと意図していた作品の構図を復活させようと試みました。
メンテナンスでとりわけ大変だったのが、水の運搬です。最後に高圧洗浄機で表面の苔を洗い流す作業があったのですが、作品が置かれている林の中には水道がありません。そのため、重い水のタンクを何度も運搬する必要がありました。草が茂る坂道をなんとか登り、運んだ水で汚れを落としていきました。
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作業は午前と午後に分けて行われ、最後にはかなりの量の苔を落とすことができました。清掃前に比べて、林の中で作品の輪郭が明確になっていることが分かります。(上が作業前、下が作業後)

作業前

作業後
昼食の時間には、「農舞台」にある里山食堂で現地の方とお話をしました。冬には3メートルもの雪が積もること、地域に若い人が少なくなっていることなどを聞き、まつだいを「アート」のみならず、それを維持する「地域」という観点で見つめることを学びました。
<スタディツアーを終えて>
当初の目的である「アートを支える視点を学ぶ」を達成することができた二日間でした。自分で手を動かしたりお話を伺ったりしているうちに、「まつだいに置かれているアート」から「まつだいという地域」に私の関心が移っていきました。それはまつだいという地域があって初めて、アートが維持され、芸術祭が続いていくという実感があったからです。これまでの私は、作品そのものだけに注目していたのですが、この気づきを得てからは、どのような方法でアートを維持していく場所や環境を作れるかを考える重要性を理解しました。街中にある美術館や博物館を訪れた時も、この「アートを支える」というまなざしをを忘れないようにしたいです。