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原始生命を模した分子進化実験で絶滅に向かう進化を観察

原始生命を模した分子進化実験で絶滅に向かう進化を観察
~絶滅から知る生命の起源の条件~

発表のポイント

  • これまでの研究から、原始生命体を模した自己複製RNAを実験室で進化させると、寄生型のRNAが出現し、それとの共進化を通して自発的に複数のRNAに多様化することが知られていた。
  • しかし、頻繁にRNAどうしが混ざる環境で進化実験を行うと、宿主RNAの複製は寄生型のRNAによって阻害されやすくなり、その結果、RNAは多様性を失い、さらにより絶滅しやすくなるように進化することが分かった。
  • 本研究は、原始生命体が多様化し絶滅せずに現存生命へ進化していくためには、RNAどうしが混ざりにくい環境が必要だということを示唆する。

概要

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻の湯川香東大学院生(博士課程)、市橋伯一教授(兼:同研究科附属先進科学研究機構/同大学生物普遍性連携研究機構)、早稲田大学理工学術院先進理工学部の水内良准教授らは、人工的に構築したRNA分子の自己複製システムが実験条件によっては絶滅しやすくなる方向へと進化(注1)することを明らかにしました。

生命がどうやって原始の自己複製分子から進化したのかを理解するには、実験室で分子を進化させてみる進化実験(注2)が効果的な手法となります。発表者らはこれまでに、自己複製するRNA(注3)を実験室で進化させると、寄生型RNAとの共進化(注4)を通して自発的に多様化し、絶滅することなく安定して進化し続けることを見出しました。本研究では、これまでとは異なり、フローリアクター(注5)を利用してRNAどうしが頻繁に混ざり合うような条件での進化実験を約5000時間にわたって行ったところ、もともとあった多様性が失われ、さらにRNAはより絶滅しやすくなるように進化することを見出しました。このような対照的な進化の結果は、フローリアクターの分子どうしが頻繁に混ざる環境によって引き起こされたと推察されました。この結果から発表者らは、原始生命体(注6)が多様化し絶滅することなく持続的に複製し続けて現在の生命へと進化していくには、RNAの複製に対してRNAどうしの混ぜ合わせが遅いような環境が必要だったと考えています。この成果は、生命誕生の条件のひとつを明らかにしたものだと考えられます。

本研究成果は、2026年5月8日(日本時間13時)に英国科学誌「Molecular Biology and Evolution」で公開されます。

発表内容

研究の背景と経緯

現在、生物の中では多様な機能を持つ多数の分子が協調して働いています。しかし太古の昔に生命が誕生したときには、まず生物の最も基本的な機能である、自分と同じものを増やす「複製」を行うRNAやタンパク質のような単純な分子が最初に出現したと考えられています。この複製する分子から、どのように多様な機能、複雑さが出現することができたのかはまだ大きな謎となっています。生命誕生以前の進化は化石にも残らないため、それを理解するための方法として、人工的に分子を進化させて疑似的にかつて起きたかもしれない進化を観察する進化実験が効果的です。

これまでに、タンパク質とRNAを用いた進化実験[図1]によって、複製する分子の進化に寄生体が重要な役割を果たすことが明らかになってきました。寄生体とは、生物においてはほかの生物(宿主)と共存しながらそれを利用して生きるもののことで、ウイルスや寄生虫をはじめ、多くの生物がこの戦略を取っています。これまでに行われた自己複製RNAの進化実験でもこうした寄生型のRNAが現れました。しかし、適切な環境を与えることで宿主と寄生体は共存することができ、互いに競争することを通して宿主・寄生体のそれぞれが複数種類の異なるRNAに分かれ、それらが共存するようになりました。これは、宿主-寄生体競争が、複製する分子をより複雑に、生命らしく進化させる原動力である可能性を示しています。しかし、寄生体は宿主に害を与えるものでもあります。どんな場合に、寄生体は分子を複雑化させる働きをするのでしょうか?

 

RNA複製酵素の情報を持つ宿主RNAから、タンパク質を合成(翻訳)するのに必要な成分を含んだ反応液によってRNA複製酵素が作られる。また、宿主RNAからはランダムにRNA配列の一部が失われ、複製酵素を作ることのできない寄生体RNAが生じる。複製酵素は宿主RNAと寄生体RNAの両方を複製する。

研究の内容

本研究では、これまでに行ってきた進化実験の途中のRNA集団を分岐させて、フローリアクターを用いて進化実験を行いました。これまでの進化実験中にはRNAは多様化し、さらに240回以上の継代を経てもRNA複製は安定して維持されていましたが、今回の進化実験では、これまでとは全く異なり、もともとあったRNAの多様性が失われ、また進化が進むにつれてたびたびRNAが絶滅するようになってしまいました[図2中・下段、図3]。複製分子がこのような進化をした場合には、生命には至りそうにありません。

これまでと今回の進化実験の違いを詳しく見てみます。これらの進化実験はどちらも、宿主と寄生体を共存させるために、区画化という手法を使っています。RNA複製を行う反応液は水であるため、油とは混ざりません。そこで、油の中の小さな水滴として分散させることで、簡単に細胞のような多数の区画にRNAを分けることができます。こうすることで、宿主RNAは、寄生体の効果によって数が少なくなると多数の区画に分散されることで寄生体から逃れることができます。その結果、RNAの濃度が振動するのがこの進化実験の特徴です。

2つの進化実験は、区画の一部だけを次の世代に残し、混ぜて新しい区画に分散させる方法において異なっています。多様化が起きたこれまでの進化実験は手動によるものでした。5時間のRNA複製反応ごとに全体の20%をRNAを含まない新しい反応液に移して混ぜ合わせていました(植え継ぎ)。これに対し今回は、継代を自動化するためにフローリアクター式を導入しました。こちらでは、反応液は常にゆっくりと流れ続け、その中で少しずつかき混ぜられています[図2上段]。この方法では今までの手動のやり方よりも、区画のあいだでRNAが頻繁に混ざり合うようになります。

植え継ぎ法では、5時間のRNA複製反応の後に一部を新しい反応液に移し、かく拌する。フローリアクター法では、常に反応液は少しずつ流れ続け、反応槽の中も常にかき混ぜられている。植え継ぎ法では3種類の宿主RNA(HL1~3)と2種類の寄生体RNA(PL2~3)が出現し、共存した。フローリアクター法では、1種類の宿主RNAと1種類の寄生体RNAのみになった。また、植え継ぎ法ではRNAは絶滅しなかったのに対し、フローリアクター法では複数回の絶滅が観察された。赤いバツ印が絶滅が起きた点を示す。

進化実験中の複数のラウンドからその時点に存在するRNAをサンプリングし、その塩基配列から分子系統樹(注7)を構築した。異なる種類のRNAは異なる色で示している。フローリアクター法による進化実験は植え継ぎ法による進化実験の途中のRNAサンプルから開始した。植え継ぎ法で出現したRNA配列は点線で、フローリアクター法移行後に出現したRNAは実線で示されている。

この違いがどのように進化の結果を変えたのかを調べるため、区画間でのRNAの混ぜ合わせの頻度を変えて短い継代実験を行いました。混ぜ合わせの頻度を変えるために、RNAを含む区画を次の世代に移すまでの時間とそのときの移す割合を変えて、進化実験から得られた5種類のRNA(3種類の宿主RNAと2種類の寄生体RNA)を使って50回程度の継代を行ったところ、植え継ぎ法に近い条件(混ぜ合わせの頻度が低い条件)では宿主と寄生体のどちらも2種類ずつ、計4種類のRNAが共存できましたが、フローリアクター法に近い短い条件(混ぜ合わせの頻度が高い条件)では、宿主と寄生体のどちらも1種類ずつ、計2種類のRNAしか生き残りませんでした[図4]。この結果は、区画間でのRNAの混ぜ合わせが頻繁だと、RNAの多様性は維持できないことを示しています。

希釈までの時間と希釈の割合を変えて5種類のRNAを植え継いだ。植え継ぎ法に近い条件では、5種類のうち4種類のRNAが共存した。フローリアクター法に近い条件では、2種類のみになった。

次にRNAの絶滅について調べました。絶滅は、直接的にはRNAの分子数が振動の中で極端に少なくなると、反応液の中から確率的にすべての宿主RNAが取り除かれてしまうために起こると考えられます。そこで、どのような要素がRNAの濃度振動を激しくし、濃度を小さくするのかを調べました。まず、フローリアクター法における頻繁な混ぜ合わせの条件そのものがRNA濃度を下げる効果がありました。宿主RNAが十分に増えるためには、寄生体RNAから隔離された環境が重要です。頻繁に区画どうしが混ざり合うと、寄生体が広がりやすくなり、宿主だけの区画にも寄生体がすぐに侵入してしまいます。それによって寄生体が十分に少なくなるまで宿主がよく増えることができずに宿主RNAの濃度が下がってしまうと考えられます。

また、進化実験中に現れたRNAの性質を調べてみると、RNA自体も進化により絶滅しやすい性質へと変化していました[図5]。これには、寄生体が宿主に対して適応する効果とともに、宿主側が自分の複製に不利な性質を獲得してしまったことも影響していました。こうした宿主に不利な性質は、濃度振動が激しくなり、一時的に宿主RNAの分子数が極端に小さくなった場合に、遺伝的浮動(注8)により偶然獲得されてしまった可能性があります。フローリアクター法の進化実験において、RNA濃度が低くなったことがさらに絶滅しやすい方向への進化を起こしてしまったと考えられます。

フローリアクター法によるRNA進化実験の進化前と進化後の宿主・寄生体RNAを、30分ごとに50%希釈する条件で3または4回植え継いだ。進化後のほうがRNA濃度がより低下するようになった。

まとめると、フローリアクター法という宿主と寄生体が混ざりやすい環境は、宿主RNAの複製を阻害しやすく、それがRNA濃度の低下とRNA多様性の減少のどちらにもつながります。また、宿主RNAの多様性が減少すると、寄生体の進化に対応しきれなくなり、宿主RNAはさらに濃度を低下しやすくなります。こうした濃度低下により、宿主RNAは遺伝的浮動による有害な変異の蓄積を起こしやすくなります。これはさらなるRNA濃度の低下につながり、結果的にRNAが絶滅してしまうほどにRNA濃度を下げてしまいます [図6]。つまり、自己複製RNA分子の混ぜ合わせの頻度によって、自己複製分子は多様化し、安定して進化する場合もあれば、多様化せずに絶滅へ向かって進化する場合もあるということになります。従来の生命の起源のシナリオでは、進化する能力を持つ自己複製分子が生まれれば、自然に生命へと進化すると想定されていましたが、本研究によって、話はそれほど簡単ではなく、条件によっては絶滅方向へ進化してしまう場合もあることが明らかになりました。

今後の展開

本研究によって、様々な場所が提案されている生命の起源の場所の候補について、新たにそこで起きる分子の区画化反応の条件を提案することができました。たとえば、原始的な環境での分子の反応においては、寒冷と温暖や乾燥と湿潤を繰り返すようなサイクルがその反応を促進した可能性が示唆されています。これらの区切りのあるようなサイクルで分子どうしが区画化される場合、それは植え継ぎ法に近いような長い反応時間を維持できる条件かもしれません。

植え継ぎ法による進化実験は現在も継続されており、宿主RNAと寄生体RNAが共存しながらさらなる進化が起きています。さらに複雑に協力しあうような進化が起きるのか、宿主や寄生体が新たな機能を獲得するのかなど、進化を通してより生命らしくなっていく様子が観察できることを期待しています。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻
湯川 香東 大学院生(博士課程)
市橋 伯一 教授
兼:同研究科附属先進科学研究機構 教授/同大学生物普遍性連携研究機構 教授

早稲田大学理工学術院先進理工学部
水内 良 准教授

論文情報

雑誌名:Molecular Biology and Evolution
題 名:Experimental evolution toward extinction in a molecular host-parasite system
著者名:Kohtoh Yukawa, Tomoaki Yoshiyama, Ryo Mizuuchi, Norikazu Ichihashi
DOI: 10.1093/molbev/msag084
URL: https://doi.org/10.1093/molbev/msag084

用語解説

(注1) 進化
集団の中で、個体に少しずつ差異が生まれ(変異)、その差によって次世代への生き残りやすさが変化し、差異が子に遺伝することを繰り返して集団が変化していくこと。ここでは特に、RNA配列に変異が生じ、それによって増えやすさなどに差が生じてRNA集団の持つ配列が変化するというダーウィン進化をさす。

(注2) 進化実験
進化を人為的に起こす実験。生物や分子の集団を用意し、集団の一部を選択し、場合によっては人為的に変異を加えて複製し、選択することを繰り返す。選択において、特定の性質を持つものを人為的に選抜する場合には指向性進化実験といい、選択を加えず増えやすいものが増えることを繰り返す場合にダーウィン進化実験という。

(注3)自己複製するRNA
本研究においては、自己複製するRNAとして大腸菌に感染するQβファージというウイルスを元としたRNAを用いている。このウイルスは大腸菌に感染し、菌内部で自身のRNAから大腸菌の持つ因子を利用して自身を複製するRNA複製酵素というタンパク質を作る。このRNA複製酵素の情報を持つRNAを、大腸菌から作られたタンパク質合成に必要な成分を含んだ再構成翻訳系に添加することで、RNA複製が起きる。

(注4)共進化
異なる生物が互いに影響を与え合って連動しながら進化すること。たとえば花と花粉を媒介する昆虫や鳥が互いにその種に専門化していくような相利的な共進化もあれば、被食者と捕食者が互いに相手への対抗策を進化させるような敵対的な共進化もある。

(注5) フローリアクター
連続的に反応液が流れ続ける空間の中で化学反応を行う装置のこと。反応中の環境を一定に保つことができる。

(注6)原始生命体
現在の生命は、DNA(デオキシリボ核酸)に生物の設計図となるゲノム情報を保持し、その情報がRNA(リボ核酸)を介してタンパク質として現れ、機能を持つというしくみになっている。しかし、このようなしくみが生まれる前の原始的な生命においては、情報の保持と機能のどちらの役割も果たすことができるRNAが、自身で自身を複製する自己複製を行っていたと考えられている(RNAワールド仮説)。今回用いた自己複製RNAはタンパク質の翻訳を介して初めて複製ができるので、RNAワールドの自己複製体ではないが、自己複製する点においては同じ機能を持っているため、原始の自己複製体の実験モデルとして用いている。

(注7)分子系統樹

DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列の類似性から、生物や生物の持つ配列の進化の歴史を樹状の図として示したもの。系統樹では、配列が近いものほど近くの枝に配置される。

(注8)遺伝的浮動

生物と自己複製RNA分子のいずれの場合においても、適応進化過程では生存や複製に有利な変異が自然選択によって集団内に固定される。しかし、生存や複製に有利でない場合でも、特に集団の数が少なくなると偶然によって集団内に固定されることがある。こうした偶然による集団内での変異の頻度変化は遺伝的浮動と呼ばれる。

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