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光で操る「ナノ温度スイッチ」を実現

光で操る「ナノ温度スイッチ」を実現
~光の右回り・左回りで熱分布を書き換える~

研究成果のポイント

  • 一般的に、金属の微細構造に光を照射すると、その表面は均等に熱くなる(等温)
  • 本研究では、「窒化チタン」のナノ構造に、右回りまたは左回りの円偏光を照射すると、ナノ構造表面に「全く異なる温度パターン」が現れることを実証した
  • ナノメートル領域の熱を、「光の色」や「偏光」で操る新しい手法として、化学反応の局所的な制御や、微小な液体の流れ・物質輸送を操る新しい技術へと応用することが期待される

ナノメートルサイズの金属構造が光によって加熱される現象は、化学反応の局所制御や医療応用、エネルギー変換など、幅広い分野で注目されています。これまで、金属のナノ構造は、光を当てると表面全体が等温になると考えられてきました。
しかし今回、兵庫県立大学大学院工学研究科の瀬戸浦健仁准教授、東北大学多元物質科学研究所の押切友也准教授、関西学院大学理学部の田村守専任講師、早稲田大学先進理工学研究科の森田賢さん(博士後期課程)および同大学理工学術院の井村考平教授、北海学園大学工学部の藤原英樹教授、国立研究開発法人物質・材料研究機構の石井智チームリーダー、北海道大学大学院総合化学院の藤井優祐さん(博士前期課程)および同大学電子科学研究所の松尾保孝教授、そして大阪公立大学大学院理学研究科/LAC-SYS研究所の飯田琢也教授/所長のグループが実施した共同研究では、「窒化チタン」という材料でナノ構造を作ることで、光の「右回り・左回り」という偏光回転の違いだけで、ナノ構造表面に全く異なる温度パターンが現れることを明らかにしました。
このような温度パターンの切り替えは、ナノスケールでの加熱位置や加熱強度を光だけで制御できることを意味します。これは、化学反応の局所的な制御や、微小な液体の流れ・物質輸送を操る新しい技術につながると期待されます。
本研究成果は、アメリカ化学会の学術誌「Nano Letters」に2025年12月22日付で掲載されました。

研究の背景

金属をナノメートルサイズの微粒子にして光を照射すると、ナノ粒子が光を強く吸収して発熱する「プラズモン加熱」という現象が起こります。多くの金属の中でも、金のナノ粒子は、光から熱への高いエネルギー変換効率を示すことが知られています。図1に、プラスチックボトルに入った金ナノ粒子のコロイド水溶液を示します。金の色は、本来は文字通り「黄金色」ですが、ナノ粒子になると、電子が集団でいっせいに振動する「局在プラズモン」が強く光を吸収するため、図のように鮮やかな赤色を呈します(この溶液中には、数百億個のナノ粒子が分散しています)。これまで金ナノ粒子のプラズモン加熱は、がん細胞の光温熱治療や熱化学反応の局所パターニング、そして局所的な液体の流れ制御への応用が進められてきました。
プラズモン加熱の研究において、ひとつの常識となっていたのが、「光で加熱されているナノ粒子の表面は、完全に等温になる」というものでした。そもそも金は、多くの金属の中でも特に熱の伝導性が良いので、非常に小さなナノ粒子の表面では「温度差が生じるはずがない」とされてきました。

研究成果の内容

本研究グループでは、「ナノ粒子の表面の狙った箇所だけを、光によって選択的に加熱する」ことができれば、新たなブレイクスルーになると考えてきました。

これを実現する鍵として見出したのが、「窒化チタン」という材料です。この材料は、図2に示すように、金と良く似た黄金色の金属光沢を示すため、ナノ粒子にすればプラズモン加熱に利用可能です。そして最も重要な点は、この窒化チタンの熱の伝導性が、金の1/10以下であることです。熱の伝導性が低い材料でできたナノ構造に光を照射すると、「局在プラズモン」という電子の波の振動パターンが、ナノ構造の表面温度分布にくっきりと転写されるはずであると予測しました。
このアイデアを実証するために、図3の左側に示すように、窒化チタンを材料とする全長 800 nmのS字ナノ構造を、数値シミュレーションによって設計しました(人間の髪の毛の直径が80 μmなので、S字ナノ構造の全長はその1/100です)。このS字ナノ構造にレーザー照射する際に、光の波長や強度は固定したままで、円偏光の回転方向だけを「右回り・左回り」で変えると、図3中央のカラーマップで示されているように、ナノ構造の表面に、「全く異なる温度パターン」が現れることが、シミュレーションで示唆されました。
このシミュレーションを検証するために、半導体の微細加工に用いられる電子線リソグラフィなどの技術によってS字ナノ構造を実際に作製し、レーザー照射による実証実験を行いました。実験では、熱反応によって生成物が形成する「酸化亜鉛の水熱合成」を、このS字ナノ構造へのレーザー照射によって誘起したところ、図3の右側の電子顕微鏡画像に示す通り、シミュレーションと一致する結果が得られました。つまり、窒化チタンという材料を用いることで、光によって「ナノ構造の狙った場所だけを加熱する」ことが可能であることが実証されました。

今後の期待

これまでのプラズモン加熱の常識を打ち破って、「光の色や偏光を変えるだけ」で、ナノメートルという微小領域の温度パターンを自在に造形できることが示されました。この成果は、化学反応の局所的な制御や、微小な液体の流れ・物質輸送を操る新しい技術につながると期待されます。

論文情報

タイトル:Chiral Plasmonic Surface Temperature Switching by Several Tens of Kelvins in Titanium Nitride Nanostructures
著者:Kenji Setoura, Tomoya Oshikiri, Mamoru Tamura, Ken Morita, Hideki Fujiwara, Satoshi Ishii, Yusuke Fujii, Yasutaka Matsuo, Takuya Iida, and Kohei Imura
掲載誌:Nano Letters
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.nanolett.5c05212 (2025年12月22日公開)

謝辞

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費(JP23K04561, JP25H01633, JP22H05131, JP23H01916, JP25K22238, JP25H00828, JP24K08282, JP25H01627, JP23K26518, JP24K21723, JP25H00421, JP23H01927, JP25H01637)、マテリアル先端リサーチインフラ事業(JPMXP1224HK0169)および国立研究開発法人科学技術振興機構(JST, JPMJFR2139, JPMJMI21G1)の支援を受けて実施しました。

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