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海底熱水噴出孔における「深海発電現象」を解明

海底熱水噴出孔における「深海発電現象」を解明
―チムニーの発達が熱から電気への変換を促進―

発表のポイント

  • 深海の熱水噴出孔に形成される硫化物チムニー(注1が、熱を電気に変える自然の発電装置として働くことを発見しました。
  • チムニーは形成初期には電気を通しませんが、成長すると電気を通すようになり、チムニー内外の温度差によって、電子が海水側へ自然に移動します。
  • チムニー発達に伴う構成鉱物の割合や温度構造の変化によって、深海底に電気エネルギーが供給される仕組みが自発的に生まれます。

概要

深海底の熱水噴出孔では300˚Cを超える熱水が冷たい海水に噴き出し、硫化鉱物や硫酸塩鉱物からなる「チムニー」と呼ばれる柱状の構造が作られています(図1)。これまで、熱水と海水の化学的な違いによって電気が生まれる可能性は指摘されてきましたが、熱水の温度の役割はわかっていませんでした。

東北大学大学院環境科学研究科の岡本敦教授、早稲田大学理工学術院の野崎達生教授らの研究グループは、伊豆・小笠原海域の深海底から採取したチムニー試料について、内部の構造や電気的な性質を詳しく調べました(図2)。その結果、チムニー形成初期には電気を通しませんが、チムニーが成長して成熟するにつれて、鉄や銅、鉛などを含む電気を通しやすい硫化鉱物が、熱水の通り道に沿って膜のように作られることがわかりました。さらに、これらの硫化鉱物は熱を電気に変える性質を持ち、チムニー壁内外の温度差によって、電子が熱水側から海水側へ流れることがわかりました。このことは、チムニーが成長していくある段階で、深海底で自然に発電する仕組みが作られることを示しています(図3)。今後、深海底の生物を支えるエネルギー供給の理解や、噴き出す熱水の熱を利用した発電技術の研究につながると期待されます。

本成果は2026年1月8日、米国地質学会が発行する学術誌Geologyに掲載されました。

研究の背景

日本近海を含む世界の深海底には、300℃を超える熱水が噴き出す場所が数多く存在しています。これらの熱水噴出孔では、電子を放しやすい高温で還元的な熱水が、電子を受け取りやすい冷たく酸化的な海水と接することで、硫化鉱物や硫酸塩鉱物の微粒子が沈殿し、チムニーと呼ばれる煙突状の構造が形成されます。近年、熱水と海水の化学的な性質(酸化還元状態)(注2の違いによって、チムニー壁を通じて熱水から海水に電子が移動する、つまり自然に発電が起こる可能性が指摘されています。

一方、チムニーを構成する硫化鉱物は半導体(注3)であり、半導体の特徴として、熱を電気に変える熱電変換(注4)性能を持っています。これまで熱電材料にはビスマスやテルルなどの希少元素が使われてきましたが、近年は銅を含む天然硫化物が、環境に優しい持続可能な材料として注目されています。深海底のチムニーには、主に銅、鉄、鉛、亜鉛などで構成されるさまざまな硫化鉱物が含まれています。しかし、成長段階や生成環境によってその種類や構造・組織が変化するため、この熱電変換が深海の発電現象にどのように関わるのかは、これまで詳しく調べられていませんでした。

今回の取り組み

本研究では、伊豆・小笠原海域の水深約700-1300メートルにある熱水噴出孔(明神礁カルデラ、明神海丘)から、硫化鉱物や硫酸塩鉱物でできたチムニー試料を採取し、鉱物の構造や電気特性を詳しく調べました(図1A)。海底では、チムニーから活発に熱水が噴き出しており、表面にはカニやゴカイなどが生息しています。今回の測定では、熱水の温度は最大で238℃に達していました(図1B)。一方、熱水活動を終えたデッドチムニーは黒っぽい表面で生物は見られず、内部にはオレンジ色を呈する部分が確認できました。断面を観察すると、チムニーはさまざまな硫化鉱物や硫酸塩鉱物でできていることが分かりました。形成初期の若いチムニーは、バリウム硫酸塩鉱物(重晶石、BaSO4)の平板状結晶が主体で、多くの空隙を持ち、微小な亜鉛の硫化鉱物(閃亜鉛鉱、ZnS)が点在していました(図1C)。形成中期のチムニーは、主に閃亜鉛鉱で構成され、空隙が少なく緻密な構造になります(図1D)。より成熟したチムニーでは、基質部分は閃亜鉛鉱が主体ですが、直径数ミリ~センチメートル規模の熱水流路(空隙)の周りには、銅・鉄・鉛からなる硫化鉱物(黄銅鉱CuFeS2や方鉛鉱PbS)の薄くて緻密な層が形成されていました(図1E, F)。この構造から、チムニーは成長の段階に応じて、まず重晶石などの硫酸塩鉱物が析出し、次に亜鉛の硫化鉱物が沈殿し、さらに内部温度が高くなると銅・鉄・鉛の硫化物が生成していることが示唆されます。

チムニーは、細かな鉱物粒子が混ざった複雑な構造を持っているため、まず、チムニーを構成する代表的な硫化鉱物の鉱物標本について、電気伝導度とゼーベック係数(温度差による熱起電力を示す値)(注5を測定しました(図2A)。その結果、閃亜鉛鉱は電気をほとんど通さないのに対し、黄鉄鉱、黄銅鉱、方鉛鉱は電気伝導度が高く、電子をキャリアとするn型半導体であることが分かりました。同様にチムニー試料を測定すると、重晶石や閃亜鉛鉱が主体の若いチムニーは電気を通さず、成熟したチムニーの熱水流路周りに生成した黄銅鉱や方鉛鉱の層では、電気伝導度が高く、n型半導体であることが確認されました(図2B)。ゼーベック係数はおよそ-40 µV/Kから-600 µV/Kの値を示し、この領域では、熱電変換の性能を示すパワーファクター(注6が5桁以上も高いことが分かりました。

これまでのチムニーの構造と電気特性を合わせて考えると、チムニーは、銅・鉄・鉛などからなる硫化鉱物のネットワークが形成される、特定の成長時期に発電する可能性があることが示唆されます(図3A)。チムニー形成の初期段階では、硫酸塩鉱物が析出した後、閃亜鉛鉱を中心とする構造に変化します。この段階では、チムニー壁は電気を通さないため、熱起電力はほとんど発生しません。しかし、チムニーが成長して熱水と海水が隔てられると、内部温度が上昇し、黄銅鉱や方鉛鉱などが熱水流路周囲に形成されます。これらの層は薄くても、3次元的に熱水流路の表面を膜のように覆うため、大きな温度勾配が生じ、電子を熱水側から海水側に運ぶことができます。例えば、200~300℃の温度差がある場合、熱起電力は10~210 mVに達し、熱水と海水の酸化還元による電位差(約500 mV)に匹敵する大きさです。このような電位差は、チムニー内部で熱水が電子を放出する反応(例:硫化水素が硫黄に変化)や、外側で海水が電子を受け取る反応(例:酸素が水になる反応)を通じて、電気を生み出すと考えられます。つまり、熱起電力が加わることで、チムニーの内と外における熱水と海水の中でそれぞれに起こる化学的な反応を妨げていたエネルギーの壁を越え、電子をやり取りする反応を促進する役割を果たしているのです(図3B)。さらに、チムニーを構成する硫化鉱物の種類は地質環境によって変わるため、沖縄トラフや東太平洋中央海嶺のようにより深く高温の熱水が噴き出す場所では、より大きな発電が起こっている可能性があります。

今後の展開

本研究では、海底熱水噴出孔で形成されるチムニーが、構成鉱物の変化と温度上昇に伴って、成長の特定の時期に自発的に発電することを明らかにしました。チムニーの内側と外側では、電子のやり取りによって、さまざまな有機・無機の化学反応が進むと考えられます。今後は、深海での発電現象がどのような化学反応を引き起こし、深海底の生態系にどのようにエネルギーを供給しているのかを明らかにする研究が期待されます。さらに、今回の成果は、深海底の熱エネルギーを電気に変換する技術開発につながる可能性もあり、深海資源の利用や新しいエネルギー技術の研究に役立つことが期待されます。

図1. 伊豆・小笠原海域の熱水噴出孔のチムニーの産状と鉱物組織。(A)水深1332mの海底で観察される活発に熱水を噴出しているチムニー。(B)海底で熱水の温度計測をしている様子。熱水噴出孔の周辺にカニが生息している。(C)若いチムニーの電子顕微鏡写真。重晶石に富み空隙が多い。(D)閃亜鉛鉱が主体の緻密なチムニー。(E, F)成熟したチムニー試料の断面の写真(E)とその電子顕微鏡写真(F)。熱水流路周りに黄銅鉱に富む層ができている。電子顕微鏡写真の黒色部分は熱水流路(空隙)を示す。

図2. 硫化鉱物とチムニーの電気特性。(A)代表的な硫化鉱物のゼーベック係数。黄鉄鉱、黄銅鉱、方鉛鉱は全て、ゼーベック係数が負の値を持つため、電子をキャリアとするn型半導体であることがわかる。(B)ゼーベック係数の絶対値と電気伝導度の対数プロット。カラー等高線は熱電性能を示すパワーファクターを示している。チムニー形成初期の構成物質(重晶石や閃亜鉛鉱)は電気伝導度が低く、パワーファクターが小さい。チムニーが成熟して、熱水流路周辺に黄銅鉱や方鉛鉱の層ができると電気伝導度が増加し、熱電変換性能が発現することがわかる。

図3. 本研究で示された深海底のチムニーの発達過程と熱起電力による発電現象の仕組み。(A)ステージ I : チムニーの初期過程において硫酸塩鉱物からなる析出物ができる。Sステージ II:チムニー壁が形成され、まず、亜鉛の硫化鉱物が富む。ステージ III:さらに温度が上昇すると、導電性の高い黄鉄鉱や方鉛鉱からなる層が熱水流路周りに形成され、熱起電力による電子の流れが発生する。ステージIV:熱水活動が止まると温度勾配がなくなり熱起電力はゼロに戻る。(B)ステージIIIにおける熱水と海水の電位差と、温度勾配に駆動される発電現象の概略図。還元的な熱水から酸化的な熱水へチムニー壁を介して、熱水側から海水側への電子の流れが発生する。海水側では例えば、酸素が電子を受け取って水に変化する反応が起こると考えられるが、温度差によって発生した熱起電力によって、この反応が進むためには高いエネルギーの障壁を越えて反応を促進させると考えられる。

謝辞

本研究は、東京大学大気海洋研究所の共同研究プログラムの支援により実施されました(R/V Shinsei Maru, JURCAOSS22-16, and JURCAOSS23-06)。日本学術振興会科学研究費助成事業、「挑戦的研究(萌芽)(JP22K18723、JP24K21559)」、「学術変革領域研究(A)(JP22H5109)」の支援により実施されました。

本論文は「東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受け、Open Accessとなっています。

用語解説

注1.
チムニー:海底の熱水活動によって供給された金属元素が、海底面上で硫化鉱物、酸化鉱物、珪酸塩鉱物、硫酸塩鉱物などとして沈殿し、熱水噴出孔の周囲に形成される煙突状の鉱体。

注2.
酸化還元:酸化が電子を手放すこと、還元が電子を受け取ることを示し、それが必ず同時に起こるために酸化還元と呼ばれる。

注3.
半導体:電気をよく通す金属とほとんど通さない絶縁体の中間の性質を持つ材料。電子が主に電気を運ぶ半導体をn型半導体と呼ぶ。

注4.
熱電変換:温度差を直接電気エネルギーに変換したり、その逆に電気から温度差を生み出す技術。

注5.
ゼーベック係数:試料の両端に温度差を与えたときにどれだけ熱起電力(電圧)が生じるかを表す値。この値が大きいほど、少しの温度差でも電圧を生みやすい材料と言える。n型半導体はゼーベック係数がマイナスの値を持つ。

注6.
パワーファクター:温度差を与えたときに、どれだけ大きな電圧が生じ、さらに電気が流れやすいかを示す指標。

論文情報

タイトル:Self-organized thermoelectric conversion systems on the deep seafloor
著者:Atsushi Okamoto*, Misaki Takahashi, Yoshinori Sato, Ryoichi Yamada, Kentaro Toda, Tomonori Ihara, Tatsuo Nozaki
*責任著者:東北大学大学院環境科学研究科 教授 岡本 敦
掲載誌:Geology
DOI:10.1130/G53463.1
URL:https://doi.org/10.1130/G53463.1

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