Research Activities早稲田大学 研究活動

News

ニュース

子どもの汗腺機能発達と暑熱への適応

子どもの汗腺機能の発達様相が明らかに
~子どもの熱中症予防への応用が期待~

発表のポイント

  • 発汗誘発剤に対する発汗反応(汗腺機能の指標)の性差は8歳ごろから認められる。
  • 男子は女子よりも年齢に伴う発汗量増加が早く、顕著である。
  • 子どもでも春から夏にかけて汗腺機能が顕著に向上する。

概要

早稲田大学スポーツ科学学術院細川由梨准教授、新潟大学教育学部の天野達郎准教授、筑波大学体育系の藤井直人准教授らの研究グループは、新潟大学附属新潟小・中学校の児童・生徒を含む6~17歳の子ども405名(男子229名、女子176名)および18~25歳の若年成人52名(男性25名、女性27名)を対象に、発汗を誘発する薬剤(ピロカルピン)を経皮的に汗腺に投与して、誘発された発汗量から汗腺機能を年代ごとに評価しました。その結果、薬剤によって誘発された発汗量(汗腺機能の指標)の性差は8歳ごろから認められ、年齢に伴う発汗量の増加は男子が女子よりも早く、顕著に生じていました。また、研究に参加した子どものうち111名は春と夏の両方で測定を実施し、季節適応を調べたところ、夏には発汗量の顕著な増加(春の1.5倍)が認められました。これらの結果は、子どもの汗腺機能がどのように発達し、暑熱に適応するのかを示す貴重な科学的資料となります。

研究の背景

発汗はヒトが進化の過程で獲得した特有の体温調節機能であり、暑熱環境下や運動時に体内の熱を体外に放散する役割があります。一般的に「子どもは汗っかき」と思われがちですが、実際には子どもの汗腺機能は大人より低く、未発達です。しかし、例えば身長や体格、あるいは筋力が子どもから大人に成長するように、汗腺機能がどのように発達するのか、またその様相が男女で異なるのかなどは明らかではありませんでした。さらに、大人は夏にかけて暑熱に適応して汗腺機能が高まることが報告されていましたが、このような適応が子どもでも起こるのかどうかは分かっていませんでした。これらを明らかにすることは、子どもの体温調節特性や発達段階を踏まえた上で、子どもの熱中症リスクやその対策を考える上で重要になります。

研究の概要

新潟大学附属新潟小・中学校の児童・生徒を含む新潟市・県内外の子ども(6~17歳)および若年成人(18~25歳)合計457名(男254名、女203名)を対象に研究を行いました。実験は2023年2月~4月、11~12月に実施しています。研究参加者から研究参加の同意を得た上で、実験では、電流を用いて非侵襲的に薬剤を皮膚に浸透させるイオントフォレーシスという手法を用いて、発汗を誘発する作用のあるピロカルピン(ムスカリン受容体刺激薬)を前腕部に経皮投与しました(図1)。これによって誘発される発汗量、活動汗腺密度、単一汗腺当たりの発汗量を計測しました。併せて身長、体重、握力などの測定も行い、汗腺の発達様相と比較をしました。また、2~4月に測定を行った子どものうち111名(男子57名、女子54名)については8月にも同様の実験を行い、夏への季節適応を調べました。

図1:実験の様子と方法

研究の成果

17歳以下は2歳ごとの群に分け、若年成人は単群として解析しました。ピロカルピンによって誘発される発汗量の性差は早くて8歳ごろから認められました(男子>女子)。男女とも年齢に伴い発汗量が増加しましたが、男子の方が発汗量の増加が早く(6・7歳と比較して男子では14歳以降に、女子では18歳以上で増加)、顕著でした(図2)。このような年齢や性別による発汗量の差は、主に一つの汗腺が出す発汗量の違いに起因していました。汗腺機能の発達様相は体格や握力とは異なっており、汗腺独自のものだと考えられます。

図2.年齢による発汗量の変化

汗腺機能を春と夏で比較したところ、男子、女子ともに夏の発汗量が春のおよそ1.5倍に増加し(図3)、この増加は汗腺密度と汗腺当たりの発汗量の双方に起因していました。子どもは大人と比べると運動や環境変化に対する身体の適応程度が小さいと考えられていますが、汗腺の季節適応に関しては大人と同等か、より顕著に生じる可能性が考えられます。

図3.春から夏にかけての発汗量の変化

今後の展開

本研究の結果は、子どもの汗腺機能、ひいては暑熱環境下における体温調節の発達特性に基づき熱中症リスクや予防を考える上で貴重な資料になります。今後、このような発達様相を引き起こすメカニズムの解明(例えば性ホルモンが関与するのかどうかなど)も必要になってきます。また汗腺機能の発達は、究極的には個人間で異なると考えられることから、身長や体重、あるいは握力を計測するように汗腺機能を簡便に評価する方法を確立することで、個人の汗腺機能に基づくオーダーメードの熱中症予防法提案などにもつながるかもしれません。

論文情報

本研究成果は、2025年4月16日、科学誌「Annals of the New York Academy of Sciences」に掲載されました。

【論文タイトル】Biological maturation and sex differences of cholinergic sweating in prepubertal children to young adults
【著者】Tatsuro Amano, Sota Yasuda, Shotaro Yokoyama, Shoma Oshima, Yumi Okamoto, Junto Otsuka, Hanano Kato, Yoko Kunimasa, Takako Hiwa, Naoto Fujii, Glen P. Kenny, Yuri Hosokawa, Toby Mündel, Narihiko Kondo, Yoshimitsu Inoue
【doi】10.1111/nyas.15331

研究助成

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(20K2051524K02828)の支援を受けて行われました。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/research/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる