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水蒸気プラズマ接合がフレキシブルエレクトロニクスを切り拓く

高桑 聖仁(たかくわ まさひと)/創造理工学研究科 総合機械工学専攻博士後期課程2年・第13回(令和4年度)育志賞受賞

本学では将来の我が国の科学技術・イノベーションの基盤となり、社会課題の解決に取り組む博士学生を育成するとともに、博士の多様なキャリアパスを確立させることを目指しています。そのような博士学生の中から、今回は、第13回(令和4(2022)年度)日本学術振興会 育志賞を受賞した高桑聖仁さんにお話を伺いました。(所属、学年は取材当時のものです)

 

育志賞受賞おめでとうございます。早速ですが、研究内容を教えてください

スマートフォンやスマートウォッチなど、私たちは様々な電子機器を気軽に持ち歩くことができる時代に生きています。その実現の大きなカギが、電子素子の小型化・薄型化やそれを含む回路の高集積化です。現在の研究開発のトレンドは、身体に付けても違和感がないほど薄く柔らかい「ウェアラブルデバイス」へと進んでおり、世界中の研究者やエンジニアが実用化に向けてしのぎを削っています。このウェアラブルデバイス開発、実際に動作する集積回路自体は1ミリの1000分の1(=ミクロン)レベルまで薄膜化が進んでいます。一方で、集積回路を動作させるための薄型電池とつなぐこと、すなわち接着技術が追い付いていないのが現状です。接着剤の厚みが素子の約10倍にもなるため、接合部分の柔軟性をうまく担保できずにいるのです。そこで私たちの研究グループでは、接着剤を使わずに集積回路と電源を接合する技術を開発しています。接合面となる金電極の表面を水蒸気プラズマで「表面改質/活性化」処理したのち、空気中・常温で処理面同士を接触させると、金属結合が発現することを発見しました。接着剤を使わないため、高い柔軟性を維持した超薄型電子機器の作製が可能です。

― 小さな機械ともいえるウェアラブルデバイスへの第一歩ですね。成果を出すまでは、どのような道のりだったのでしょうか

学部4年生でこのテーマを指導教員に打診されたとき、それまで習ってきた「The 機械」の世界とはかなり異なる分野のため驚きました。ロボットづくりにおいて、構成する各種パーツの性能を向上させないと全体としての性能が上がりません。これと同じような考え方で、薄膜上フィルム上に電子素子のパーツを作っていく、その質を上げていく、ということは面白いのではないかと思い、研究テーマにしました。様々なプラズマ処理方法を試行する中で、水蒸気プラズマ処理と出会い、初めて金電極がぴたりと接合したのを確認できたのが修士1年生の時です。そこから水蒸気プラズマ処理の最適化に四苦八苦しましたが、耐久性試験や熱安定性などもひとつずつクリアしていき、博士1年生のときに成果をまとめて報告することができました。さらに超薄型有機太陽電池と超薄型有機LED、薄膜配線を水蒸気プラズマ接合でつなぎ、太陽電池が発電した電力で有機LEDを発光させることもできています(プレスリリース)。これらの成果を評価いただき、育志賞を受賞することができました。

フレキシブルデバイス

写真中央下が太陽電池、写真右上が有機LED(中央部が黄色く発光)。
これら2つのデバイスの接合を担っているのが高桑さんの研究

― 今後について、どのような展開を描いていますか

研究の展開として、金以外の電極素材でのプラズマ接合に取り組んでいます。目的や用途によって必要とされる電極材料が異なりますので、できるだけ多くの要望に応えて、ウェアラブルデバイスの開発に勢いをつけられれば、と思っています。体のどこかに、気にならない程度の大きさで薄く柔らかいセンサを貼り付けておくだけで、より自然な状態で、迅速かつ精密にバイタルデータを取得できるような社会が近づいてきています。日々の健康管理はもちろんのこと、将来的には災害救助現場や避難所などで役に立つようなシステム構築にも取り組んでみたいですね。

― 早稲田大学で良かった、と思うことろを教えてください

契約している学術雑誌数が非常に多く、読みたいと思ったらすぐにアクセスできることです。契約費の高騰で、他の大学では契約雑誌数を減らしているという話も聞く中で、大変ありがたいですし、なんとかこの環境が維持されればと願っています。
もうひとつ挙げるとしたら、「ものづくり工房」という、文字通り、ものづくりのための道具がすべてそろっている場があり、誰でも自由に利用できることでしょうか。私自身、学部生のときに高齢者向けのカップ容器開け支援ロボットを作り、WASEDAものづくりプログラム2016(ローム㈱共催)で大賞をいただいた経験があります。コンテストでは企業役員の方向けにプレゼンテーションする機会もあり、非常に良い経験になりました。

プレゼンの様子

WASEDAものづくりプログラム2016でプレゼンテーションしている学部2年生の時の高桑さん

― 後輩のみなさんにメッセージをお願いします

多くの人にとって、関心のままに学びを追求できる最後の機会が大学という場だと思いますので、一瞬一瞬の自分の興味を逃さないで、貪欲に手を伸ばしてほしいと思います。自分自身を振り返ってみても、「海外の人と交流できたら面白そうだな」と思い英語を話すサークルに入りましたし、もう少し研究を続けたいと思って博士後期課程に進学しました。サークルで慣れていたおかげで、英語を日常的に使う研究環境にも躊躇なく飛び込めました。その時々での選択があるからこそ、自分の足で進んでいる実感を持てるのだと思っています。ぜひ、何事も無理だと思わずに、一歩、踏み出してみてください。

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