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ゲノムDNAの転写・複製・修復に働くヒト染色体構造体を世界で初めて解明 生殖医療の発展への寄与も期待 ―理工・胡桃坂研、阪大などと共同研究

早稲田大学理工学術院 胡桃坂仁志教授、同大大学院生有村泰宏氏、大阪大学生命機能研究科木村宏准教授、横浜市立大学生命医科学研究科の佐藤衛教授らのグループは、精巣に高頻度に存在する、遺伝情報の調節に働く染色体構造を世界で初めて解明することに成功しました。私たち生物の遺伝情報は、2メートルもの長大なゲノムDNAに書き込まれており、染色体構造によってコンパクトに折りたたまれて細胞核内に収納されています。今回の研究成果は、ゲノムDNAが染色体構造中で、修復されたり、複製されたり、そして遺伝子としての機能を発現したりするメカニズムを解明するために重要な発見であります。加えて、精子形成過程での染色体再編成の機構理解にも重要な知見を与えるものであり、生殖医療の発展への寄与も期待できる成果です。今回の研究成果は「Scientific Reports」(Nature Publishing Group)にて論文「Structural basis of a nucleosome containing histone H2A.B/H2A.Bbd that transiently associates with reorganized chromatin」として掲載されました。

ゲノムDNAの転写・複製・修復に働くヒト染色体構造体を世界で初めて解明

私たちの遺伝情報はゲノムDNAに書き込まれています。ヒトのゲノムDNAは、2メートルにも及び、それが幾重にも折り畳まれて直径数マイクロメートルの細胞核に収納されています(図1) 。DNAの折り畳みで最も重要な働きをするのは ヒストンと呼ばれるタンパク質です。ゲノムDNAが遺伝情報の担い手としてその機能を発揮する過程は大きく分けて、必要に応じて遺伝情報が読み取られる“転写”、さらに正確に遺伝情報を複製して次世代に受け継ぐ“複製”、また放射線などによっておこるDNA損傷を速やかに修正する“修復”の3つの過程からなります。これらのゲノムDNAの機能はDNAが完全に折り畳まれたままでは発揮できず、DNAの折り畳みが部分的に解除される必要があります。この、DNAの折り畳みを部分的に解除することが、DNAの機能のonとoffを決めるスイッチとして働いていると考えられて注目されております。ゲノムDNAには生命に必要な情報の全てが書き込まれていますが、それ故に、その時必要な部分のDNAのみを機能をonにし、それ以外の部分はoffにする必要があります。DNA機能のon/off制御は細胞の分化や初期化の基盤となるメカニズムであると同時に、このメカニズムの破綻は、がんや多くの遺伝病の原因となります。そのため、世界中でDNAの折り畳みを制御する機構と、DNAの折り畳まれた構造についての研究が活発に行われています。

図1

今回我々は、ヒストンの一種であるH2A.Bが、ゲノムDNAの複製や修復がonとなっている部分に存在する特殊なヒストンタンパク質であることを明らかにしました。さらにヒストンH2A.BはDNAの折り畳み方を変化させることも明らかにしました。ヒストンH2A.Bは精巣に多く存在するタンパク質であり、精子形成時にヒストンH2A.B がDNAの機能のonとoffを決めるスイッチとして機能すると考えられます。本研究の成果は、ゲノムDNAの機能制御という、生命の根本的な現象の理解のみならず、精子形成不全による不妊症の治療などの医療への応用に貢献する可能性も期待できる成果と考えられます。

執筆者

○有村泰宏1・木村宏2・小田隆3・佐藤浩一1・佐藤優子2・衣笠泰葉2・越阪部晃永1・立和名博昭1・杉山正明4・ 佐藤衛3・胡桃坂仁志1(1早稲田大・院・先進理工、2大阪大学・院・生命機能、3横浜市立大・院・生命医科学、4京都大・原子炉実験所)

 

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