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日本人は「排外的」? -現代日本の排外主義と移民政策

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田辺 俊介(たなべ・しゅんすけ)/早稲田大学文学学術院教授 略歴はこちらから

日本人は「排外的」?
-現代日本の排外主義と移民政策

田辺 俊介/早稲田大学文学学術院教授
2018.10.29

 2000年に約178万人であった日本の在留外国人数は、2009年には約219万人、その8年後の17年末には約256万人となり総人口の2%を突破した。その8年間の増加率は17%と、ちょうど09年から人口減少社会となった日本において、その強力な緩和要因となっている。

2018年6月、新たな在留資格を設けることで、原則「認めない」としてきた単純労働にも門戸を開く方針が打ち出された。1990年の入管法改正による日系人受入や技能実習制度により、とうの昔から日本社会は外国人の単純労働に依存している。とはいえ、正面からの受入方針が表明されたことは、政策的大転換であることは間違いない。

しかし事ここに至っても、安倍首相が「移民政策ではない」と主張し続けることに象徴されるように、日本政府は外国籍居住者を頑なに「移民」とは認めていない。結果、国レベルでの適切な社会統合政策は皆無で、各種の人権侵害なども多発している。そしてそのような政府の姿勢の背景には、日本人の排外的な傾向(「日本人は多文化共生に耐えられない」)や、安倍首相のコアな支持層への配慮がある、と言われている。

しかし日本人一般が「排外的」との見解については、実は根拠がない。まず次の図1を見て頂きたい。著者が代表として2009年から4年ごとに行っている「国際化と市民の政治参加に関する世論調査」という全国調査[1]で、「日本に住む外国人が増えるとどのような影響があると思いますか」と聞いた結果である。

図1 外国人増加の影響認知(3時点間の比較)

2009年から8年間で2割近く外国人が急増している事実を考えれば、日本人の大多数が排外的傾向を持つのであれば、「悪影響がある」と考える人が増えそうなものである。しかし実際には、経済活性化などのプラスの影響があると思う人が着実に増える一方、働き口が奪われる懸念は明確に減少し、治安・秩序の乱れの懸念も09年の水準より13年、17年ともに低下している[2]。つまり、ここ8年ほどの外国籍住民の急増を経験した上でも、人々の懸念は高まっておらず、むしろ「良い影響が多く、悪影響は少ない」と考える人が増加しているのだ。

とはいえ現在の外国人の受け入れ状況、特に政府が主導する諸制度には、「奴隷労働」とも批判される技能実習制度や入管施設における度重なる人権侵害など、問題点が数多い。それでは、そのような政府の外国人への非人道的対応を国民も支持しているのだろうか。勿論、世論調査の結果からそれは否定される。次の図2は「日本政府は日本に定住している、または、定住する意思のある外国人に対して認めるべきだと思いますか」として、諸権利への見解をたずねた集計結果である。

図2 外国籍者への権利意識(3時点間の比較)

確かに権利を制限的に考える人が、09年に比べて13年と17年では微増している。それでも母国の習慣を守る権利は認めた方が良いという人々の方が、否定派よりも10ポイント以上多い。またインターネット上では否定的な意見がめだつ外国人の生活保護受給権についても、賛成が反対を上回る。さらに、現在は認められていない地方参政権も賛否は拮抗している。

以上世論調査の結果を見ていくと、イメージほど日本社会は排外的ではなく、外国人増加への懸念は減少傾向で、外国人の権利に否定的な意見の人が多数派なわけでもない。

では、なぜ現政権は世論と乖離した政策をとり続けているのか。その点の傍証として、前述の影響認知(図3)と外国籍者の権利意識(図4)について、17年調査で安倍首相への好感度を(―3~0~+3の7段階で)+3と答えたコアな安倍支持層(全体の8.4%で、326人)、支持政党を自民党と回答した人々(37.5%/1455人)、政党支持の設問で自民党に次ぐ多数派であった無党派層(27.7%/1076人)の間で比較した。

図3 外国人増加の影響認知の政治的支持層別比較

図4 外国籍者の権利意識の政治的支持層別比較

無党派層(また図1と2の全体の結果)と比べ、自民党支持者の間では、外国人増加に脅威を感じ、権利についても抑制的な人が一定程度多い。しかし安倍首相のコアな支持層と比べると、特に権利付与を否定する割合は大きく異なる。そのことから、安倍首相のコアな支持層が、外国人を「移民」として受け入れる姿勢が極端に低い層と推察できる。ただ一方、そのコアな支持層の多くも「経済の活性化」だけは認めている。つまり安倍首相の「経済の役には立ってもらうが、居住者になって貰うつもりはない」という姿勢は、まさにそのコアな支持層の主張と重なる。しかし、それは国民全体だけでなく、また自民党支持層の世論からも乖離している。

以上を考えれば、安倍首相は自らのコアな支持者だけではなく、自民党総裁として自民党支持者の民意を、さらに日本国首相として日本国民全体の世論を広く反映する適切な「移民」政策を実施していくことを、切に願いたい。

  • ^ 回答者の数などの調査の詳細については、字数制限の関係上、調査プロジェクトの調査概要ページや同HP内に掲載されている報告書などを参照のこと。
  • ^ なお事実としても、警察庁の「平成29年の刑法犯に関する統計資料」によれば、外国人刑法犯検挙件数と検挙人員数は2009年の30,569件/12,365人に対して2017年は17,156件/10,580人とともに減少しており、来日外国人・定住外国人の急増によって、「治安・秩序が乱れる」という結果にはなっていない。

田辺 俊介(たなべ・しゅんすけ)/早稲田大学文学学術院教授

1976年生まれ。東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)東京都立大学。東京大学社会科学研究所准教授を経て、現在、早稲田大学文学学術院教授。
主要著書、『民主主義の「危機」―国際比較調査からみる市民意識』(2014年、編著、勁草書房)、『外国人へのまなざしと政治意識―社会調查で読み解く日本のナショナリズム』(2011年、編著、勁草書房)、『ナショナル・アイデンティティの国際比較』(2010年、慶應義塾大学出版会)など。

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