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新生仔マウス脳内におけるナノプラスチックの三次元分布を可視化

新生仔マウス脳内におけるナノプラスチックの三次元分布を可視化
― 組織透明化とライトシート顕微鏡を組み合わせ、粒径依存的な脳内分布を解明 ―

国立研究開発法人国立環境研究所、大阪大学大学院薬学研究科および早稲田大学の共同研究チームは、ナノプラスチックが新生仔マウスの脳内にどのように分布するのかを脳組織を切断することなく、三次元的に可視化する手法を開発しました。本研究では、組織透明化技術(*1)とライトシート蛍光顕微鏡(*2)を組み合わせることにより、脳全体におけるナノプラスチックの分布を解析することに成功しました。

蛍光標識したポリスチレン製ナノプラスチックを新生仔マウスに経口投与した結果、粒径50nm(ナノメートル)のナノプラスチックは、粒径500 nmのナノプラスチックと比較して、脳、腸、腎臓などの臓器により多く取り込まれることが明らかになりました。さらに、脳内では、視床および脳幹において相対的に高い蛍光シグナルが観察されました。本研究は、ナノプラスチックの体内分布を解析するための基盤技術を示すものであり、環境中でのばく露リスクやヒトの健康影響を直接評価するものではありません。本成果は、今後のナノプラスチック研究における分布解析や侵入メカニズムの解明を促進することが期待されます。

本研究成果は、2026年6月29日付でElsevier社刊行の学術誌『Journal of Hazardous Materials Advances』 にオンライン掲載(Available Online)されました。

1. 研究の背景と目的

近年、プラスチックの劣化や摩耗によって生じる直径1 µm(マイクロメートル)未満のプラスチック粒子であるナノプラスチックが、食品、水、大気などを介して生体内に取り込まれる可能性が指摘されています。実際にヒトや動物の組織中からプラスチック粒子が検出された、との報告が相次いでいますが、脳のように構造が複雑な臓器において、侵入した粒子がどの部位にどの程度分布しているのかを網羅的に評価する手法は限られていました。これまでの研究では、脳組織を薄く切片化して観察する二次元的解析が主流であり、脳全体を俯瞰した空間的分布や、領域間の比較解析が困難という課題がありました。そこで本研究では、脳を切断することなく三次元的に可視化できる解析手法を確立することを目的とし、特に脳発達および生体バリア機構が未成熟な生まれたばかりの新生仔マウスを対象として研究を行いました。

2. 研究手法

本研究では、以下の手法を用いて解析を行いました。

  • 新生仔マウス(生後0日)に、蛍光標識したポリスチレン製ナノプラスチック(粒径50 nmまたは500 nm)を経口投与
  • 投与24時間後に脳を摘出し、組織透明化技術(*1)を用いて脳全体を透明化
  • ライトシート蛍光顕微鏡(*2)により、脳全体を三次元的に撮像
  • 大脳皮質、視床、脳幹、小脳などの脳領域ごとに蛍光強度を定量解析
  • 検出された蛍光シグナルがナノプラスチックそのものであることを、ハイパースペクトル画像解析(*3)により検証

3. 研究結果と考察

3.1 新生仔マウスにおけるナノプラスチックの粒径依存的な体内分布

新生仔マウス(生後0日)に、蛍光標識したポリスチレン製ナノプラスチック(粒径50 nm または 500 nm)を経口投与し、24時間後に各臓器の蛍光像を取得しました(図1A)。その結果、粒径50 nmのナノプラスチックは、500 nmの粒子と比較して、腸、腎臓、脳といった複数の臓器で明確に強い蛍光シグナルが観察されました(図1B)。特に、腸管および脳におけるシグナルは顕著であり、新生仔期においては小さい粒径の粒子ほど生体内に取り込まれやすい傾向が示されました。一方、500 nmのナノプラスチックでは、いずれの臓器においても蛍光シグナルは弱く、粒径の違いが体内分布に大きく影響することが示唆されました。なお、本研究で用いた投与条件は、ナノプラスチックの分布を明瞭に可視化するための実験モデルであり、環境中での実際のばく露量や毒性を示すものではありません。

1  新生仔マウスに経口投与した蛍光ポリスチレン製ナノプラスチックのサイズ依存的生体内分布
(A)P0 マウスに蛍光ポリスチレン製ナノプラスチック(以下「PSNP」という。)または溶媒となる水(DW)を経口投与し、24 時間後に臓器を採取してイメージングを実施。(B)新生仔マウス臓器の蛍光実体顕微鏡画像。腸、脳、腎臓におけるナノプラスチック(NP)の蓄積を示し、50 nm PSNP は 500 nm PSNP および DW 対照群より強く蓄積していた。

3.2 組織透明化とライトシート蛍光顕微鏡による脳全体の三次元可視化

次に、脳内分布を詳細に解析するため、脳組織に組織透明化技術(以下「SeeDB2G」という。)を適用しました。これにより、脳全体が透明化され、組織を切断することなく脳深部まで蛍光観察が可能となりました(図2A)。透明化した脳をライトシート蛍光顕微鏡で撮像した結果、粒径50 nmのナノプラスチックが脳全体に広く分布している様子を三次元的に可視化することに成功しました(図2B)。特に、立体再構成像および回転表示動画(https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S2772416626003499-mmc6.mp4)(外部サイトに接続します)により、脳内部の連続構造を保ったまま粒子分布を把握できることが示されました。このように、組織透明化とライトシート蛍光顕微鏡を組み合わせることで、従来の薄切切片法では困難であった脳全体を俯瞰した分布解析が可能となりました。

2 ライトシート蛍光顕微鏡解析による新生マウス脳内の蛍光ポリスチレン製ナノプラスチック分布
(A)SeeDB2G による組織透明化処理前後の脳組織像を示し、深部観察に十分な透明化が得られたことを確認した。(B)ライトシート蛍光顕微鏡による三次元イメージングにより、50 nm のナノプラスチックが新生仔マウス脳全体に広く分布する様子を明瞭に可視化した。

3.3 脳内における領域別分布の定量解析

さらに、ライトシート蛍光顕微鏡で取得した三次元画像データから、脳内の主要領域ごとに蛍光強度の定量解析を行いました。解析対象とした領域は、大脳皮質、視床、脳幹、小脳です。その結果、視床および脳幹において、他の領域と比べて相対的に強い蛍光シグナルが検出されました(図3)。これらの領域はいずれも脳室系に近接しており、新生仔期における脳脊髄液循環や、生体バリア機構の発達と関連する可能性があります。ただし、本研究は蛍光強度を指標とした相対比較であり、ナノプラスチックの絶対量や特定の侵入経路を直接証明するものではありません。視床・脳幹での高シグナルは、侵入過程あるいは排出・循環過程のいずれかを反映している可能性もあり、今後の詳細解析が必要です。

図3 新生仔マウス脳における PSNP の三次元定量解析
小脳、脳幹、視床、大脳皮質の 4 領域における平均蛍光強度を定量したところ、視床および脳幹では他の領域と比較して相対的に強い蛍光シグナルが検出された。

3.4 蛍光シグナルの妥当性確認

蛍光観察においては、色素の漏出や組織由来の自家蛍光(*生体組織が本来もつ弱い蛍光)が結果に影響する可能性があります。そのため本研究では、ハイパースペクトル画像解析を用いて、観察された蛍光がナノプラスチック粒子そのものであることを検証しました(図4)。その結果、脳および腸組織で検出されたシグナルは、ナノプラスチック特有のスペクトル特性と一致しており、蛍光色素の遊離や自家蛍光ではなく、粒子由来のシグナルであることが確認されました。このように、複数の独立した手法を組み合わせることで、観察結果の信頼性を高めています。

図4 MG6 細胞および新生仔マウス腸管における PSNP のハイパースペクトル画像による検証
50 nm PSNP をばく露した MG6 細胞(*マウス脳由来のミクログリア細胞株;ミクログリアは脳内で異物の監視や除去を担う免疫細胞)および腸管切片の暗視野像、蛍光画像、スペクトル解析画像を示す。蛍光画像とハイパースペクトル画像の共局在(*両方の画像で同じ場所にシグナルが重なって検出されること)により、観察された蛍光が PSNP 由来であることが確認された。取得領域はスペクトル抽出に用いたセグメントを示し、スペクトルプロットでは PSNP 特有のスペクトルが細胞質・核・組織のスペクトルと明確に区別された。

3.5 本研究結果の位置づけ

本研究により、新生仔期において、ナノプラスチックが脳を含む複数臓器に分布し得ること、脳全体レベルで三次元的に可視化できることが示されました。本成果は、ナノプラスチックの体内動態や脳内分布を解析するための基盤的手法を提示するものであり、毒性や健康影響を直接示すものではありません。

4. 今後の展望

本研究で確立した三次元解析手法は、

  • ナノプラスチックの脳内侵入経路の解明
  • 腸、肝臓、腎臓など他臓器への解析展開
  • 実環境由来粒子の解析手法開発

などに応用可能です。今後は、より環境実態に即した条件での解析や、細胞レベルでの局在解析を進めることで、ナノプラスチックと健康影響の関連理解に貢献していく予定です。

5. 注釈

*1:組織透明化技術
生体組織は脂質や水分による光散乱のため、内部をそのまま観察することが困難です。組織透明化技術は、組織中の屈折率を均一化することで光の散乱を抑え、臓器を切断せずに内部構造を観察可能にする手法です。本研究では、蛍光シグナルを保持しやすい浸漬型の組織透明化法「SeeDB2G」を用いることで、新生仔マウス脳全体を透明化し、ナノプラスチックの分布を三次元的に解析しました。

*2:ライトシート蛍光顕微鏡
ライトシート蛍光顕微鏡は、薄いシート状のレーザー光を試料の側方から照射して蛍光像を取得する顕微鏡技術です。観察面のみを選択的に励起するため、広い体積を高速かつ低侵襲で撮像できるという特長があります。本研究では、組織透明化した新生仔マウス脳を用い、脳全体の三次元構造を保ったままナノプラスチックの分布を可視化しました。

*3:ハイパースペクトル画像解析
ハイパースペクトル画像解析は、各画素における光の波長情報(スペクトル)を同時に取得する解析手法です。物質ごとに固有のスペクトル特性を持つため、蛍光色素のにじみや組織の自家蛍光と区別して、粒子由来のシグナルを識別することが可能です。本研究では、ナノプラスチック由来のシグナルであることを独立した方法で確認するために、この解析を補助的に用いました。

6. 研究助成

本研究は、以下の研究費の支援を受けて実施されました。

環境省・(独)環境再生保全機構 環境研究総合推進費

  • JPMEERF JPMEERF20241003 「環境中マイクロ・ナノプラスチックの標準品ライブラリ整備とリスク解析に資する安全性情報の集積」(代表:堤康央、分担:田中 厚資、前川文彦)
  • JPMEERF20265M05 「マイクロ・ナノプラスチックの母子保健影響に関する多面的評価系の確立」(代表:前川文彦、分担:伊藤智彦、掛山正心)

科学研究費助成事業(日本学術振興会)

  • 基盤研究(A)23H00522 「霊長類モデルによる新たな発達神経毒性評価」(代表:掛山正心、分担:前川文彦)
  • 基盤研究(C)24K15313 「ナノプラスチックの発達神経毒性影響に関する総合的研究」(代表:前川文彦、分担:田中 厚資、伊藤智彦)

7. 発表論文

【タイトル】
Whole‑Tissue Distribution Analysis for Visualization of Nanoplastics in the Neonatal Mouse Brain

【著者】
Mi Yang(国立環境研究所)、伊藤 智彦(国立環境研究所)、田中 厚資(国立環境研究所)、宇田川 理(国立環境研究所)、掛山 正心早稲田大学 人間科学学術院)、堤 康央(大阪大学 大学院薬学研究科)、前川 文彦(国立環境研究所)

【掲載誌】Journal of Hazardous Materials Advances

【URL】https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2772416626003499(外部サイトに接続します)

【DOI】https://doi.org/10.1016/j.hazadv.2026.101353(外部サイトに接続します)

8. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。

・国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康領域

・上級主幹研究員 前川 文彦、特別研究員 Mi Yang

・大阪大学大学院薬学研究科 教授 堤 康央

・早稲田大学人間科学学術院 教授 掛山 正心

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