Research Activities早稲田大学 研究活動

News

ニュース

染色体を輸送する分子モーターの運動を紡錘体内で捉えることに成功 癌などにつながる染色体分配のメカニズムの解明に寄与―理工・石渡研

早稲田大学理工学術院の高木潤助手、板橋岳志講師、石渡信一教授らは、細胞分裂の際に染色体を輸送する分子モーターXkidの運動を、細胞分裂装置である紡錘体内で直接観察することに成功しました。Xkidは紡錘体内の微小管配向に応じた運動をしており、紡錘体内の微小管配向はXkidによる染色体の輸送に最適化されていることが分かりました。本研究の成果は細胞分裂における染色体分配の分子メカニズムの解明に大きく寄与することで、癌や先天的な病気の解明につながることが期待されます。

この研究は、科学研究費補助金の支援を受けて実施されました。この成果は論文「Chromosome position at the spindle equator is regulated by chromokinesin and a bipolar microtubule array(染色体の赤道面での整列は染色体結合キネシンと2極性の微小管配列により制御される)」として、ネイチャーパブリッシンググループのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました(9月30日付:日本時間10月1日)

Scientific Reports 掲載論文概要

論文題目:Chromosome position at the spindle equator is regulated by chromokinesin and a bipolar microtubule array「染色体の赤道面での整列は染色体結合キネシンと2極性の微小管配列により制御される」

著者:

  • 高木潤 早稲田大学理工学術院助手
  • 板橋岳志 早稲田大学理工学術院講師
  • 鈴木和也 早稲田大学理工学術院博士後期課程3年・日本学術振興会特別研究員(DC1)
  • 石渡信一 早稲田大学理工学術院教授 早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所(WABIOS)所長

本研究の背景と目的

筋肉、内臓、脳などからなる私達の身体は、たった1個の受精卵から始まり、遺伝情報を集約する染色体が、細胞分裂のたびに娘細胞へと1本たりとも間違えることなく正確に受け継がれることによってでき上がっています。染色体の分配に狂いが生じると、重篤な疾患や癌の悪性化などの様々な病気の原因となります。

Xkidと呼ばれるタンパク質分子モーターは、その機能を阻害すると染色体の整列がうまくいかなくなることが知られていました。またこれまで、Xkidの運動機能については、細胞から抽出・精製したXkidを用いて、細胞外の環境において調べられてきました。その結果、Xkidは多分子集合体の状態で微小管のプラス端方向に運動することが分かりました。しかし、実際に細胞内でどのように運動しているかについては、明らかになっていませんでした。細胞内で、Xkidは細胞分裂装置である紡錘体内に存在しています。紡錘体は多くの微小管が集合し、配向することででき上がった規則的構造物ですが、紡錘体内でXkidがどのように運動しているのかは、染色体分配の仕組みを知るうえで非常に重要な研究課題でした。

このような研究状況を踏まえ、私たちは、「紡錘体内でXkidの運動を観察する」ことを目標に研究を行いました。

本研究で開発した手法

紡錘体の大きさは細胞の種類にもよりますが、私たちが用いたアフリカツメガエル卵の抽出液中で自己組織的に形成させる紡錘体は、30-50 µm程度の大きな構造物です。従って、紡錘体内で蛍光物質をラベルした1分子~数分子の運動を顕微鏡下で観察するのは光学的に非常に困難でした。しかし、本研究では量子ドット(Quantum dot)と呼ばれる非常に明るい蛍光微粒子をXkidに結合させたことで、Xkidの運動の軌跡を蛍光顕微鏡下で追跡できるようになりました。

図1 紡錘体内におけるXkidの運動の軌跡量子ドットを結合したXkidは染色体(DNA)上の他、微小管上(左図、黄色矢印)で観察された。 微小管上のXkidは紡錘体の長軸方向に120-140 nm/sで運動していることが分かった(右図)。 横軸、縦軸のスケールバーはそれぞれ10 µm、100秒。

図1 紡錘体内におけるXkidの運動の軌跡

量子ドットを結合したXkidは染色体(DNA)上の他、微小管上(左図、黄色矢印)で観察された。微小管上のXkidは紡錘体の長軸方向に120-140 nm/sで運動していることが分かった(右図)。
横軸、縦軸のスケールバーはそれぞれ10 µm、100秒。

本研究で得られた結果及び知見

Xkidは紡錘体内を微小管の方向に沿って長い距離(平均~5 µm、最大17 µm)、複数の微小管を乗り換えながら運動することが分かりました。また、Xkidの運動方向は紡錘体中の微小管の方向性分布と一致し、そのためにXkidは紡錘体の赤道面付近に集積することが分かりました。分裂中期において、染色体は紡錘体の赤道面付近に集積・整列しますが、本研究により初めて、Xkidが染色体を紡錘体の赤道面付近に集積する機能を持つことが、分子レベルで証明されたことになります。

図2Xkidの運動の領域依存性

図2Xkidの運動の領域依存性

紡錘体極に近い領域では赤道面方向に運動するXkidの割合が多く、赤道面付近では、運動方向はほぼ半々であった(A)。紡錘体内の微小管の方向性の分布と長さの分布は赤道面を中心に左右対称であり、本研究で観察されたXkidの運動はこれらの分布と一致した(B)。(B)のXkid-Qdotの円の大きさは、各領域における運動方向の割合を示す。(Sci. Rep.論文の図を改変)

研究の波及効果や社会的影響

細胞分裂における染色体の分配は、非常に正確な精度で遂行されなければなりません。染色体が均等に分配されないと、重篤な疾患や癌の悪性化などの原因となります。今回、染色体分配に関わる分子モーターの、紡錘体内における運動性が明らかになったことは、医学的にも意義のあることです。また、紡錘体内の微小管の方向性分布がXkidの運動に対する反応場として機能していることが明らかになったことから、生体内における物質輸送の仕組みを解明する上でも重要な研究となりました。分子モーターの性質と反応場の性質を人為的に制御することで、染色体分配や物質輸送を自在に制御するといったことも可能になるかもしれません。

石渡研究室

早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所(WABIOS)

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/research/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる