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知覚情報システム研究所:AIの発話計画を富士通デジタルアニーラで高速に最適化する技術を開発

早稲田大学GCS研究機構、個人の興味に合わせて情報を効率的に伝える会話AIのパーソナライゼーションをデジタルアニーラで高速化

早稲田大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構(以下、GCS研究機構) 知覚情報システム研究所(所在地:東京都新宿区、所長:小林哲則 理工学術院教授)の高津弘明 次席研究員らの対話システム研究グループは、富士通株式会社(所在地:東京都港区、代表取締役社長:時田隆仁)、株式会社内外切抜通信社(所在地:東京都新宿区、代表取締役社長:近藤義昭)と共同で、個人の興味に合わせて情報を効率的に伝える会話AIの発話計画を富士通デジタルアニーラで高速に最適化する技術を開発しました。本技術は今後、ニュース読み上げサービスや音声対話広告、VR/AR空間での情報案内サービスなどの幅広い領域に応用されることが期待されています。

左から安藤涼太(招聘研究員、内外切抜通信社)/ SCHEMA / 高津弘明(次席研究員)

背景

早稲田大学 GCS研究機構 知覚情報システム研究所の対話システム研究グループでは、人とAIが共生する社会において、人が快適に情報を享受可能とするための会話AI技術としてニュース記事に代表されるまとまった量の情報を効率的に伝える音声対話システムの研究開発を進めています。

今回高津研究員らが発表した研究では、時間を制約としつつ、複数の文書から、各文書の談話構造に基づく文章の首尾一貫性を保持したうえで、ユーザの興味に基づいて情報を抽出し、ユーザごとにパーソナライズした音声対話システムの発話計画を生成する技術を開発しました。また、ユーザ1人あたりにかかる発話計画の最適化計算の処理時間を短縮するため、量子現象に着想を得たデジタル回路により、組合せ最適化問題を高速に解くアーキテクチャである富士通デジタルアニーラを使用しました。

早稲田大学と富士通は、デジタルアニーラを使用した共同研究に関して、2018年9月に包括的連携活動協定を締結しており、本研究はその協定に基づいて実施されました。協力体制として、ニュース記事に対して文章の首尾一貫性を保証するための談話構造をアノテーションする作業には、安藤招聘研究員(早稲田大学/内外切抜通信社)が協力しました。

本技術は、2019年度に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創出プログラム(START)「社会的会話AIを搭載したメディアサービスの事業化」および2021年度SBIR「高度にパーソナライズされた情報空間ガイドAIの開発」(研究代表:松山洋一)などの実用化支援も得て、大学発ベンチャーを通した本格的な社会実装が期待されています。

発表概要

共同研究成果を以下の国際ワークショップおよび国内研究会で発表いたしました。いずれの発表もコロナ禍のためオンラインでの参加となりました。

① IWSDS(2021年11月発表)

IWSDS(International Workshop on Spoken Dialog System Technology)は音声対話システム技術に関する国際ワークショップであり、12回目となる2021年はシンガポールで開催されました。
◆IWSDS(International Workshop on Spoken Dialog System Technology)

Hiroaki Takatsu, Ryota Ando, Hiroshi Honda, Yoichi Matsuyama, and Tetsunori Kobayashi: Personalized Extractive Summarization with Discourse Structure Constraints Towards Efficient and Coherent Dialog-based News Delivery, in Proceedings of the 12th International Workshop on Spoken Dialog System Technology, 2021.

② NLP4ConvAI(2021年11月発表)

NLP4ConvAI(NLP for Conversational AI)は会話AIのための自然言語処理技術に関する国際ワークショップであり、3回目となる2021年は自然言語処理分野のトップカンファレンスであるEMNLPのワークショップの一つとして開催されました。
◆NLP4ConvAI(NLP for Conversational AI)

Hiroaki Takatsu, Takahiro Kashikawa, Koichi Kimura, Ryota Ando, and Yoichi Matsuyama: Personalized Extractive Summarization Using an Ising Machine Towards Real-time Generation of Efficient and Coherent Dialogue Scenarios, in Proceedings of the 3rd Workshop on Natural Language Processing for Conversational AI, pp. 16-29. 2021.
◆ACL Anthology

③ 対話システムシンポジウム(2021年11月発表)

人工知能学会 言語・音声理解と対話処理研究会は、言語・音声・対話に関する基礎研究から、音声処理・言語処理・対話処理に関するアルゴリズムやシステムに関する研究などを扱う研究会です。第93回研究会は第12回対話システムシンポジウムとして開催されました。
◆人工知能学会 言語・音声理解と対話処理研究会(SLUD)

高津弘明、安藤涼太、中野鐵兵、柏川貴弘、木村浩一、松山洋一: イジングマシンを用いたミュージアムガイドの発話計画最適化、第93回言語・音声理解と対話処理研究会(第12回対話システムシンポジウム)資料、pp. 26-31, 2021.
◆第93回言語・音声理解と対話処理研究会

この音声対話システムは、要点説明のための主計画と補足説明のための副計画からなる発話のシナリオに基づいて対話を進めます。システムは、ユーザが受け身で聞いている間は主計画の内容を伝えますが、適宜ユーザの情報要求に応じて副計画に遷移し補足説明を行います。本研究では、効率的で一貫した情報伝達を実現するための主計画の生成手法について検討しました。IWSDSの論文では、主計画を生成する問題を、文書の談話構造と合計発話時間の制約のもと、ユーザごとに計算した興味度が最大となる文集合を文書集合の中から抽出する組合せ最適化問題として定式化しました。評価指標として、興味のある情報を被覆できた割合と興味のない情報を除外できた割合の調和平均である情報伝達効率を定義しました。ニュース記事に対して談話構造と興味度を付与したデータセットを用いて提案手法の情報伝達効率を評価し、一貫性と効率性の高い主計画が生成できることを確認しました。

一方、ここで定式化した主計画生成のための整数線形計画問題は、問題の規模が大きくなるほど、最適解を探索するのに膨大な計算時間が必要となります。膨大な数のユーザに対して、一人一人にパーソナライズした主計画を実用的な時間で生成するためには、最適化計算の高速化が重要です。そこで、NLP4ConvAIの論文では、IWSDSの論文で定式化した整数線形計画問題をQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)形式に変換し、デジタルアニーラを用いて解くことにより、制約違反のない準最適解が実用的な時間で得られることを確認しました。さらに、本技術をミュージアムガイドシステムに実装し、パーソナライズされた主計画に基づいてバーチャルミュージアム上の展示物を解説することの有効性を実証しました。その成果を対話システムシンポジウムで発表しました。

FUJITSU Digital Annealer

④ 言語処理学会(2022年3月発表予定)

デジタルアニーラを用いた手法に関して、さらに検証を重ねた研究成果を、2022年3月に開催予定の言語処理学会第28回年次大会で発表します。

高津弘明、柏川貴弘、木村浩一、安藤涼太、松山洋一: デジタルアニーラを用いたパーソナライズド抽出型要約の高速求解、言語処理学会第28回年次大会(NLP2022)
 
 
早稲田大学は、教育と研究に次ぐ大学の第3の役割としてオープンイノベーションによる「社会価値創造」を掲げております。本研究を通じ、総合大学としての早稲田大学が持つ研究力と社会貢献力の一層の向上に努めてまいります。

本件に関する問い合わせ

知覚情報システム研究所 担当:松山(マツヤマ)
[email protected]

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