連載 ワークライフバランス挑戦中! 第32回
10年ぶりの没頭を経て
キャンパス企画部 小平 知香
より快適に両立できる環境を求めて
設計事務所勤務時に出産した息子(小4)と、大学に籍を移し2年目に出産した娘(年長)の2人の子どもがいます。もっとも手のかかる育児期は過ぎつつあることもあり、周りの方からはうまく両立しているように見えるようですが、過去の困難や失敗のエピソードは山ほどあります。1人目出産後、一人前になるのに10年修行と言われる世界での育児は覚悟していた以上に過酷でした。建築士としての経験もタイムマネジメントも未熟で何より仕事に没頭したい時期と重なり、頻繁に体調を崩す持病のある息子を毎度病児保育に預け、悪化に気づかず入院してもなお職責を優先して病室で付き添えなかったことは今でも忘れられません。気がつけば家族は疲弊し、自身も息子と過ごす時間も育児の喜びを感じる余裕もない、快適とはほど遠い両立時期を経験しました。

▲すっかり丈夫に成長した息子 元気なサッカー少年です
その後、より快適に両立できる環境を求めご縁あって本学に入職することになりますが、2人目出産後は大学の充実した育児支援制度や両立しやすい環境による恩恵を受け、さらに2人目育児の余裕も加わり育児を楽しみながらよいリズムで両立生活を回せるようになりました。身近に多くを共感できる育児仲間がいることや、両立生活を続けていく上で道しるべとなる多様なロールモデルがいる環境も安心感があり私には合っているようです。一方で、大学での両立生活にも慣れてくると今度はもっと仕事がしたいと葛藤した時期もありました。家族と職場の理解を得ながらタイミングを見極めた上で早めにフルタイムに戻り、直近2年ほどは仕事に対する充実度を高めながら自分にとっての心地よい働き方を追求しています。徐々に求められる役割も変容していくと思いますが、コロナ禍以降続けている夕食は家族で過ごす習慣は続けていきながら日々小さな幸せを積み重ねていきたいと思います。
単身ニューヨーク研修へ

▲帰国後は子どもたちとの時間が最優先です
2025年1~3月大学からの派遣プログラムでニューヨーク・マンハッタンに滞在する機会を得ました。大学と所属部から全面的支援を受け、職員としての国際感覚とキャンパスプランニングの専門性のさらなる高度化を目指し、現地での活動に専念するため思い切って子どもたちを夫に託し単身で渡米することにしました。
東京-NY間は昼夜真逆でしたがビデオ通話でいつでも家族の顔が見られコミュニケーションは予想よりもスムーズで、他にも”おてがみ”に夢中な娘のため各所訪問先から手紙を送るという、現代技術と古来の手段の両方により楽しいリズムづくりの創出を工夫しました。夫の理解と奮闘と柔軟な働き方に支えられ、また普段遠方に住む両親や姉たち、シッターさんの厚いサポートのおかげで、心配をよそに子どもたちは母不在の日々を健やかに逞しく乗り越えてくれました。
私自身のNYでの生活は、派遣先のニューヨーク大学を中心に多くの人的交流から刺激を受け、時間がある限り都市型大学に足を運び大学街やキャンパスを歩き、インタビューを重ね報告書をまとめ続けることに専念することができました。米国政権の影響で各大学が緊張を強める中、強力な支援者の御尽力により滑り込み訪問が叶ったことも幸運でした。勇気を持ってコンフォートゾーンを抜け出し10年ぶりに一つのことに集中し没頭できたこの経験により、帰国後は本学やキャンパスが以前とは異なる風景に見えるだけでなく、本来の自分を取り戻し今後の働き方やキャリア形成に対する考えにも変化がありました。これからは子どもたちの成長に寄り添いつつも、無意識のあきらめに気づき挑戦を忘れず経験を積み重ねながら、自分らしい心地のよい生き方を追い続けていきたいと考えています。
▲娘が着色したNY. 子どもの豊かな想像力や色彩感覚に驚かされます
(左からクライスラー・ビルディング、滞在先近くのセント・ジョン・ザ・ヴァイン大聖堂)
オフタイムの建築活動
数年前に自邸を設計し建築しました。難易度の高い密集地の狭隘立地、フレキシブルに空間を変えていけるよう間仕切りのない4層を階段・吹抜けでつなげたシンプルな空間構成です。毎年少しずつ改装を重ね今年は10歳になった息子のためにパーソナルスペースを創るため、週末に愛する家族のためにゆったりとデザインを考える時間を楽しんでいます。
一級建築士
【略歴】
大学院修士課程修了後、2008~2017年建築設計事務所を経て、2017年より現職
【家族構成】
夫・息子・娘