2025年12月5日、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しつつ、支え合い、活かし合う共生社会実現のためのヒントを得る機会として、標記の公開講座を実施しました。
先ずはファシリテーターである社会科学総合学術院の寺尾範野准教授より、共生社会の理念や本学の特例子会社*である株式会社早稲田大学ポラリスのスタッフの皆様の紹介がありました。
*特例子会社:障がい者の雇用促進や安定就労を目的として、大学等の事業主によって設立された子会社のこと。
<業務の概要>
ポラリスの松田様より業務概要等についての説明がありました。
ポラリスは早稲田大学の100%子会社として2007年に設立されました。障がい者スタッフ32名が在籍し、社員12名が支援にあたっています。その業務は多岐にわたり、屋内外の清掃、書類のスキャニングやデータ登録、文書授受の受付、再生ペットボトル処理など、大学運営に必要な実務を幅広く担っています。
スタッフが能力を発揮し、働き続けるための仕組みとして、業務マニュアルやチェック体制の整備、複数作業のローテーション化などを進めています。また、職場と生活の両面を支えるために、職業センター、就労支援センター、グループホームなど外部機関とも連携し、困りごとがあれば早期に対応できる環境を整えています。
支援し過ぎず、しかし孤立させないバランスと、一人ひとりの得意なことや特性を見極めることが大切です。
- 寺尾範野准教授
- ポラリススタッフの方々の発表(オンライン講座)
<スタッフの発表>
続いてゲストスピーカーであるポラリスのスタッフ3名の方々から、担当業務の内容や工夫していること、日々の仕事への思いについて発表していただきました。
(佐藤さん)
ポラリスの前身会社も含めて勤続19年目になります。主に早稲田キャンパスの屋外清掃を担当し、落ち葉掃除やゴミの回収などを行っています。「決められたことを最後までやり切ること」を大切にしています。学生さんから「いつもきれいにしてくれてありがとう」と言われると、とても嬉しくなります。
(小島さん)
文書授受の受付を担当し、郵便物や学内外からの書類を分類・管理し、各部門へ確実に届けられるようにしています。また、事務補助やスキャン処理などの細かな確認が求められる業務も担っており、メモを取って作業手順を整理するなど工夫を重ね、今では後輩にアドバイスもできるようになりました。
(今井さん)
室内清掃と事務補助を担当しています。学生会館の共有部掃除やお手洗い清掃、備品整理のほか、学内よりご依頼いただいた事務作業を行っています。特に「きれいにする」ことが好きで、清掃業務にやりがいを感じています。また、働き始めてから生活のリズムが整ったことや職場の仲間が増えたことなど嬉しい変化もありました。
<日々の業務> オレンジ色のユニフォームで仕事をされています
- 屋内清掃
- 屋外清掃
- 事務補助
- 再生ペットボトル処理
<質疑応答>
Q1. 働きやすさなどの観点から、学生にこうしてほしいと考えていることはありますか。
A1. ゴミを出す際に分別をしっかりしてもらえると、回収がもっとスムーズにできます。
Q2. 以前他の企業で働いていた方にとって、ポラリスの方が良いと思う点は何ですか。
A2. 作業環境がとても良いのと、仕事で悩んだ時にはすぐに社員さんに相談できるなどサポート体制もしっかりしていることです。
Q3. キャンパスのことを良くご存知だと思いますが、お気に入りの場所はありますか。
A3. 大隈講堂に色々な方がいらっしゃる様子を近くから見るだけでも勉強になります。(1号館勤務)
昼食時に色々な店に行くことができて、これもポラリスで働いていて良かったと思う点です。お気に入りのパンショップも見つかりました。(戸山キャンパス勤務)
Q4. 仕事の中で大変だなと感じるのはどんな時ですか。それに対してどのような工夫をされていますか。
A4. 緊張するタイプなので、落ち着いて一つずつ覚えることから作業を始めています。それが自分のスキルアップにも繋がると考え、前向きに取り組んでいます。(小島さん)
社員さんに少しずつ教えてもらったり、先輩の作業する様子を見たりしてから、私も挑戦するようにしています。(今井さん)
この時期は落ち葉の清掃作業が大変なのですが、一人でなんとかしようとせず、仲間と協力し合いながら進めていくように心掛けています。(佐藤さん)
Q5. 業務を割り振る際に、スタッフ一人ひとりの特性や適性をどのように見極めていますか。
A5. 育成の視点から、時間をかけて一人ひとりのスキルや作業する姿を観察し、本人の希望も聞いたうえで社内で話し合い、担当業務を決めています。また、苦手なことがあっても、グループで仕事に取り組むことで補い合えるようにしています。(松田さん)
<寺尾准教授による総括>
ポラリスのスタッフの皆さんが大学の様々な場面を支え、確かな技術と責任感を持って働いておられることが伝わってきました。大変なことがあっても、同僚の方々と助け合いながら生き生きと仕事をされていることも強く印象に残りました。大学は多様な人々が交わる場であり、互いの違いを知り、尊重し、ともに働き、学び、生活をともにすることは「共生社会とは何か」を身近に考える機会となり、社会の豊かさにもつながっていくことでしょう。
<参加者の声(抜粋)>
- 見覚えのあるオレンジ色の制服が、障がい者雇用と初めて結びつきました。ポラリスの方々がどういう組織でどんな業務をしているのか、はじめて知る機会でした。学生のことを思いながら、使命感をもって仕事に取り組んでくださっている様子を伺い、感謝の気持ちでいっぱいです。
- 屋外や室内清掃から事務補助、文書受付、スキャン業務まで、私たち学生が普段当然のように使っている環境は、実はポラリスのスタッフの方々の細かい作業によって成り立っていることがよく分かりました。
- スタッフ同士のコミュニケーションやそこから築かれた関係性など、多くのエピソードから、職場が単なる「働く場」に留まらず、「人生のひとつの支えとなる場」としても機能していることが伝わってきました。
- 一人ひとりの特徴に合わせて個別の手助けや仕事配分を工夫していらしたのが印象的でした。20年近くも勤続されている方がいるというのも、そうしたサポートあってのことだと思います。
- 障がい者の方々も早稲田生の学生生活を支えてくださっていることを知ることができ、幸運でした。感謝を忘れずに、勇気を出して「ありがとうございます」の声かけもしてみたいです。
- ペットボトルとキャップとを分けて捨てることや、食事のごみもプラスチックと可燃ごみで分けるだけで、ポラリスの方々の業務がより楽になるということをお伺いし、自身が意識することはもちろん、周りの友達にも声がけしていこうと思いました。
- 「働く」という一点において、大変なことやそれに対処して乗り越えること、仲間と協力して困難を乗り越えることの尊さのようなものは障害の有無に関係ないことにも気付かされました。
- ポラリスの皆さんが時間をかけて準備して臨んでくださったことが伝わり、とても感謝しています。同じキャンパスで多様な方々が働いていることを認識できる貴重な機会で、ぜひ今後も継続していただけたら嬉しいです。
今回の公開講座は、「支えられている側としての自分」にも気づき、共生社会とは特別な理念ではなく、小さな配慮を積み重ねる日常の実践であることを実感する機会ともなったことと思います。
ダイバーシティ推進室では、キャンパス全体に共生の意識が根付いていくよう、今後もこうした対話と学びの場を継続していきたいと考えています。
















