連載 ワークライフバランス挑戦中! 第27回
育児と仕事を「楽しむ」日々に至るまで
国際教養学部 准教授 福山佑子
子どもが生まれてから3年は頭が働かなくなるという、同僚の先生の言葉を裏付けるかのように、乳児期には不可避となる寝不足と、日々成長していく子どもに対応するため、常に脳の情報処理に大量のアップデートが必要とされる状況は、私だけでなく夫(同じく大学教員で育児・家事負担は夫婦均等かつ全業務相互代替可能)の頭と体力を疲弊させています。
とはいえ、怒涛の乳児期を越え、子どもが3歳くらいになってくると、大学の制度や保育園などの社会からのサポートに加え、コロナ禍で進んだリモートワークにより、この連載のタイトルにある「挑戦」という言葉ほどなにかに挑んでいる感覚のないまま、育児と仕事の両方が多少はスムーズに転がりながら進むようになってきました。
この4年を振り返ってみると、まず産休から復帰直後の2019年4月に担当したイタリア史の演習の授業には、偶然にも離乳食を販売する会社を立ち上げようとしていた学生がおり、開発中の商品のモニターをさせてもらったおかげで無事に離乳食期を乗り越えられるという(早稲田らしい?)幸運に大いに助けられました。その後、子どもが歩きはじめて目が離せなくなり、イヤイヤ期にも突入する時期の2019年9月から半年は、別の大学に務めている夫が特別研究期間を取得して私の負担を軽減してくれたことに加え、1歳以下の子どもを持つ教員は授業負担が1コマ軽減されるという大学の制度も活用させてもらうなど、偶然と職場の制度の両方に支えられて可処分時間が少ない時期を乗り越えることができました。
特にここ数年は職場に育児中の同僚が増え、出勤するたびに互いの研究室に顔を出してはたわいもない出来事を話すというのが、日々の楽しみになっています。お互いの子どもの成長を喜び、体調不良を心配し、時折発生する子どもに由来する睡眠不足を労りつつも、研究費への応募や授業の運営について話すなど、育児をしつつ教育研究に打ち込む仲間が職場に複数いるという環境は、産後の茫洋とした状態から社会復帰するのを助けてくれました。とはいえ同僚の先生から聞いたとおり、両親ともに頭が働かない数年間がありましたが(現在も?)、育児で疲弊しきった時期にも、いずれ再び頭が働くようになるはずと希望を持てたことは、精神の安定に大きく作用しました。
これまでの日々で一番大変だったのは、やはり新型コロナの流行によりオンライン授業が導入された2020年4月からの半年で、連日の長時間労働もありほとんど記憶が残っていません。どうにかこの時期を乗り切れたのは、在宅勤務は「登園自粛」という区の通達にもかかわらず、1歳児とともに両親がそれぞれオンライン授業をすることの困難さを理解して受け入れてくれた保育園のおかげでした。普段より少人数の手厚い保育に加え、最年少だったために先生や他の園児に大いにかわいがってもらった子どもが毎日を楽しそうに過ごしてくれるのは、過酷な日々の数少ない癒やしでした。
いわゆる小学1年生の壁やこれから直面する介護のことなど、これからも仕事と生活のバランスに悩むことがあるのは確実ですし、現在の生活は職場での配慮や社会の諸制度、子ども本人と家族の健康や偶然に支えられた薄氷の上のものでしかないと感じています。とはいえ、育児の副産物として、今後さまざまな困難が生じてもなんとかなるかもしれないという見通しを持てるようになったこと、生活する上で不確実要因が多いことにより一日一日を大事にしようという意識を強く持てるようになったことが、研究や教育を含め、現在を楽しめていることに繋がっている気がします。
福山佑子(ふくやまゆうこ) 1983年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、大学院文学研究科にて博士(文学)を取得。早稲田大学文化構想学部助手、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て現職。専門は古代ローマ史。夫(大学教員)、子ども(4歳)の3人家族。