Comprehensive Research Organization早稲田大学 総合研究機構

その他

水稲文化研究所
Waseda University Wet-Rice Culture Research Institute

【終了】2012~2016年度
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研究テーマ

東アジアにおける水稲文化と水利システムの研究

分野:文化

研究概要

2012年からの5年間は、東アジアの中でもとりわけ日本に重点を置く。研究所の発足から2010年度までは、インドネシア・中国・カンボジアなどにおいて共同研究を行い、東アジア全般の水稲文化および水利システムを明らかにしてきたが、これらの経験を生かし、日本においてモデルとなる地域で集中的な共同研究を進め、最高水準の方法を確立したい。
日本における地域文化形成の核となった中世村落とその母体である荘園に関して、そこに重層的に積み重ねられたあらゆる関係資料(文献資料、考古学資料、民俗資料、地名、地勢など)をすべて包含する「多層荘園記録システム」の完成を目指す。これにより、例えば西暦1350年におけるある荘園内の村落の神社や民家の配置、水田と畑地の在り方、灌漑の形態などを含めた村落景観が自動的に復原されるようにしたい。このようなシステムの構築は変化の激しい都市では難しいが、高度成長期までは比較的緩やかな変化に留まっていた農村においては実現が可能であろうと考える。それにはモデルの選定は重要がある。次の2カ所を挙げておきたい。

(1)豊後国田染荘(大分県豊後高田市)
この地は、2010年8月に「田染荘小崎の農村景観」が重要文化的景観に選定された。鎌倉時代以来の村落景観を現在に伝えていることで知られる。田染荘に伝えられた多くの文化財と豊富な文献資料があり、過去において詳細な調査データも残されている。海老澤を中心として1980年から1987年までこの地において調査を行い、報告書『豊後國田染荘の調査』が刊行されている。図版・写真などの電子データ化から着手することができ、「多層荘園記録システム」のモデル作成としてきわめて適地である。

(2)備中国新見荘(岡山県新見市)
故石井進東大名誉教授と現地の古老によって研究が進められ、中世荘園村落の景観モデルとして著名なところであり、中世村落にかかわる文献資料が豊富に存在する。現在、海老澤が代表研究者となり、科学研究費基盤研究(B)によりデータを収集しつつあり、棚田景観の形成においても貴重なフィールドであることがわかってきた。

以上、2地域のデータ集積によって「多層荘園記録システム」は完成に向けて大きく前進する。これを記録の少ない東アジアの村落で応用し、水稲文化を巡る謎を解明したい。

研究報告

【2016年度】
 2015年度に採択された科学研究費基盤研究(A)「既存荘園村落情報のデジタル・アーカイブ化と現在のIT環境下における研究方法の確立」により本年度も共同研究を進めた。特に水稲文化研究所の所員である高木徳郎氏、高橋龍三郎氏、松澤徹氏と研究対象地域である東大寺領美濃国大井荘(岐阜県大垣市)において共同調査を行い、学際的な研究を進めることができた。大垣市教育委員会および大垣市立図書館の協力を得て、天平勝宝8年(756)に聖武天皇が勅施入した莊域を確認し、さらに鎌倉時代初期から顕在化する大井荘の水害と堤防「笠縫堤」に関して灌漑に関わる調査を行い、大井荘の水源に発する水門川が近世には大垣城の外堀となり、「荘園」から「城下町」へのコースをたどった希有な地であることが確認された。
 これらの調査と併行して、荘園の歴史的環境に関わる美濃国の国府・国分寺及び昼飯大塚古墳、不破関などの調査も行い、古代から中世にかけての西美濃の状況および大井荘を生み出した安八郡条里の水田に関しても研究を進めた。大垣輪中などの調査も進め、揖斐川とその支流である杭瀬川および平野井川についても実地調査ができ、近世の防災に関する考察も深めることができた。

【2015年度】
 水稲文化研究所の活動はすでに15年にわたるが、前半ではバリ島など東アジアの島?に関する共同研究が中心であり、後半は日本の3つの地域を重点的に取り上げて研究を進めてきた。これらの地域はいずれも中世荘園の伝統を有するところである。2015年度に採択された科学研究費基盤研究(A)「既存荘園村落情報のデジタル・アーカイブ化と現在のIT環境下における研究方法の確立」(研究代表者:海老澤衷)はこの3地域を軸として構成されたものである。(1)豊後国田染莊(大分県豊後高田市)は、1980年から海老澤が景観保存に関わり、その後の世界的な文化政策・農業政策の進展の中で、田園空間博物館構想の実施、重要文化的景観の選定、世界農業遺産の選定が行われたところである。(2)備中国新見莊(岡山県新見市)は、世界記憶遺産に選定された東寺百合文書が良質な荘園像を明らかにし、同時にたたら製鉄の伝統を公開・再現する唯一の場所となっている。(3)美濃国大井莊・茜部莊(岐阜県大垣市・岐阜市)は中世荘園から城下町への変遷を遂げたところであり、西国と東国を結ぶ要衝の地で、伝統文化の維持と都市化が交錯する、きわめて現代的な課題を抱えた地域である。今回の科研では(1)・(2)・(3)に関わる資料をデジタル化するとともに、特に(3)において荘園⇒城下町⇒現代的都市化を視野に入れて伝統文化保存の方法論を確立することを目指す。科研の終了年度は2018年度である。

【2014年度】
 本年度に勉誠出版より2冊の書籍を刊行することができた。東寺に残る文献資料の分析を中心とする『中世荘園の環境・構造と地域社会―備中国新見荘をひらく―』を14年6月に、さらに現地の水利と地名の分析を主とする『アジア遊学・中世の荘園空間と水利』を12月に出版することとなった。8月からは、海老澤(早稲田大学教授)、高橋敏子(東京大学史料編纂所准教授)、清水克行(明治大学准教授)、酒井紀美(茨城大学教授)による「新見荘論集委員会」を設け、論文審査の後、掲載を決定することとなった。これにより一層の充実を図ることができた。ここでの成果の一つとしてあげられるのは水田開発とたたら製鉄との密接な関係が明らかにされたことである。砂鉄採取によって酸化鉄を含む土壌の丘が削られ、また大量に生まれる廃土と砂鉄採取の用水によって新たな水田が出現することが確認され、日本の中世・近世を通じて産業構造の静かな変革が進んでいたことが確かめられた。これらを水稲文化の新たな展開と捉えることもできるであろう。

【2013年度】
 バリ島の灌漑組織「スバック」とその水田景観が2012年にユネスコの世界遺産に登録された。水稲文化研究所では既に2002年からこのスバックに注目し、様々な研究を進めてきた。2010年11月には現地の国立ウダヤナ大学の2名の教授を早稲田大学に招き、ワークショップ「バリ島の農業と灌漑システムの歴史」を開催し、その成果を『講座水稲文化研究5 バリ島ゲルゲル王朝とスバック・グデ・スウェチャプラ』としてまとめた。ささやかながらこれらにより世界遺産登録に貢献することができたといえよう。
 2013年度、8月1日から8月6日にかけて世界遺産に登録されたゾーンを調査し、登録された事による効果を確認した。特にジャテルイ地域においては、美しい棚田の中にある複数のヒンドゥー教寺院がトレッキング・ロードによって結ばれ、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパからの多数の旅行者が散策していた。10年前にはこのような散策路はなく、農耕用のあぜ道しかなかったので誠に隔世の感がある。水田景観そのものが人類のサスティナビリティに大きな影響を与えるものであることが確認され、今後の日本における施策にとって学ぶべきものがあると感じられた。水稲文化研究所の成果の一端を「バリ島に学ぶ」という形でまとめる、2018年度には刊行が可能となった。

【2012年度】
 2010年度に、水稲文化研究所で調査を行ってきた大分県豊後高田市の小崎地区が「田染莊小崎の農村景観」として国の重要文化的景観に選定された。ここに至る研究上の成果を海老澤衷・服部英雄・飯沼賢司編『重要文化的景観への道−エコ・サイトミュージアム田染莊−』(勉誠出版、2012年6月)にまとめることができた。
 小崎地区では、2000年からナショナル・トラスト的な「荘園領主」制(会員による米買い取り制度)を全国的な規模で展開しており、これらの地域の人々の保全に対する努力が実りの時期を迎えたといえる。他の重要文化的景観地域との際だった相違は田園空間博物館構想事業(農林水産省管轄)により保全に向けての全体的な環境整備がすでに実施済みであるという点である。文化的景観と生物多様性の二つを注意深く配慮して整備するという日本で初めての試みがなされたといえる。環境(エコロジー)と史跡(サイト)を兼ね備えた野外博物館であり、ここに日本で初めてエコ・サイトミュージアムが誕生することとなった。

所長

海老澤 衷[えびさわ ただし](文学学術院教授)

メンバー

【研究所員】
海老澤 衷(文学学術院教授)
高木 徳郎(教育・総合科学学術院教授)
紙屋 敦之(文学学術院教授)
久保 健一郎(文学学術院教授)
西村 正雄(文学学術院教授)
新川 登亀男(文学学術院教授)
高橋 龍三郎(文学学術院教授)
鶴見 太郎(文学学術院教授)
松澤 徹(高等学院教諭)

【非常勤研究員】
河合 徳枝(客員上級研究員(研究院客員教授))

【招聘研究員】
八木 玲子(東京成徳短期大学幼児教育科准教授)

連絡先

文学学術院海老澤衷研究室
E-mail:[email protected]

WEBサイト

http://www.f.waseda.jp/ebisawa/ebisawa/index.html

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