水素エネルギー研究所【活動終了】
Institute of Hydrogen Energy
【終了】2007~2011年度
研究テーマ
水素エネルギーについての総合的研究
研究概要
新エネルギーとして期待の集まる水素エネルギーについての総合的な研究を行う。特に、革新的な水素貯蔵技術の開発及び分散型エネルギーネットワークシステムとしての水素利用社会モデルの確立に焦点をあてた研究開発を実施していく。
革新的な水素貯蔵技術の開発では、安全面で有利な低温・低圧領域において高いパフォーマンスを発揮する水素吸蔵合金(MH)について研究開発を実施する。
分散型エネルギーネットワークシステムでは、家庭やオフィス等を想定した定置式燃料電池(FC)の運用に関する研究開発を実施する。集合住宅のような環境下でのFCの共有による電気及び熱エネルギーの効率的な利用を含め、FCの分散型エネルギーシステムとしての運用について、実証レベルで研究開発を実施していく。
これらの研究開発を通して、長期的視点における我が国あるいは世界的なエネルギー戦略において、水素が新たなエネルギー媒体として成立するために必要な条件等についての考察を行うことを目的とする。
研究報告
2011年度
研究報告1) PEFC用セパレータ・ガス拡散層の物質輸送抵抗における構造因子の定量的評価
研究目的
PEFCのコスト低減には高電流密度運転が有効だが,濃度分極によりその実現にはGDL内の拡散抵抗の低減が不可欠である.面方向の拡散係数ならびに面圧付与時の厚さ方向及び面方向の拡散係数を計測した例はないため,その定量手法を開発した.一方で,燃料電池の普及課題の一つに高価な白金触媒の利用が挙げられる.そこで希釈酸素による限界電流試験を行い,リブ幅を変更したセパレータ,GDL枚数を変数とし,二次元的にリブ下の利用を計測した.水蒸気拡散計測による拡散抵抗計測結果と限界電流試験の整合性を得ることで計測手法の有用性ならびにセル設計の指針を得ることを目的とした.
研究成果
厚さ,面方向におけるGDL内輸送抵抗を面圧感度も含めて計測した結果として,面方向の相対拡散係数は,厚さ方向の約2倍となった.さらに,厚さ方向では面圧増加にともない屈曲度が増大する傾向がみられたが,面方向では面圧によらずほぼ一定値となった.そして,希釈酸素を用いた限界電流試験により,GDLおよび触媒層内の酸素輸送抵抗を評価した結果は,各条件において圧力依存性のない触媒層内輸送抵抗はほぼ同一であった.また,GDL内輸送抵抗はGDL枚数1から3枚の変化で約2倍増加し,リブ下の利用を確認した.更にこの性能試験の結果から,両計測手法の整合性を確認することができ,GDLに関しては重要な設計指針を得ることが出来た.
2) 低温熱源用水素吸蔵合金(MH)冷水発生器の性能向上に関する研究
研究背景・目的
MH冷水機は排熱や太陽熱で駆動可能であるためCO2排出削減が期待されるが,合金価格が高く普及には至っていない.本事業では,いちご栽培用冷水機としての実用化を目指し,特に低コストMHの開発と合金量当たりの冷凍出力向上により低価格化を図る.本研究では,運転条件最適化による冷凍能力の高性能化およびMHシート適用時の反応容器熱交換特性を検討した.
研究成果
MHシートの有効熱伝導率測定実験では,MHシートの含有物質である炭素繊維を最大含有したほうが良いことが判明した.これに伴う含有MH量の減少は極めて小さく,積算水素移動量への影響はほぼない.小型モデルシステム実験に関してはMHシートを5.2vol%合金層に封入することで,半サイクル時間は最大で25%減少し,結果として冷凍能力が1.33倍向上した.このことから,MHシート適用による反応容器熱交換特性を把握し,冷凍出力向上に有効であることが判明した.従来研究で伝熱促進体として封入した炭素繊維と比較すると,伝熱促進効果は低いが,重量は88%,価格は炭素繊維18万円/kgに対し最も安価なもので1000円/kgと,炭素繊維の代用品として十分利用可能であると言える.また本研究では円筒形容器における一次元非定常の解析を行った.その結果,誤差平均10%程度で,温度履歴を表現することができた.
2010年度
研究報告1)MH冷水機
MH冷水機は自然冷媒である水素を作動流体に用いて排熱や太陽熱で駆動可能なため、CO2削減の一手段として期待されている.しかし合金が高価なため普及には至っていない.従って合金量あたりの出力向上による低価格化を図り、いちご栽培用冷水機として実用化を目指している.本研究では運転条件最適化による冷凍能力の向上とヒートパイプ適用時の反応容器熱交換能力向上の可能性を検証した.
実験においてはMH1とMH2の合金充填割合と初期水素封入量に従来研究結果を利用し、この条件のもと,伝熱促進体として炭素繊維が冷凍システムに与える影響を求めた.またヒートパイプをシステムに採用した際の解析モデルを構築した.さらに2.25kg級の冷凍システムにおける実験も行った.
以上の実験より,最適な水素と炭素繊維の充填量を求めることに成功し,合金量あたりの出力向上に成功した.また,解析モデルは汎用性を高めることができた.
2)水素エネルギーの面的利用促進のためのケーススタディー
水素の研究は個々の要素技術が中心で広い範囲での利用システムの研究が手薄になっているため,検証を行った.
本研究でケーススタディーの対象を早稲田大学本庄高等学院とIOC本庄早稲田とした.この中でIOCは蓄熱槽やNAS電池など特殊な設備を備えているため電気や熱の貯蔵も含めた利用システムの検討を行うことができた.
効率,CO2排出量,コストについて総合的に検討した結果,夜間電力による水電解,太陽光発電,副生水素をバランスよく利用する方法が導かれた.また輸送方法はLNGを利用した液体水素輸送を利用することでCO2を半減できると試算されたが,コストの面で課題が残っている.
2007年度
研究報告 本事業においては、水素エネルギー利用の特徴である多種多様な水素製造法、特に副生水素、再生可能資源起因水素を想定した水素エネルギーの変換・貯蔵・利用ビジネスモデル試験を本庄・早稲田地域で実証する。
水素エネルギーモデル社会の構築を最終目標に, 2007年度においてはG水素活用した「ゼロエミッション都市作り」を目指して、「G水素製造」、「水素精製・輸送・貯蔵」、「利用製品」の三つの柱からなる事業を『本庄・早稲田地域』で展開した。
2007年11月4日(日)〜18日(日)にかけて、早稲田大学本庄キャンパスを中心とした埼玉県本庄エリアにおいてG水素モデル社会を実証することを目的とした「本庄G水素祭」を実施した。ここでは1 人乗り小型燃料電池自動車4台(ULFCV 2 台、WFCV 2 台)によるカーシェアリング実証実験を始めとし、燃料電池車椅子の試乗会、水素吸蔵合金駆動の自動販売機などのデモンストレーションを行った。
本事業では、環境省地球温暖化対策技術開発事業により2003 年度の先行調査、04 年度の事業立ち上げ、05 年から07 年の3 年間を費やし、本庄・早稲田地域におけるG水素社会の構築を行ってきた。それぞれの成果は、2007 年11 月に行われた「本庄G水素祭」に集約され、エネルギーの専門家はもとより、次世代を担う子供に至るまで、将来の水素社会を垣間見ることで好感を持って迎えられると共に、その後のカーシェアリング実験にも多くの方の参加を得ることができ、G 水素による新エネルギー供給の実証試験が成功した瞬間であった。
所長
勝田 正文[かつた まさふみ](理工学術院教授 )
メンバー
研究所員
勝田 正文(理工学術院教授)
吉田 徳久(理工学術院教授)
永田 勝也(理工学術院教授)
大聖 泰弘(理工学術院教授)
草鹿 仁(理工学術院教授)
納富 信(理工学術院教授)
紙屋 雄史(理工学術院教授)
招聘研究員
永井 祐二(?早稲田総研研究事業部次長・主任研究員)
上野 博(?早稲田総研研究事業部副主任研究員)
連絡先
研究所コンタクト先:
早稲田大学 創造理工学部 勝田研究室
TEL:03-5286-3251