次世代科学技術の社会経済(雇用)効果の計量分析(産業連関分析を主な手法として)
分野;社会システム
次世代科学技術の社会経済(雇用)効果の計量分析(産業連関分析を主な手法として)
分野;社会システム
第4期科学技術基本計画においては「新たな価値の創造に向けて、(略)課題達成のために科学技術を戦略的に活用し、(略)イノベーションの源泉となる科学技術を着実に振興していく必要がある。そのためには、自然科学のみならず、人文科学や社会科学の視点も取り入れ、推進を図っていくことが不可欠である。」とされ、科学技術の社会全体への適用をにらみつつその推進策を図っていくことの重要性がうたわれている。本プロジェクト研究では、こうした新しいパラダイムを踏まえ、実用化が有望視される次世代科学技術について、それが実際に社会に適用された場合に国民生活にどのような影響が及ぶのかを具体的に検証する。具体的には文部科学省直轄の国立試験研究機関である科学技術政策研究所(NISTEP)とタイアップし、次世代の科学技術動向調査に基づいて有望視される科学技術情報を自然科学や社会科学各方面の専門的研究者とともに検討する。そのうえで、ある特定の、もしくは複数の科学技術メニューの組み合わせに対して、それが実際に社会に応用された場合に国民生活にもたらされる効果−国民福祉の向上(所得や雇用の増加、QQLの向上、等)、環境(GHGなど)改善効果、災害等への安全安心度の向上、等−について検討していく。そのための分析手法として、本研究ではまず詳細な科学技術の経済分析手法として定評のある産業連関分析に着目する。政府公表の(現状の)産業連関表には、まだ実現していない次世代科学技術の記述はない。そこで、NISTEPや本学の次世代科学技術の工学系研究者と連携し、それらの技術情報を詳しく得ることによって、新技術搭載後の産業連関表を詳細に作表する。その際、経済産業省調査統計部の研究官にもプロジェクトに参加してもらい、精度の高い作表を目指す。その後、作表された表を用いて、具体的な次世代科学技術の実現効果を、雇用、所得、環境などの側面から分析する。分析の第一歩としては、分散型の再生可能エネルギー電源(事業用・家庭用太陽光発電。風力発電、中小水力発電、地熱発電、バイオマス発電)の有効活用とそれを支える制御システム(EVによるものを含む蓄電機能を持つ次世代送配電システム(スマートグリッド))に関する研究を想定している。その後、分析手法、分析対象ともにNISTEPおよび本学における研究蓄積を活用しつつ順次拡張していく予定である。
【2014年度】
2014年度には以下の研究活動を行った。
・「次世代エネルギーシステム分析用産業連関表」の開発と公表(http://www.f.waseda.jp/washizu/table.html)
「次世代エネルギーシステム分析用産業連関表」とは、政府公表の2005年産業連関表に再生可能エネルギー発電関連アクティビティを追加し、拡充した表のことである。再生可能エネルギー電源の生産活動、および発電と送配電の事業分離がもたらす経済波及効果を分析するためのデータベースとして活用することができる。
・太陽光・風力発電大量導入時の系統安定化策のもたらす産業連関効果分析
再生可能エネルギーの大量導入に伴う電力マネジメントシステムの改変に関する2つの考え方(蓄電池の大量導入と火力発電の非効率運転)について、産業連関分析に基づく考察を行った。結果、再生可能エネルギーのバラエティを増やすと同時に、同時同量性の制約に対して蓄電池という単一の方法で対応するよりもシステム全体で対応するという後者の考え方に、優位性があると判断された。またどちらの方法においても、電力システムの同時同量性の制約を緩和するようにスマートグリッドを構築することの有用性が確認された。
・HEMSの利用意向に関する消費者向けアンケート調査の実施と結果分析
HEMSに対する消費者の利用意向に関するアンケート調査を実施し、消費者のHEMS導入意思の決定要因を分析した結果、HEMSへの関心は先進アイテムの活用経験に大きく左右されること、先進アイテムの活用経験は、その人の年齢や家族の状況、在宅時間と関連性を持つことがわかった。
【2013年度】
2013年度までの取り組みは以下の通りである。
1.スマートグリッド技術の普及が、経済、環境、国際的資源フローにもたらす影響の分析
主として産業連関分析の手法を用いて、再生可能エネルギーを有効利用し、スマートグリッド技術が普及した社会で予測される変化に対して、経済の各部門の生産活動、雇用、エネルギー消費、CO2排出量にどのような効果がもたらされるかを分析した。そのために、政府公表の産業連関表を拡張して、「次世代エネルギーシステム分析用産業連関表」を作成した。
2.スマートグリッド技術の普及が消費者のライフスタイルに与える影響についての研究
スマートグリッド技術の重要な構成要素であるHEMS(Home Energy Management System)が、消費者にどのように受け入れられ、それによって消費者のライフスタイルはどのように変化していくのかを知るために、消費者向けアンケート調査を実施し、結果分析をおこなった。
3.未来社会にむけてのエネルギー開発に関する研究
少し長期的な視点から未来の再生可能エネルギー利用として、有機ハイドライドをエネルギーキャリアとして海外の風力発電エネルギーを運んだり、微細藻類の生み出すバイオ燃料を利用したりすることが考えられる。そこで、これらの技術についても着目し、その研究開発効果の経済分析に着手した。
鷲津 明由[わしづ あゆ](社会科学総合学術院教授)
【研究所員】
鷲津 明由(社会科学総合学術院教授)
藁谷 友紀(教育・総合科学学術院教授)
小林 直人(研究戦略センター教授)
林 泰弘(理工学術院教授)
大聖 泰弘(理工学術院教授)
黒川 哲志(社会科学総合学術院教授)
近藤 康之(政治経済学術院教授)
守口 剛(商学学術院教授)
【招聘研究員】
高瀬 浩二(静岡大学人文社会科学部准教授)
中野 諭(独立行政法人労働政策研究・研修機構研究員)
新井 園枝(経済産業省大臣官房調査統計グループ産業連関分析研究官)
古川 貴雄(文部科学省科学技術政策研究所上席研究官)
村野 昭人(東洋大学理工学部准教授)
鷲津明由研究室
E-mail:[email protected]