英語で専門科目を教えるための知識やスキルを学ぶFDプログラム「Oxford EMI」。本学では継続してこのプログラムを実施してきました。では、研修で学んだことは、その後の授業にどのような変化をもたらしたのでしょうか。
2026年9月、2023~2025年にOxford EMIを受講した教員を対象に、研修後の授業について振り返るフォーカスグループを実施しました。対面でのディスカッションには11名が参加し(メール等による回答を含めると計15名)、「研修で特に印象に残っていること」「研修後、授業の計画や実施方法をどのように変えたか」「授業を変えたことで学生からどのような反応があったか」という3つの問いを基に振り返りを実施しました。
そこで見えてきたのは、英語で授業を行うための技法だけではありませんでした。「教員が何を教えるか」だけでなく、「学生がどのように学ぶか」という視点から授業を捉え直すことが、さまざまな授業改善につながっていました。
1.「教員が話す」から「学生が考える」授業へ
参加者が学んだこととして繰り返し挙げたのが、教員が話す時間(Teacher Talking Time:TTT)と学生が話す時間(Student Talking Time:STT)のバランスです。教員は専門分野の内容を正確に伝えようと、説明に多くの時間を使いがちですが、教員が説明していることと、学生自身が考え、理解していることは必ずしも同じではありません。
参加者からは、「説明しすぎず学生に考えさせる」「学生が話す時間を増やす」「学生中心の授業にする」といった、研修での気づきが語られました。また、まず一人で考え、次にペアで話し、その後に全体で共有するThink-Pair-Shareなど、学生が発言する前に考えを整理する機会を設けることも印象に残った実践として挙げられています。
こうした気づきは、実際の授業の組み立て方にも変化をもたらしました。ある参加者は、100分間の講義を中心とする授業から、短い説明、個人で考える時間、リアルタイム投票、小テスト、ペアやグループでのディスカッション、実習などを組み合わせた授業へと変更しました。教員が「うまく説明する」ことだけではなく、学生自身が考え、言葉にし、他者と共有する機会をどのようにつくるか。そのことが授業設計の大切な要素になっています。
参加者のコメント
「話しすぎない、説明しすぎない。学生に考えさせる。」「学生中心の授業とは、聞くことよりも、考えることを促す授業。」
2.「何を教えるか」から「学生がどう学ぶか」へ
特に印象的だったのは、教授方法だけでなく、授業を設計するときの視点そのものが変わったという振り返りです。ある参加者は、これまで授業を考える際、専門分野として「何を教えるべきか」をまず考えていたと振り返っています。それは授業を担当する教員として重要である一方、Oxford EMIへの参加後は、実際に教室にいる学生の側から、学生が何を、どのように学ぶことができるのか、授業から新しいことや意味のあるものを得ることができるのかという点にも、より注意を向けるようになったと述べています。
「教えるべき内容」から授業を組み立てるだけではなく、「その内容を学生がどう学ぶか」からも授業を考える。Oxford EMIでの経験は、個々のテクニックを習得することにとどまらず、こうした授業設計の視点を見直す機会にもなっていました。
参加者のコメント
「これまでの第一の関心は、その専門分野で『何を教えるべきか』ということでした。今もそれは大切ですが、研修後は、教室に来る学生が何を、どのように学べるのか、そして授業から何か新しいこと、意味のあるものを得たと感じられるかという視点にも、より注意を向けるようになりました。」
3.学生の学びを支える「授業のデザイン」
学生中心の授業にすることは、単にディスカッションの時間を増やすことではありません。フォーカスグループでは、学生が学習活動に参加しやすくするためのさまざまな工夫、例えば、スライドをシンプルにする、視覚的な情報を活用する、話すスピードや「間」を意識する、授業や活動の学習目標を明確にする、といった工夫が挙げられました。また、グループ活動を行う際にも、その目的、役割、時間、最後に何を共有するのかを明確にすることで、学生がより目的をもって参加できるようにすることが重視されていました。
さらに、多くの参加者の記憶に残っていたのが、Lower Order Thinking(LOT)とHigher Order Thinking(HOT)という考え方です。まず学生が答えやすい問いから始め、徐々に複雑で高度な思考を求める問いへと進んでいく。この段階的な組み立ては、学生の参加のハードルを下げながら、より高度な学習へつなげる方法として共有されていました。つまり、「分かりやすい授業」にすることは、学問的な水準を下げることではなく、学生が高度な内容に到達できるよう、学習のプロセスを適切にデザインすることが重要だといえるでしょう。
こうした考え方によって、授業内容そのものを見直した参加者もいました。ある教員は学習プロセス全体を改善する過程で、扱う内容を減らす一方、それぞれのディスカッションと、その後の活動や課題とのつながりをより明確にしたと振り返っています。「どれだけ多くの内容を教えるか」ではなく、学生が学んだことをどのように考え、使えるようになるか。ここにも授業を見る視点の変化が表れています。
参加者のコメント
「活動をどう組織するかが重要です。学生は、その目的、自分の役割、使える時間、そして自分たちの考えをどのように共有するのかを理解する必要があります。授業計画上の小さな工夫ですが、それによって学生の参加がより進めやすく、目的のあるものになります。」「学習プロセス全体を改善しようとした結果、授業で扱う内容を約10%減らすことになりました。また、それぞれのディスカッションを、その後の活動や課題とより密接につなげるようにしました。」
4.学生は授業の変化をどう受け止めたのか
では、こうした授業の変化を、学生はどのように受け止めているのでしょうか。参加者からは、ディスカッションが学生に好まれている、小グループでの議論を楽しんでいる、グループで意見を共有する前に考える時間が設けられていることが評価されているといった報告がありました。また、インタラクティブな活動が、特に1年生にとって学生同士のネットワークづくりにもつながったという声も紹介されています。
一方で、学生アンケートのコメント自体に大きな変化は見られないものの、授業中の学生が以前より活発に参加するようになったと感じている参加者もいました。さらに計量経済学の授業では、授業で身につけた分析力が大学院入試の面接で肯定的に評価されたという学生や、授業で学んだ統計的な考え方が仕事で分析結果を説明する際などに役立ったと報告した学生の事例も紹介されました。こうした声は個々の事例ではありますが、授業改善を考えるうえで、学生の「参加しやすさ」だけでなく、学生が授業で何を身につけ、その学びをどのように活用しているのかという視点も重要であることを示しています。
参加者のコメント
「学生は今、授業中により積極的に参加し、生き生きとしているように見えます。私にとって、これは大きな変化です。」「ディスカッションは学生のお気に入りの活動です。」
5.EMIでの学びは、言語を超えて
もう一つ注目されたのが、Oxford EMIで学んだ考え方が、英語で行う授業だけでなく、日本語で行う授業にも広がっていることです。参加者からは、研修で学んだアイデアや技法を日本語で行う授業にも取り入れ、授業の進め方を改善したとの報告がありました。また、学生の既有知識や自信には違いがあるという点を考慮することなど、Oxford EMIで学んだ原則は、日本語で授業を行う場合にも有用だったという声が寄せられています。
EMIは英語による授業をテーマとしていますが、その中で扱われる「学生に考える時間を与える」「学習目標を明確にする」「学生同士の対話を設計する」といった考え方は、授業で使用する言語を越えて活用されています。英語による授業をよりよくするために学んだことが、結果として「授業そのもの」をあらためて考えるきっかけになる。今回のフォーカスグループからは、そんな広がりも見えてきました。
参加者のコメント
「私にとって、これらの原則は日本語で行う授業でも有用でした。日本語での授業でも、学生によって事前の知識や自信には大きな違いがあります。」
6.一度の研修から、継続的な授業改善へ
印象に残った経験として、3つのグループすべてから挙げられたのが「マイクロティーチング」でした。異なる専門分野の教員とともに授業を計画して実践し、建設的なフィードバックを得る機会が評価されています。さらに、研修中の昼食時の対話、他の参加者や講師との授業観察などを通じた交流が、その後も授業を改善していく機会になったという振り返りもありました。
FDは、新しい教授法やテクニックを学んで終わるものではありません。学んだことを授業で実践し、学生の反応を確かめる。自らの授業を振り返り、教員同士で経験を共有し、次の改善につなげていく。今回、過年度の参加者が一堂に会して授業について振り返ったこと自体が、そうした継続的な授業改善の一つの機会となりました。
「教員がどのように教えるか」から、「学生がどのように学ぶか」へ。Oxford EMIをきっかけに始まったそれぞれの教員の実践は、授業で使用する言語や専門分野を越えて、よりよい学びをつくるための継続的な取組へとつながっています。
参加者のコメント
「研修を通じて生まれたつながりも大切にしています。ランチでのディスカッション、ゲスト参加、他の参加者や講師との授業観察を通して、こうした考え方が異なる専門分野でどのように機能するのかを見ることができました。継続的な交流によって、研修で学んだことを、授業を改善し続けるプロセスへとつなげることができました。」





