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スポーツカメラマン・長田洋平 早スポから世界へ 伝わる1枚とは?
Thu 14 Sep 23
Thu 14 Sep 23
スポーツカメラマン・長田洋平 早スポから世界へ 伝わる1枚とは?
『早稲田スポーツ125周年記念誌』 Special Interview #8
オリンピックやパラリンピック、ワールドカップなどの大舞台では筋書きのないドラマが繰り広げられる。その現場でアスリートにレンズを向けて、二度とない一瞬を切り取っているのがスポーツカメラマンの長田洋平だ。連続する選択の先にある、「伝わる1枚」について話を聞いた。
※2022年11月競技スポーツセンター発行『早稲田スポーツ125周年記念誌』より転載
仕事は常に選択の連続。
記憶に残る写真はなんだろうと考え続けている

羽生選手にとってプロ転向前最後の公式戦となった北京オリンピック・フィギュア男子FS。スタンドに向けた"ラスト"の表情をとらえた(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
早稲田スポーツ新聞会から
スポーツカメラマンへ

東京五輪の陸上男子4×100mリレー決勝でとらえた、日本のバトンミスの瞬間(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

北京五輪のノルディックスキー複合男子ラージヒルで、銅メダルを獲得した渡部暁斗(2011年スポーツ科学部卒)。スキー部の後輩の山本涼太(2020年スポーツ科学部卒)と抱き合って喜んだ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
東京オリンピックの陸上男子400mリレー決勝。カメラを構えていた長田洋平の目の前で、まさかの光景が広がった。自国開催大会での金メダル獲得へ挑んだ日本が、痛恨のバトンミス。多くのカメラマンがゴール付近に陣取っていた中で、長田は1走・2走がバトンパスする位置に付いていた。二人にレンズを向けて、シャッターを切り続けた。苦渋の表情を浮かべ、両手で顔を覆ってしゃがみ込む1走・多田修平選手。両膝に手をついて呆然と立ち尽くす2走・山縣亮太選手。渡し損ねた瞬間の手元がくっきりと映っているその写真は、NHKなど大手メディアで「長田洋平」のクレジット入りで使われた。「途中棄権という残念な場面ではあったものの、歴史に残る瞬間を近くで撮ることができた」と振り返る。
スポーツカメラマンとして世界を飛び回る長田。2012年の入社以来、多くの国際スポーツ大会で歴史的瞬間をカメラに収めた。高校時代から漠然とメディア業界に興味があり、マスコミに強いというイメージから早稲田大学に進学。在学中は公認サークル「早稲田スポーツ新聞会」(以下、早スポ)に所属し、取材・撮影を担当していた。 スーツを着ないで自由に働く。長田は、そんな働き方に憧れてスポーツジャーナリスト、すなわち「ペン」を志望していた。それが「カメラ」に変わったのは2年生の4月。バスケットボール部の京王電鉄杯で先輩からカメラを借りて、初めて写真を撮った。「ビギナーズラックでした」というが、その写真が『新人パレード号』の紙面に掲載されることとなった。そこでカメラが楽しいと思えた。
現在所属しているアフロには、一般社員として入社した。しかし、カメラマンになりたいという思いから、すぐにスタジオアシスタントに転向し、修行を始めた。早スポでの経験から表面的なカメラへの知識はあったものの、広告やスタジオ、照明機材のことなどは無知だった。「まさに井の中の蛙」で仕事が分からず、プロの世界では何もできなかったことが何よりもつらかったと回顧する。4年ほど修行したが先輩や周囲の人にも恵まれて、次第に多くの国際大会に足を運ぶカメラマンになっていった。
北京オリンピックではフィギュアスケートを担当した。ポイントは「羽生結弦選手(2019年人間科学部通信教育課程卒業)をいかに撮るか」なのだが、最も重要なことはどの場所から撮るか、ということだった。定番のリンクサイドは優先順位が低く、撮影できたとしても希望の場所からは撮れない。「記憶に残る写真は何だろう?」と考えた時、ソチ五輪や平昌五輪で撮った写真を振り返ると、引き込まれた写真はいずれも演技そのものではなく、その後のリアクションの写真だった。「仕事は常に選択の連続です。リアクションが撮りやすい、これは何かがあるかなと思える場所にしようと、団体戦でフィーリングがよかったスタンドのとあるポジションで撮影しました」
衝撃を受けた
パラリンピアンの躍動感

東京パラリンピックの車いすバスケットボール男子で日本は銀メダルを獲得。原動力となった鳥海連志の魅力を伝えた(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
長田がライフワークとして撮影しているのが「車いすバスケットボール」だ。在学時にスポーツ科学部講師だったノンフィクション作家・長田渚左さんから、車いすバスケの全日本選手権に誘われた。「パラ神奈川SC」が「カッコいい」と思いチームにコンタクトを取って練習を撮影するようになった。カメラマンアシスタントとして「何か取らなければならない」と題材を探していた時期と運良く重なった。
アフロの仕事との両立が難しく、チームから離れてしまった時期もあったが2017年、業務で車いすバスケットの大会を撮影することになり、「また撮りたい」と声をかけてライフワークが再開した。そのタイミングで、東京オリンピックで大活躍を見せた鳥海連志選手がチームに入ってきた。初めて見た時から「撮りたい」と思えるようなエネルギーを感じる躍動感。その躍動感を障がい者が出していることに、「並大抵のことではない」と衝撃を受けた。
パラリンピックは特に選手の表情がすてきで、健常者スポーツでなかなか見ることができないような、いい表情をする選手が多いと感じた。東京パラリンピックでも、車いすバスケの写真を撮った長田。日本の男子チームは銀メダルを獲得し、その原動力となった鳥海選手の表情を追った。「言葉ではなく動画でもなく写真で伝えること、それは当然のことながら難しい。写真はあくまで一瞬を切り取って見せるもの。それが全てではなく、嘘もつけてしまう。その一方で、写真だから伝わるものもある」。選手のちょっとした表情のニュアンス、目線がどこにあるか、どういうポーズを取っているか。天候や光の状態はどうか。それらが合致したときに「伝わる」一枚があるのだという。「狙って思い通りに撮ることは簡単ではない。偶然だけど偶然じゃない」。そうしたものを撮ることができるのがスポーツカメラマンの意義であり魅力だ、と語る長田。その中でいかに見る人を引きつけられる写真を撮るか。「今までの自分の実力では撮れなかったもの、『すごい』と思われるような写真を撮りたいって思っています」。それが長田の永遠の目標だ。
インタビュー:愛される大学スポーツ、キーワードは「コミュニケーション」

早稲田スポーツ新聞会の部室で、現役メンバーと記念撮影
――大学スポーツの魅力は何だと思いますか
長田
子供のころから高校にかけてサッカーをしていました。部活動を通じて友達と苦楽を共にし、信頼ができて生涯の「仲間」となっていくのだと思います。大学では過ごし方によっては高校よりも人間関係が希薄になることもありますが、部活動では共に過ごす時間を多く共有することで関係性を築けることが、大きな魅力ではないでしょうか。
――早スポカメラマンとプロカメラマンは何が違いますか
長田
早スポでは「学生ならではの近さ」がありました。早慶戦も年間で最も大事な試合という感じで、熱を燃やしていました。しかし今であれば、早慶戦であっても数ある試合のうちの一つととらえて撮影するでしょう。プロの視点で学生スポーツを見ると、どうしても選手が将来活躍するようになったとき、その選手のストーリーを振り返るための写真をいかに撮るか、ということを自然と考えてしまいます。しかし、そう考えてしまうことに、なんでしょうか、「悔しさ」を感じますね。
――大学スポーツを盛り上げるためにはどんなことが必要だと思いますか
長田
早慶戦は普段は人気のないスポーツでも観客を満員にするほどの力をもっています。大学スポーツを今後ますます盛り上げていくためには、サッカーJリーグや、バスケットBリーグのクラブと同じように、一種の企業努力が必要であり、早慶戦のような魅力的なコンテンツの発信が大切だと思います。魅力をうまく伝えることに成功したら、見に来る人が増えるかもしれません。私が早スポにいたときは、みんなとわいわい楽しめる、それを一つの理由に早慶戦を見に行きました。大学スポーツが愛され続けるためのキーワードは、『コミュニケーション』ではないでしょうか。

インタビューに答える長田(撮影:田島璃子)
――これから何を目指していきますか
長田
モチベーションを常に高く持っているつもりでも、たまには「これくらいでいいかな」と思ってしまうときもあります。しかし、そうなってしまえばいい写真は撮れないし、自分自身も成長していかないと思います。どのような環境で仕事し、刺激をもらうか、それは重要でありますが、自分のことは自分で管理しなければなりません。今回、こうしてインタビュー
に呼んでもらったけれども、業界的には私はそこまでのレベルのカメラマンではないと思っています。楽しいし、決して裕福とはいえなくてもやりがいがあります。もっと実力をつけて、できるならば生涯スポーツカメラマンを続けたいと思っています。
――久しぶりに訪れた早スポの部室ですが、後輩たちへメッセージを
長田
早スポの皆さん。新聞は作っただけではダメです。作った新聞は、しっかりと配りましょう。配ってもなかなか学生は受け取ってくれないことが辛くて、僕がいたときは新聞配りにはメンバーがなかなか集まりませんでした。しかし、制作する過程を見ていたこともあって、僕は新聞配りに積極的に参加していました。作って終わりでは残念すぎるので。
Profile
長田洋平(おさだ・ようへい)
1986年生まれ。東京都出身。幼少期からサッカーに打ち込んだ後、早稲田大学教育学部に入学。早稲田スポーツ新聞会で早稲田スポーツを追いかけた。2009年に卒業した後、株式会社アフロに入社。スタジオアシスタントを経て、2012年よりアフロスポーツ所属。オリンピックやサッカーW杯を撮影するほか、スポーツドキュメンタリーにも力を入れている。
取材・文 宮島真白(社会科学部3年・競技スポーツセンター学生スタッフ・早稲田スポーツ新聞会)

戸山キャンパス学生会館内にある早稲田スポーツ新聞会部室で愛機を携える長田(撮影:田島璃子)