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対談:瀬古利彦×大迫 傑 箱根発、世界で戦えるマラソンランナーとは?

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Thu 14 Sep 23

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瀬古利彦×大迫 傑 箱根発、世界で戦えるマラソンランナーとは?

『早稲田スポーツ125周年記念誌』 Special Interview #2

マラソンで世界と戦えることを示したパイオニア、瀬古利彦。海外を主戦場にチャレンジできること示したパイオニア、大迫傑。“日本マラソン界の顔”として活躍し、結果を出してきた二人が共通して語る、「箱根駅伝発・世界で戦えるマラソンランナー誕生」のためのキーワードがあった。

※2022年11月競技スポーツセンター発行『早稲田スポーツ125周年記念誌』より転載

何を目指して駅伝を走るのか
“視座を高く”そして“泥臭く”

2017年の福岡国際マラソンで大迫が表彰台に上がり、瀬古と握手を交わす

2017年の福岡国際マラソンで大迫が表彰台に上がり、瀬古と握手を交わす

瀬古

大迫選手は、ナベちゃん(渡辺康幸元競走部駅伝監督※1996年人間科学部卒)に誘われて早稲田に来たんだよね?

大迫

はい。何校かからお誘いをいただいた中で、一番世界に近いのは……という視点で早稲田を選びました。それこそ、瀬古さんの時代から世界大会に出場された選手が多かったですから。

瀬古

私の場合はやっぱり「W」への憧れ。それと、いろいろ将来のことも考えてね。ずっと走っているわけにもいかないですから、将来も見据えるとやっぱり早稲田だよなと、がんばって一浪して合格できました。

──瀬古さんは入学後、箱根で4年連続「花の2区」を担当されました。入学当初に思い描いた目標はどんなものでしたか?

瀬古

入る前は「3、4年生で箱根駅伝に出場できれば」という考えでした。でも、入学後に中村清監督とお会いして、考え方が一気に180度変わりましたね。「お前はいい目つきをしている。必ず私がお前を世界一にするから、私を信じてついてきなさい」と言われ、そこから4年後のモスクワ五輪を目指しての4年計画が始まりました(※代表に選ばれるも日本がボイコット)。

──大迫さんも箱根駅伝では2度の区間賞。そして、在学中の2013年、世界選手権1万m代表にも選出されました。

大迫

入学した当初は、「世界大会で入賞・メダルを獲れる選手になりたい」というビジョンはあっても、何をすればいいのか分からない状態でした。ただ、当時の渡辺監督が「アメリカに行って、世界のレベルを自分で経験してみたらどうだ?」と、選択肢を柔軟に与えてくれたことは非常にありがたかったですね。それが間違いなく、今の自分につながっていますから。

瀬古

大迫選手は入学当初からトラック種目での才能を感じましたが、長い距離は難しいかもしれないな、と見ていました。それが、1年生の箱根駅伝 1区で、独走での区間賞! もう驚きでしたね。そこから、「この子は将来、マラソンもできる選手になるかも」と期待を抱きました。

──お二人のように、箱根駅伝で結果を出し、マラソンでも世界で戦えるランナーになるには何が必要でしょうか?

瀬古

箱根駅伝で走ることは当たり前として、大迫選手のように世界をいかに目指せるか。まず、ユニバーシアードを目指し、世界選手権を目指し、最終的にはオリンピック。そういう選手が何人もいたら箱根駅伝は勝てますよ。1学年で 3人、4学年で 12人が世界を目指したら負けないです。

大迫

瀬古さんが仰るように、まず視座の高さというか、何を目指して駅伝を捉えていくかで違います。そして、その目標に向けて「泥臭い練習」ができるか。僕は「ナイキ・オレゴン・プロジェクト」で世界トップチームの練習を見てきましたが、そのレベルでもいわゆる泥臭い練習を全員がしています。ただ、それを泥臭いと捉えず、当たり前のこととして捉えている。

瀬古

当たり前のことを当たり前のようにやるのは一番難しいし、でもそれだけではトップになれない。さらに自分で何か工夫しながら、当たり前を少し超える。栄養面や身体のケアも含め、人が見ていないところで人と違うことがいかにできるか。「泥臭い」と聞くと昭和的な古い言葉に聞こえるかもしれないけど、アメリカで学んだ大迫君も言うのだから、やっぱり必要なんです。

1983年の福岡国際マラソンで優勝のゴールテープを切る瀬古。当時世界歴代6位相当の記録を残した

1983年の福岡国際マラソンで優勝のゴールテープを切る瀬古。当時世界歴代6位相当の記録を残した

瀬古は引退後、マラソンの振興に尽力。東京五輪では聖火ランナーも務めた

瀬古は引退後、マラソンの振興に尽力。東京五輪では聖火ランナーも務めた

「世界で勝てる選手」に必要な “勝ちグセ ”と“時間をかける ”

────大迫選手は以前、「瀬古さんのような選手になりたい」とコメントされていました。その言葉の真意を教えてください。

大迫

どの距離でも、世界には「速い選手」はたくさんいます。ただ、「勝てる選手」というと速いだけではダメで、プラスの要素が必要になる。マラソンなら、リオと東京で五輪連覇を果たしたケニアのキプチョゲ選手( 15戦13勝)がそうですけど、それ以前では瀬古さんほど高い勝率( 15戦 10勝)でマラソンを走った選手はいないはずです。僕自身、世界記録は目指せなくとも、世界の大会で勝てるような選手になりたい、と考えての発言だったと思います。

──実際、お二人は結果を出すため、どのようなことを心掛けていましたか?

瀬古

どんな小さい大会でもいいから「勝ちグセ」をつけることだね。記録会でも何でもいい。勝つことが一番の自信になる。そうすると、大きな大会でもどうやったら勝てるかが分かるようになるんです。

大迫

僕の場合は、人よりも時間をかける、という点です。実業団選手たちの話を聞くと、マラソン大会まで 2~ 3ヶ月で仕上げるケースが多いですが、それではアフリカ系選手に勝てていない現状がある。そこで僕は、自分の限界を超えてスタートラインに立てるように、倍の 6ヶ月単位で人よりも準備をする、というのを重視しています。

──東京五輪での大迫選手は男子マラソンで6位。その後、一度は引退を発表されました。改めて、東京五輪の結果と現役復帰に至った経緯を教えてください。

大迫

2013年から7、8年間かけて準備してきたものには一切の妥協がなかった。結果的にメダルには届きませんでしたが、全てを出し切っての 6位という順位は、一つの自分の成果です。とはいえ、もっと心に余裕を持って走れていたらまた違った結果が出るんじゃないか、という考えに至り、新しいスタートを切ることにしました。

瀬古

だいたいさ、東京五輪で引退すること自体が間違ってるし、事前に相談してよ~(笑)。陸連マラソンリーダーの私が知らなかったんですよ!「大迫辞めるの!? まだやれるのに、もったいない!」と驚きました。

大迫

あのまま続けていたら、おそらく僕の気持ちが切れていたはずです。一度ゴールを決めて休むことによって、結果的に競技人生が伸びた面はあるかもしれません。

瀬古

それにしても、大迫君は内緒ばかりで冷たいなぁ。瀬古はおしゃべりだからバラしちゃう、と思ってるでしょ(笑)。

大迫

まずは渡辺さんにお伝えしようと。

瀬古

ナベに言うなら私に言っても大丈夫でしょ! まだ私の方が口は堅いよ!

大迫

今度からはそうします(笑)。

早稲田に入っていなかったら、
今の僕はいない

1980年の箱根駅伝で力走する瀬古。エース区間の2区で区間新の改装を見せた。

1980年の箱根駅伝で力走する瀬古。エース区間の2区で区間新の改装を見せた。

大迫は1年生のときに1区区間賞で箱根デビュー。<br />
18年ぶりの総合優勝に大きく貢献した

大迫は1年生のときに1区区間賞で箱根デビュー。
18年ぶりの総合優勝に大きく貢献した

目標に向けて
「泥臭い練習」ができるか

受け継がれてきた伝統の先に
「世界に羽ばたく早稲田」がある

2016年の世界陸上には1万mで出場する大迫。<br />
翌年からマラソンに転向した

2016年の世界陸上には1万mで出場する大迫。
翌年からマラソンに転向した

大迫は2020年の東京マラソンで日本新記録(当時)をマーク。自身2度目の記録更新だった

大迫は2020年の東京マラソンで日本新記録(当時)をマーク。自身2度目の記録更新だった

──大迫選手以降、早稲田大学競走部から世界で競える長距離選手が出ていません。この現状はどうすれば変わるでしょうか?

大迫

もともと早稲田大学には、「世界に出ていく」というビジョンがあります。そのことを理解して入学してくれる学生をいかにリクルーティングしていくかが大事だと思います。花田勝彦新監督(1994年人間科学部卒)はご自身も世界大会を経験され、指導者になってからもどう世界と戦っていくかを考えている方。選手側も同じビジョンを理解できる感性を持って早稲田に入ってくれば、相乗効果として世界に出ていくことにつながるんじゃないかと思います。

瀬古

実際、いい選手はたくさん入っているんです。でも、自分の素質に甘えてしまっているところがある。泥臭さが足りないんです。泥臭さこそ早稲田の伝統だったはずなのに、今は他大学の選手のほうが泥臭くがんばっているように見えます。

──花田新監督に期待していることは?

瀬古

これは選手も含め、どうしたら 4年間で世界に行けるかをよく考えないといけない。長距離選手であれば、大学 3年くらいで世界に行けるかどうかはだいたい分かる。つまり、そこまでの 2年間がすごく大事。 18~20歳のころというのは、なんでも吸収できるじゃないですか。その点を踏まえて花田監督がしっかり指導できるか。選手たちもそれを理解して練習する。それが大事ですね。

──大学 4年間を振り返って、ご自身の早稲田時代はどのようなものでしたか?

 

瀬古

早稲田に入っていなかったら、今の私はいないですよ。他大学に行っていたら、きっとチャラチャラ遊び呆けていたはず。それくらい自分は弱い人間です。早稲田に入って、そんな自分を中村監督が厳しく指導してくれた。そして、中村先生を呼んでくれたのが織田幹雄先生。早稲田にはそういう連綿と続いてきた伝統がある。それを今度は私がやっていく。大迫選手に口うるさく言ったり、今の若い連中に伝えていかないと。それが私の最後の仕事です。

大迫

今になって考えると、世界に羽ばたくまでのいい助走台だったというか。例えば、スキージャンプも遠くに飛ぶにはいい助走や、いい雪、いい風がないと飛べません。そういった環境は自分一人の力で作れるわけではなく、先人のみなさんの蓄積があればこそ。たくさんの方々の協力をもとに今の自分がある。それこそが他大学とは違う早稲田の特徴だと思います。

──そんなお二人から、現役学生や未来の早稲田生にエールをお願いします。

大迫

繰り返しになりますが、いかに視座を高くして、やるべきことを泥臭く実行できるか。それを続けていくことで競技を続ける人なら世界に通じますし、陸上の世界でなくても、社会に出たときに違った意味で世界を目指したり、日本のトップを狙える人材になれるのではないでしょうか。

瀬古

まず、記録を出せる選手になること。そして記憶に残る選手になってほしい。その上で重要なのは、競技で一番になるのも大事だけど、人間的にも一番を目指してほしい。現役時代より、その後の人生の方が長いわけですから。ただ、大迫選手にはまだまだ現役で走ってもらいたい。初マラソンが 2017年でしょう。5年しか経ってない。その意味じゃ、まだひよっこ。私は11年、日本を背負って走ったんだから。

大迫

長いですね。あと半分以上です。

瀬古

あと 6年は日本を引っ張らなきゃ。そうなれば大迫選手を目標にして、その下の世代の日本のレベルも上がるはず。パリ五輪も狙えるし、期待しています!

Profile
瀬古利彦(せこ・としひこ)

1956年7月15日生まれ、三重県出身。四日市工業高でインターハイ 2年連続2冠(800・1500m)。 1980年早稲田大学教育学部卒。箱根駅伝では 2区で 2年連続区間新。マラソンでは福岡国際3連覇やボストン、ロンドン、シカゴを制するなど戦績15戦10勝と輝かしい成績を残す。引退後は早稲田大学、エスビー食品での指導を経て、現在は日本陸連ロードランニングコミッションリーダー。

 

大迫傑(おおさこ・すぐる)

1991年5月23日生まれ、東京都出身。長野・佐久長聖高校時代に全国高校駅伝で区間賞 2度。早稲田大学でも競走部エースとして箱根駅伝で区間賞2度。2014年スポーツ科学部卒業後、アメリカ・オレゴン州に拠点を置くナイキ・オレゴン・プロジェクトに加入し、プロランナーとして活動。2022年10月、ナイキ所属のまま、 GMOインターネットグループにプレーイング・ディレクターとして参画し、元日の全日本実業団駅伝に選手として挑戦することを表明した。 3000・5000mの日本記録保持者。マラソン元日本記録保持者。東京五輪男子マラソンで6位入賞。

取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒)

写真提供:共同通信

(写真左)1979年の福岡国際マラソンで宗兄弟と激闘を繰り広げ、4回目の優勝を飾った瀬古/(写真右)東京五輪マラソンで6位の好成績を残した大迫。日本勢では2大会ぶりの入賞を果たした

(写真左)1979年の福岡国際マラソンで宗兄弟と激闘を繰り広げ、4回目の優勝を飾った瀬古/(写真右)東京五輪マラソンで6位の好成績を残した大迫。日本勢では2大会ぶりの入賞を果たした

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