2022年7月10日 早稲田スポーツ125周年記念講演要旨
2022年7月10日、早稲田キャンパス・大隈記念講堂で行われた早稲田スポーツの発足125周年を祝う記念式典で、ア式蹴球部出身の岡田武史さん(1980年政治経済学部卒業)が「スポーツの現在と未来」と題して記念講演を行いました。講演内容の要旨を以下の通り、お伝えします

大隈講堂で講演する岡田さん
サッカーサークルからア式蹴球部へ、早稲田での出会い
リーダーシップやチームビルディングというテーマだったら話し慣れているのですが、「スポーツの現在と未来」ということでしたら、大学の先生の話でもいいのではないでしょうか(笑)。というのも、僕は部活といっても、あまり真面目な部員ではありませんでした。例えば今日もここに来ているマラソンの瀬古(利彦氏)は同期でして、今でこそ少し反動が来ているようですが(笑)、学生時代の彼は競走部で修行僧のように走り込んでいました。
それとは違い、僕は最初、体育各部に入っていなかったんです。サッカーサークルに入っていました。浪人を経ての入学だったので、学生生活をエンジョイしたいと思っていました。しかし高校のときに日本ユース代表に選ばれていたから、「将来のために選んだのに何をやっているんだ」と日本サッカー協会の関係者に説得され、ア式蹴球部に入部して東伏見のグラウンドに通うようになったんです。しかし1年のブランクがありましたから、体重は10kg以上も増加し、タイムトライアルをやっても1回目からクリアできないような有り様で、辞めてしまおうと思いました。でも辞めたら、逃げただの、弱虫だの言われるでしょう。だから必要な存在だと思われてから辞めようと、めちゃくちゃがんばりました。そうして続けるうちに居心地がよくなり、結局は辞められませんでした。
早稲田でサッカーをしたおかげでいろいろな出会いがありました。人との出会いが一番大きな財産となりました。仲間との、先輩後輩との出会いがありましたが、その中で最も大きかったのが、堀江忠男先生との出会いでした。堀江先生はア式蹴球部の部長であり、政治経済学部のゼミの教授でもあり、1936年のベルリンオリンピックのサッカー日本代表でもありました。日本がモスクワオリンピックのボイコットを表明し、瀬古や柔道の山下(泰裕)氏が涙を流したとき、僕は先生に「ボイコットなんておかしいじゃないですか」と言いました。先生は「お前はスポーツマンか? スポーツマシーンか? どっちだ?」と仰りました。僕が「スポーツマンのつもりです」と答えたら、「じゃあスポーツをやる前にマンなんだな? 人間なんだな? それなら一人の人間として、ソ連がアフガニスタンに侵攻していることをどう思うんだ? それを考えてから発言しろ」と言われました。僕らはスポーツをする前に人間なんだということを先生から教わりました。
「守破離」日本サッカー、日本人に必要な主体性
早稲田を卒業したら、僕はサッカーを辞めてTV局で働きたいと考えていました。テレビ局なら女優と知り合えるかもしれないと思ったんです(笑)。でもテストを受けたら落とされまして、古河電工という実業団に進むことになりました。丸の内で働き、サッカーもするという生活を続け、34歳のときのバイエルン・ミュンヘンとの試合で引退を決意しました。バイエルンの選手に自分はどれだけがんばってもかなわない、どうしたら日本人でも彼らに、世界に勝てるのかと考えるようになったんです。
それからJリーグが始まり、指導者として日本代表から声がかかるようになりました。日本人は戦術理解や協調性に長け、フィジカルも今ではかなりよくなっています。ただ、欠けているものが一つあり、それが、主体的にプレーする自立性です。監督の指示ではなく、自分で考えて主体的にプレーする自立した選手が出てこない限り、日本はサッカーW杯でベスト16以上になかなか進めないでしょう。田中総長の空手でいう「守破離」ですよ。日本では「守」ばかりを指導していますが、「破」と「離」をきちんとしないと主体的にプレーすることができません。主体的に動くことが日本人は国民性として苦手なんですよね。でも、主体性はサッカーに限らず、社会につながっていきます。自分で情報を選択して、自分で考えて行動していかないといけない時代です。自分で主体的に生きていくために、スポーツが果たす役割は大きいのではないでしょうか。

岡田さんの話を熱心に聞く田中愛治総長
スポーツから日本を変える
スポーツから日本を変えていくことができるんです。スポーツにはその可能性があるんです。主体的にプレーできる自立した選手と自立したチームを育てる「岡田メソッド」をどこかのチームで試せないかと考え、オーナーに就いたのが愛媛県のFC今治でした。企業理念は「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。」です。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、自分の想いである企業理念に沿って行動してきたからこそ、Jリーグのクラブの7割が昨年度決算で赤字を出すなか、うちは大きな黒字になることができました。
新しい本拠地となる「里山スタジアム」の建設では40億円を集めることができました。新型コロナウイルスの影響で、物質的な豊かさから文化的な豊かさへと、とくに若い人の価値観が変わりつつあります。日本は世界で最先端を行く、循環型の成長をする国になっていくのであり、僕にはそういう新しい社会を作りたいという夢があります。そのためにはスポーツの価値を知ってもらわないといけません。スポーツは無形資産であり、数字では表せない価値を持った、社会の大きな中心なんです。この国が変わっていく、その力がスポーツにはあると僕は思っています。

後輩代表としてア式蹴球部女子部員が花束を贈呈