隅田川に春を告げる風物詩「早慶レガッタ」は、野球、ラグビーと共に三大早慶戦の一つに数えられる伝統のボートレースです。原動機のない船の座席(シート)が前後に動き、オールを使って脚力で進む水上競技。ボート競技の中でも最大の人数、8人のこぎ手と1人の舵手が乗るエイトは、最も高速のレースです。
88回目を数える今回は4月14日(日)に開催され、早慶漕艇部のエースが揃う対校エイトと、4年生から2年生まで、学年を超えたチーム構成で競う第二エイトは、新大橋上流(浜町公園付近)から桜橋上流までの約3,750メートル、また女子エイトは1,000メートルのコースで速さを競います。早稲田にとって、今年は女子エイトが30連覇の大偉業を目指す節目の大会。また、3種目全てで慶應に勝利する「完全優勝」三連覇がかかる大事な年でもあります。そんな注目の大会に挑む早稲田大学漕艇部の各クルーリーダーに、今大会への意気込みと早慶レガッタの魅力を聞きました。
隅田川で行われる唯一のレガッタ。オールを全力でこぎ、水上の戦いを繰り広げる選手たちを応援しましょう!
隅田川の流れの速さと冒頭500メートルのカーブを制してゴールを切る
社会科学部 4年 藤井 拓弥(ふじい・たくや) 漕艇部主将・対校エイトクルーリーダー 山梨・県立吉田高等学校出身
――一昨年、昨年と、2年連続で完全優勝を果たしました。勝因を教えてください。
早稲田の漕艇部は、大学から始めたメンバーも多く、特に身体能力が高い選手が集まっているわけではありません。だからこそ、技術を磨いて身体能力の差を乗り越えていこう! というのがここ数年のテーマになっています。そこで、海外のコーチからレクチャーを受けたり、世界的強豪国であるクロアチアで合宿する機会をいただいて、世界トップクラスのチームに学び、練習してきました。そうして身に付けてきたことが、集中力やチームワーク、またレースに対する姿勢などに表れ、結果として出始めたのではないかと思います。
――この冬、特に取り組んできたことは?
こぎの技術をブラッシュアップしたことで、今度はいかに力強くこぐか、パワーの部分にもあらためて取り組んでいかなければという課題が見えてきました。特に早慶戦は、普段のレースが2,000メートルなのに対して、国内大会最長の3,750メートルの距離を競うので体力が鍵になります。冬に取り組んできたパワー系の練習の成果をしっかり発揮していきたいです。
荒川での早朝練習の様子
――「早慶レガッタ」の魅力とは?
毎年、2万人以上の観客を集めるのが早慶レガッタです。それほどの人の前でこげる機会は他にありません。普段、ボートをこぐことができない隅田川を借り切って、早慶戦のためだけの舞台を作ること自体とんでもないことですよね。期待もプレッシャーも大きいですが、その分最高にやりがいのあるレースです。
――実際にその憧れの舞台を昨年体験して感じたことは?
隅田川の流れが想像以上に速いことに驚きました。本来、ボート競技は凪(なぎ)の状態でレースをするものなのに、隅田川は川の流れがもともと速いのに加えて、時間によっては周囲を走る水上バスの影響で水面が荒れるため、技術的にも体力的にもハードです。普段、体験できないコンディションだからこそ、エイト全員の息が合わないと、前に進むことも難しいレースなのは間違いありません。
――その中で、対校エイトの見どころは?
普通のレースは直線で競いますが、早慶戦ではスタートして500メートルくらいのところに大きなカーブがあるのが特徴で、カーブに先に入ったチームがその後のレース展開を有利に進められます。この「冒頭500メートルの主導権争い」は、特に注目してほしい部分です。あとは、ゴール間際の桜橋では選手を間近で見ることができますので、死に物狂いの表情でゴールまでオールをこぐ姿を見ていただければと思います。
――ここに注目・応援してほしいというポイントを教えてください。
僕たちこぎ手が最も苦しいゴール間際では、応援部の皆さんが『紺碧の空』を熱唱してくださいます。ぜひ一緒になって大声を出していただければと思います。3,000メートルを過ぎて意識が途切れそうな中でも、『紺碧の空』が聞こえてくると不思議と元気が湧いて、「ラストもう一回行くぞ!」 という気持ちになれるんです。みんなで盛り上げていただければ、それが僕たちの力になります。
完全優勝に向け、女子エイトの勝利のたすきを対校エイトへとつなぐ、大事な役割を担うのが第二エイト
基幹理工学部 4年 川田 翔悟(かわだ・しょうご) 第二エイトクルーリーダー 東京・早稲田大学高等学院出身
――第二エイトならではの魅力、難しさはどんな点ですか?
対校エイトと大きく違うのはメンバー構成です。対校は4・3年生が中心なのに対して、第二エイトは4年生から2年生まで3学年で構成されています。その点が魅力でもあり、難しさでもあります。学年が2つ離れるとどうしても普段の活動での絡みが少なくなるので、お互いの気持ちの距離を縮めることや、信頼関係を築くことから始めなければなりません。その分、全員が団結したときに生み出すパワーはものすごいものになると信じています。
――3年連続完全優勝がかかる今年のレースの課題は?
三連覇がかかる大事な戦いではありますが、だからといって特別なわけではありません。メンバーも違いますし、今年のレースは今年のレース。目の前のことに全力で挑んでいくまでだと思います。勝つために必要なことは、やはり全員がお互いを信頼して団結すること。特に早慶レガッタは通常レースよりも距離が長く、身体的にとてもきつい分、「こいつのためなら苦しくても頑張れる」と思えることが重要です。
――ここに注目・応援してほしいというポイントを教えてください。
早慶レガッタのプログラムは、毎年、女子エイト、第二エイト、そして終盤のメインレースである対抗エイトと続きます。その中で第二エイトは、完全優勝を目指して、圧倒的な強さを誇る女子エイトの勝利のたすきを受け継ぎ、その勢いを対校エイトに引き渡す重大な役割を担っています。一昨年、昨年と、早稲田の第二エイトが慶應を大きく離して勝利を収め、良い流れを作ることができました。今年も全員が一致団結し、良い形で対校エイトにタスキを渡せるように圧巻のレースをしたいと思います。第二エイトの勢いの良さにご注目ください。
30連覇目指して! 吾妻橋~桜橋 1,000メートルのスピード勝負
スポーツ科学部 4年 木下 弥桜(きのした・みお) 主将・女子エイトクルーリーダー 和歌山・県立和歌山北高等学校出身
――女子エイトならではの魅力、難しさはどんな点ですか?
インカレ(全日本選手権大会)では、男女共に2,000メートルを競いますが、早慶戦だけは例外です。男子は距離が倍近く長くなり、女子は通常の半分、1,000メートルを競います。つまり、女子は普段のレース以上にスピード勝負。時間でいうと約3分で勝敗が決します。早慶戦は他のレースでは味わえないスピード感で、乗っている私たちにとっても、観客の方にとっても魅力的な部分だと思います。
――今年は節目の30連覇がかかる大事な大会です。
プレッシャーは大きいですが、私たちの力を出せれば勝てるはず、という気持ちでいます。ただ、楽観視は駄目だということはよく分かっています。2年前、初めて出場した早慶戦の女子エイトでは、慶應に先行されました。相手に腹切り(※)のミスがなければ負けていたレースでした。隅田川は普段のレースと違って水面がかなり荒れるため、一昨年の慶應に起きたようなミスは私たちにも起こり得ます。その危機感を忘れずに、最後まで集中力を保ってこぎたいと思います。
(※)終盤、水中からオールがうまく抜けず、逆に水中に入ってしまう状態。これにより艇のスピードが落ちてしまう。
――ここに注目・応援してほしいというポイントを教えてください。
女子エイトは吾妻橋から桜橋までの1,000メートルのレース。その川沿いに観客席があり、一番熱気にあふれた場所でスタートからゴールまで、レース全体を見ることができます。私たちこぎ手にとっても、皆さんの歓声がしっかり聞こえ励みになります。ここまで29年間続けてきた女子連覇を、私たちの代で途切れさせるわけにはいきません。絶対に30連覇。そして、男女での完全優勝三連覇を果たしたいと思いますので、ぜひ足を運んで応援してください。
4月14日(日)は隅田川へ出掛け、桜橋のたもとで早慶レガッタを応援しよう!
早慶レガッタとは?
早慶対校競漕大会、通称「早慶レガッタ」は、1905年(明治38年)に隅田川向島で第1回大会が開催されました。2度の中止と開催場所の変転を経て、今年で88回を数える伝統レガッタとなり、隅田川に本格的な春を告げる風物詩となっています。
早稲田大学漕艇部からは、女子対校エイト、第二エイト、対校エイトが戦いに挑みます。また、当日は漕艇部だけでなく、附属高校やワセダクラブなど、早稲田に関わるさまざまなチームがスカイツリーを背景にこぎ切ります。
第88回早慶レガッタ(早慶対校競漕大会)
【日程】2019年4月14日(日)
【開催種目】漕艇部:対校エイト、第二エイト、女子エイト
その他:高校舵手付きクォドルプルA・B、学部対校エイト、女子学部対校舵手付きクォドルプル、早慶OBエイト、中学生ナックルクォド、カヌーエキシビション(男子・女子)、教職員ナックルクォド、東大・一橋OB招待エイト
【観覧場所】隅田川桜橋付近
写真(左):早稲田スポーツ新聞会
取材・文:オグマナオト
(2002年、第二文学部卒業) Twitter:@oguman1977
撮影:スポーツ科学部 2年 國府田 美幸(漕艇部)
【次回特集予告】2019年4月15日(月)公開「留学特集」