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【開催報告】比研共催講演会:『労働市場の買手独占と競業避止特約‐労働法を活かせるか? 』8/24(土)が開催されました

比研共催講演会:『労働市場の買手独占と競業避止特約‐労働法を活かせるか? 』

日 時:2024年8月24日(土)15:00-17:00
場 所:早稲田キャンパス 8号館303会議室
主 催:科研費・基盤研究B「<労働法と競争法の関係>に関する総合的研究」代表者・竹内寿(早稲田大学教授)
共 催:早稲田大学比較法研究所、早稲田大学法学部
講演者: デイヴッィド・カブレリ(エディンバラ大学教授)
コメンテーター:石田 信平(専修大学教授)オンライン参加

参加者:18名(うち学生1名)

 

【概要】

2024年8月24日(土)、早稲田大学において、エディンバラ大学(University of Edinburgh)のデイヴィッド・カブレリ(David Cabrelli)教授をお迎えして講演会が開催されました。司会は早稲田大学の石田眞名誉教授が務め、コメンテーターは専修大学の石田信平教授が務めました。

【内容】

主催者である科研費研究チームがすすめる<労働法と競争法の関係>の研究には2つの論点があります。1つは、集団的労働関係に関連するものです。従来、労働法によって保護される労働組合(活動)に対しては競争法の適用が排除されてきたのですが、労働法が適用されないフリーランスなどの自営的就業者の集団行動に競争法が適用されるのか、といった点をめぐる論点です。もう1つは、個別的労働関係に関連するもので、労働市場に競争法を適用すべきなのか、といった点をめぐる論点です。欧米では、退職後の競業避止義務、秘密保持義務、顧客勧誘禁止義務などが労働市場における公正競争という観点から競争法によって問題とされており、アメリカでは、競争当局が退職後の競業避止特約を原則禁止しようとする動きがみられます。

こうした状況の中で、カブレリ教授の講演は、上記後者の問題群のうち、退職後の競業避止特約について、競争法の観点からではなく、労働法の観点から議論するものです。より具体的に言うと、コモンローである「取引制限の法理」における<公共の利益>の基準の再構成を通じて、労働法によって労働市場における買手独占を是正する道を模索するというものです。

カブレリ教授の講演では、まず、以下の諸点が紹介・指摘されました。すなわち、①労働市場には独占は存在しないとする正統派経済学の主張にもかかわらず、近年、労働市場において買手独占(モノプソニ―)が存在し、それが労働者の労働条件の低下や労働移動の阻害要因となっているとする研究があることが紹介され、②労働市場における買手独占の原因には、(a)労働市場の地理的制約、(b)仕事の差別化による労働者の現在の仕事への固着性、(c)使用者・労働者間の情報の非対称性による労働者にとっての検索コストの負担などが存在することが指摘され、③かかる労働市場における買手独占が労働者との関係ではその賃金の抑制につながり、一般市民・公共との関係では消費者厚生や社会全体の福祉の増進に否定的な影響を及ぼしていることが指摘されました。

次いで、カブレリ教授の講演では、労働市場における買手独占に退職後の競業避止特約が関係していることが指摘され、労働法の観点からは、かかる競業避止特約の有効性を一定限度認めてきたコモンローの「取引制限の法理」の改革が主張されました。具体的には、退職後の競業避止特約の有効性審査にあたって<公共の利益>を考慮するよう同法理を再構成するという主張です。従来の有効性審査(「合理性テスト」)が使用者と労働者の2当事者間の利益調整に終始していたのに対し、同審査に<公共の利益>の要素を組み込み、労働者側が労働市場における買手独占を示すデータを示すことができれば、使用者側がそれに反証しない限り、退職後の競業避止特約の有効性(合理性)は否定されるという提案がなされました。

以上のカブレリ教授の刺激的な講演に対して、石田信平教授からは、コメントとして、以下の3つの疑問が提起されました。第1は、労働市場における買手独占が、買手企業の限定から生じているとすれば、かかる買手独占に対しては、労働法よりは競争法の適用が考えられるのでないかという疑問であり、第2は、コモンローにおける「取引制限の法理」の<公共の利益>の基準は、使用者の利益と労働者の不利益とが一体的に把握されてきたため、その果たす機能が小さくみえるだけではないというかという疑問であり、第3は、従来の「取引制限の法理」において問題とされるべきは、使用者の投資促進という<公共の利益>が重視される一方、労働者の経済的自由や労働市場の流動化による経済的効果が軽視されてきたことではないのかという疑問です。

その後の質疑・応答では、コメンテーターの石田信平教授が提起した疑問に対して、カブレリ教授から丁寧なリプライがあり、参加者からの積極的な問題提起も含め、活発な議論が展開されました。

文責 石田 眞

 

Dates
  • 0824

    SAT
    2024

Place

早稲田キャンパス8号館303会議室

Tags
Posted

Wed, 11 Sep 2024

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