比研主催講演会:「カール・シュミットの法思想」
日 時:2024年5月28日(火)15:00-17:00
場 所:早稲田キャンパス 8号館219会議室
主 催:早稲田大学比較法研究所
共 催:早稲田大学法務研究科
講演者:ザルマン・ロスチャイルド(カードーゾ大学助教授)
世話人:長谷部恭男
参加者:6名(うち学生4名)
ロスチャイルド氏からは、大要、次のようなプレゼンテーションがあった。アメリカでシュミットが注目されたきっかけは、ジョージ・W・ブッシュ大統領の時代に、緊急事態を理由とする行政権限の拡張が見られ、その際、カール・シュミットが理論的根拠として持ち出されたことによる。
シュミットは確信的なナチではなかったが、ナチス体制に彼があたためてきた法理論が顕現したと考え、それを支持するにいたった。ナチ体制の下での個別の措置をすべて支持したわけではないが。もちろん反ユダヤ主義者ではある。
シュミットは、ハンス・ケルゼンに代表されるリベラリズムを批判した。リベラリズムは国家を社会内部の多様な価値・勢力に対して中立的であり、予め定められた一般法によって支配する存在としてとらえる。他方、シュミットによれば、国家は単一の価値観・世界観で国内を統一し、価値対立を国際関係へと括り出すべき存在である。その点で、政治的なるものと法理論とは密接に関連している。
討議の中では、シュミットの法理論とケルゼンの法理論の異同──価値観の多元性が出発点となっている点では、両者は共通しているのではないか──や、アメリカのロースクールでは、シュミットをはじめとする政治理論の研究は盛んとは言えないこと、ヨーロッパの法理論・社会理論の影響も大きくはないこと等が話題となった。
多様な論点につき、参加者をまきこんで議論を展開するロスチャイルド氏の特色が発揮された研究会となった。
(文:長谷部恭男・比較法研究所研究所員)