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【開催報告】RCLIPイブニングセミナー「メタバースと著作権」が開催されました

RCLIPイブニングセミナー「メタバースと著作権」

主 催:早稲田大学知的財産法制研究所(RCLIP)
共 催:早稲田大学比較法研究所、早稲田大学法務研究科
日 時:2023年10月2日(月)18:00~19:40
場 所:早稲田大学3号館4階405教室
言 語:英日逐次通訳
講演者:Prof. Dinusha Mendis(英国ボーンマウス大学教授)
世話人:上野達弘(早稲田大学法学学術院教授、比較法研究所研究所員)
参加者:147人(うちオンライン参加者117人)

 

2023年10月2日(月)、早稲田大学にて、イブニングセミナー「メタバースと著作権」が開催されました。本講演において、英国ボーンマウス大学教授Dinusha Mendis先生は、メタバースに関わる法的課題のうち、特に著作権法に関わる問題(風景の自由、写りこみ)についてイギリス法と日本法の比較検討、そして、メタバースの将来に対する展望を行いました。日本側からのコメントとして、上野達弘(早稲田大学法学学術院教授)が、日本法から見た分析と検討を行いました。

本講演において、Dinusha Mendis先生はまず、メタバースという言葉の起源を説明し、それが1992年にNeal Stephensonの本に初めて使用されたものであると説明しました。現在、様々な企業がメタバースの生成に関わっており、様々なメタバースが存在しています。さらに、今後は異なる形態のメタバースが現れると予想されます。続いて、Dinusha Mendis先生はメタバースが現実世界に与える影響とその存在意義に言及しました。仮想空間に現実空間と類似する世界を構築し、現実世界の人々がその構築された世界で生活、社交、遊ぶことによって人々に楽しませることがメタバースの最終目的であると述べられました。

次に、Dinusha Mendis先生はメタバースに関する著作権法上の課題について、イギリス著作権法に焦点を当てて説明しました。まず、建築物が著作物となる場合、その設計者が著作者となり、保護期間は著作者の死後70年となります。こうした著作権のある建築物を複製したり、またはその建築物の一部を取り込んだりする場合、著作権法上の問題が発生します。この点は、メタバースを設計する上で注意すべき点となります。Dinusha Mendis先生は、世界的に著名な建築物である東京スカイツリー、ロンドン・アイ、エッフェル塔等を取り上げ、これらの建築物をメタバースに取り込む場合に起こりうる知的財産法上の問題を説明しました。例えば、エッフェル塔そのものの著作権はすでに消滅しているのですが、エッフェル塔の夜のライトアップには著作権が存在する可能性あり、それを無断利用する場合は著作権侵害に当たる可能性があると説明されました。

他方、著作権法には、メタバースの設計をスムーズにすることができる規定も存在しています。例えば、風景の自由に関する例外規定が挙げられます。この規定はイギリス法(1988年著作権、意匠及び特許法[以下、「イギリス著作権法」という]62条)にも日本法(著作権法46条)にも存在します。イギリス著作権法62条には、彫刻、建築物、建築物のひな形または美術工芸の著作物が恒常的に設置されていること、公の場所に設置されていること、一般公衆に対して開かれているという3つの重要な要件が規定されています。この規定は、屋外だけでなく、屋内のものにも適用されます。ヨーロッパ全体から見ても、こうした屋外ないし屋内にも適用できる例外規定を設けていない国が存在するため、イギリス著作権法62条は、幅広く適用され得ると指摘されます。

もっとも、イギリス著作権法62条は、上記のように、適用できる著作物を限定しているため、そこで列挙されていない著作物は適用除外となります。一方、EU指令は、こうした例外規定の適用対象を限定しない形で規定しているので、イギリス著作権法62条で列挙された著作物以外も、例外規定が適用される可能性があると指摘しています。

このように、イギリス著作権法62条に列挙されていないものに関しては、例外規定の適用を受けられないため、メタバースを設計している場合、制限を受けることとなり、現実世界のものを仮想世界で再現する場合、そのものを取り除くか、著作権侵害となることを想定しながらメタバースを設計することとなります。

二番目の課題は、美術工芸品の著作物についてです。イギリス法には、美術工芸品に対する一貫したアプローチがなく、定義規定も存在しません。裁判例においても、裁判所ごとに異なる判断が示され、混乱が生じています。このことは、メタバースの場面で紛争を起こす可能性があると指摘されています。

三番目の課題は、「公開の場所又は公衆に開放されている構内に恒常的に設置されている」という要件についてです。問題が起こりうるのは、例えば、ある著作物が恒常的に設置されているのか、暫定的に設置されているのかを個人が判断するのは困難であると指摘されます。特に建築物以外の著作物に関して、この区別が難しいため、メタバースにおいて美術の著作物等を表現する場合に問題となるとされています。

上記のイギリス著作権法の内容に対して、日本にも、著作権法46条に類似の規定が置かれています。しかし、日本法の場合は、美術の著作物について、屋外の場所に恒常的に設置されているものに限定されているため、屋内の場所も例外規定に含められているイギリス著作権法とは異なる規定ぶりとなっています。他方、日本法では、建築の著作物については、屋内または屋外を問わず、例外とされています。また、日本著作権法46条にいう「恒常的に設置」という要件について、柔軟な解釈がなされており、路線バスの車体に描かれている美術の著作物が屋外の場所に恒常的に設置されているものとして認められたバス車体事件はその例であると説明されました。

さらに、Dinusha Mendis先生は、イギリス著作権法31条にある著作物の付随的挿入に関する規定を紹介しました。同条は、美術の著作物、録音物、映画等へのあらゆる種類の著作物(音楽著作物及び音楽の利用に伴う言語の著作物を除く)の付随的挿入が著作権の侵害とならないとする規定です。これに対して、日本著作権法も30条の2において、付随的利用について規定していますが、イギリス著作権法と異なり、日本著作権法のこれは、視覚的著作物(写真や映像)のみならず音楽の著作物にも適用されると規定しています。また、日本著作権法では、一定の場合、意図的な付随的利用も許されるようになっていますが、イギリス著作権法においてはその点明確ではありません。ただ、こうした付随的利用に関する規定は、メタバースを構築上で有益なものであると考えられます。

最後に、Dinusha Mendis先生は、次のように結論を述べました。すなわち、風景の自由に関する例外規定及び付随的利用に関する例外規定はメタバースを構築する上で有益な存在です。しかしながら、イギリス法及び日本法にある例外規定は、メタバースの適用に対して、課題を提示しています。いずれにしても、メタバースが発展していく中で、様々な変化も生じると考えられるため、時間がこうした課題を解決してくれると、Dinusha Mendis先生は述べました。最後に、Dinusha Mendis先生は、感謝の意を表し、報告を終えました。

Dinusha Mendis先生の報告が終わった後、上野達弘先生は、以下のようにコメントをしました。まず、Dinusha Mendis先生が紹介した二つの権利制限規定について、イギリス著作権法と日本著作権法の違いをまとめた後、韓国著作権法の内容に言及し、それがイギリス著作権法と共通する点があると説明しました。質疑応答では、学生から研究者まで様々な質問が飛び交い、セミナーは成功に終わりました。

(文:譚天陽・比較法研究所助教)

 

 

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