公開講演会『ドイツにおける未遂犯論の新動向』
【主 催】 早稲田大学比較法研究所
【共 催】 早稲田大学法学部
【日 時】 2025年3月26日(水)15:00-17:30
【場 所】 早稲田キャンパス 8号館303会議室
【講演者】 ルイス・グレコ(フンボルト大学教授)
【使用言語】 ドイツ語
【通 訳】 天田 悠(香川大学)
【世話人】 松澤 伸(比較法研究所研究所員、早稲田大学法学学術院教授)
参加者:27名(うち学生7名)
2025年3月26日(水)、早稲田大学にて講演会「ドイツにおける未遂犯論の新動向」が開催されました。講演者のルイス・グレコ教授(フンボルト大学)は、師匠のクラウス・ロクシン教授の体系書の改訂をロクシン教授に任されるなど、ドイツ刑法学を代表する存在です。グレコ教授は、「未遂開始に関する考察」について講演されました。
グレコ教授は、未遂開始に関する近時の議論状況について、多くの学説が中間行為説あるいは部分行為説を支持していると紹介しました。中間行為説や部分行為説によると、本質的な中間行為が行われたことで未遂開始としますが、その判断基準は不明確です。判例も部分行為説に依拠していますが、実際の判断では行為者の主観といった他の観点が追加的に用いられているなど、判例においても基準の不明確さという問題があります。グレコ教授は、恣意的な直観的・総合的な判断が行われているとの疑念が生じてしまうと指摘しました。
この問題に対して、グレコ教授は、ロクシン教授が提唱した「具体化された部分行為説」にある2つの基準、「密接な時間的関連性」と「被害者領域ないし構成要件領域への働きかけ」をより発展させた自身の見解について説明しました。すなわち、前者については、「構成要件実現の可能性」がある行為が行われた時点、後者については「最終防衛線(保護ライン)」が超えられた時点に未遂開始が成立するとグレコ教授は論じました。そして、グレコ教授は、この発展させた「具体化された部分行為説」をドイツ及び日本の判例に適用し、それが有効に事案を解決しうると示しました。
質疑応答では、「オレオレ詐欺」の事案における被害者の心理(警戒心)を最終防衛線とすること、詐欺と窃盗で用いられる判断基準の違い、最終防衛線と物理的距離の関係性等、多くの質問が寄せられ、活発な議論が展開されました。
(文:ドイル彩佳・比較法研究所助手)