比研主催イベント:ハレ大学・早稲田大学刑事法若手研究者ワークショップ
日 時:2024年3月23日(土)13:30~18:30
場 所:早稲田キャンパス14号館801会議室
主 催:早稲田大学比較法研究所
共 催:早稲田大学法学部
言 語:ドイツ語(通訳あり)
通 訳:桑島翠(早稲田大学助手)、天田悠(香川大学准教授)、北尾仁宏(東京大学特任研究員)
世話人:仲道祐樹
参加者:23名(うち学生5名)
DAAD-早稲田パートナーシッププロジェクトに基づく、ハレ大学側招聘の一環として行うワークショップである。同プロジェクトは、ドイツ側代表者をHenning Rosenauハレ大学教授が、日本側代表者を仲道が務めている。
本ワークショップの講演者はいずれも、Rosenau教授の助手・助手経験者であり、ここ1〜2年で教授資格ないし博士号を取得したばかりの新進気鋭の研究者である。
カリーナ・ドーネック私講師(2024年4月1日よりトリーア大学教授)からは、企業不祥事が発生した際の内部調査結果の刑事裁判における活用の問題についての報告があった。ドーネック私講師は、内部調査が持つ二面性、すなわち、労働法上被用者にはヒアリングに応じる義務がある一方、それが自らに対する刑事事件の証拠として
利用される可能性があるという状況において、自己負罪拒否特権とのバランスをどのようにはかるかという問題を設定する。そのうえで、労働法上の情報提供義務を被用者に課しつつ、その内容が刑事事件で利用される場合には、王冠証人に類するものとして刑の減軽を認めるという複合モデルを提示する。
キム・リノー博士からは、医事法における正当化的緊急避難についての報告があった。典型的には臓器移植の場面で、ドイツ法のもとで葛藤状態におかれる医師の行為の正当化が問題となる。リノー博士は、手続規定違反と実体刑法違反を峻別し、さらに手続規定違反の中で、法益保護手続と財配分手続を区別する。正当化的緊急避難が登場するのは、法益保護手続の完了前に干渉が行われる場合であり、手続の結果を待つことそのものが、まさに患者にとって危険を生じさせるのであれば手続の遵守を同人に義務づけることは不合理であるという観点から説明される。
ヘニング・ローレンツ博士からは、ゲッティンゲン臓器配分事件を素材とし、派生的 参加権が持つ刑法解釈上の意義および同事件における故意の判断についての報告があ った。前者については、MELDスコアによる臓器分配規則自体が、参加権を具体化するものととらえられ、虚偽の情報を入力して臓器分配リストを改ざんした医師は、臓器斡旋機関を道具とした間接正犯となると整理された。後者については、確実性に境を接する蓋然性公式は、独立した帰属基準ではなく、証拠基準又は証拠法則であるとして、確実性に境を接する蓋然性の認識を必要として故意を否定した連邦通常裁判所判例を批判的に検討した。
各報告について、フロアから様々な議論が出され、各報告者からは補足や新たな観点の提示が行われた。