2023年度稲門奨励賞受賞者について
受賞者
・前田優理香氏
活動内容:自身及び周囲の持つ将来のキャリアに対する不安を払拭すべく、自ら新サークルを設立し、周囲の学生にキャリアを考える機会を提供した。
・金仁浩氏
活動内容:自身のバックグラウンドや海外留学で得た経験を生かし、当研究科が受け入れる留学生に対して、ボランティア活動を自ら企画し、積極的な交流を行った。
- 選考委員所感
本年度の稲門奨励賞として2名を表彰する。
本年度から新型コロナウイルス感染症が5類感染症に位置づけられ、以前のようなオフラインでの活動が復活しつつある。しかし、新型コロナウイルスの影響は大きく、学生同士の関係はもちろん、学生と実務家・教員等という縦の関係すらも希薄になり、当研究科で共に学びを得た者とのつながりが断絶されてしまっていた。
このような環境下において、本年度の受賞者は、自らの問題意識や自身の背景を踏まえて、断絶されてしまったつながりを再度結び付ける機会を自ら作るべく積極的に活動したところにその特徴があると言える。
本年度からは、当研究科在学中の司法試験受験が可能になった。入学から受験までの期間が短くなることで、多くの学生にとっては自ら様々な課外活動に取り組む時間をつくることがより難しい環境となっていると思われる。そのような時代にあって、なおこれほど様々に自らの問題意識に忠実に積極的な課外活動に取り組む学生が引き続き育まれつづけていることに、率直なお驚きと感銘を受けている。
当研究科の学生たちには、司法試験受験対策に傾倒しつつある風潮の中でも、今後も課外活動に積極的に取り組んで、コロナ明けの新たな時代を自らの手で切り拓いていただきたい。次年度以降も、当研究科の学生からさらなる「挑戦する法曹」が続くことを期待している。
・前田優理香氏受賞理由
前田氏の活動のうち、特に顕著な実績として挙げられるのは、法律事務所への訪問や実務家との交流を通じて、学生が自身のキャリアを考えるきっかけを得ることを目的とする新サークル「キャリアキャンバス」の設立に主体的に関与した点である。
前田氏の活動は、単に新サークルの設立に関与し、自身の就職活動の延長線上にとどまるものではない。コロナ禍によるサークル活動の制限、在学中受験制度開始に伴う状況の変化などにより、様々な人とのつながりを得る機会が減少している中で、受験だけではなく今後のキャリアを考えたいものの、情報が不足しているという在学生の不安や問題意識を拾い上げて、そのニーズに応えるべく企画されたものである。このような身近なニーズや社会課題を解決すべく第一歩を踏み出す姿勢は素晴らしいものであり、過去新サークルの設立を理由に本賞を受賞した受賞者の実績と比べても引けを取らない。
このように、自身のみならず、周囲の学生に対しても将来のキャリアを考えるきっかけや情報提供する機会を作った意義は極めて大きい。それに加え、これらの活動を後進たちにもつないでいき、法律事務所への就職のみならず、多様なキャリア形成を見渡すことができる形での取り組みに広げようとする姿勢を有している点は、持続可能な活動に資するだけでなく公益性や社会的影響力も認められ、高く評価できる。
前田氏は、「そのときにしかできないことを精一杯行う。」ということを自身の活動の軸としている。新制度の開始により当研究科での学びの時間が短くなるなかで、まさにその限られた短い時間に、司法試験の合格だけを目的とするのではなく、断絶された人とのつながりを取り戻し、これを発展させていこうとする前田氏の活動は大変希有なものであるとともに、新制度に対応した奨励賞受賞者の一つの在り方を体現するものであり、奨励賞の受賞にふさわしいものである。
・金仁浩氏受賞理由
金氏の活動のうち、特に顕著な実績として挙げられるのは、当研究科が提供するプログラムに積極的に参加し、そこで得た経験を、交換留学生ボランティアをはじめとする国際的な活動に還元し、その発展に積極的に寄与した点である。
金氏は、社会人経験をはじめとする自身のバックグラウンドを強みとして最大限に活かし、多様な課外活動を行った。留学プログラムやトランスナショナルプログラムといった当研究科が提供するプログラムに自発的に参加したにとどまらず、プログラムでの経験を活かした外国人の人権に対する興味関心に基づく一貫した活動には目をみはるものがある。例として、留学プログラム参加中に自身のスペイン語力を活かし自ら志願してimmigration Probonoに参加し、外国人クリニックにも参加するなど、積極的に自らの活動の場を追求していき、主体的に活動を行った。このような当研究科のプログラムを十分に利用しさらに自らの発意に基づいて活動の幅をひろげようとする姿勢は、高く評価されるべきである。
また、金氏は留学プログラムからの帰国後は、自身が現地で留学生として経験したことを踏まえ、「恩返し」をしようと交換留学生ボランティアに積極的に関与し、様々な活動を展開した。特に、交換留学生と当研究科の学生の交流の機会は、新型コロナウイルスの影響により極めて少なくなってしまった。そのため、金氏は、留学生全体のグループを作成し、様々な企画を自ら提案・実行し、交換留学生と当研究科の学生とのつながりを取り戻そうした公益性は評価に値する上、当研究科の提供する資源を存分に利用し外国人の人権問題という今後法曹として取り組むべき公益的な活動の方向性を模索し、見いだす姿勢、自らの経験を当研究科全体に還元し、留学生等を通じて、当研究科の魅力を外部に伝えようとする姿勢には高い公益性が認められる。
このような活動に対する姿勢と活動の多様性は、奨励賞の受賞にふさわしいものである。