理工学術院教授の是枝裕和監督を中心に開講されている「マスターズ・オブ・シネマ」は、担当教員と現役の映像の作り手たちとのあいだで、さまざまな映像作品の実制作をめぐる対話が紡がれる、15年を超える歴史を有する講義です。
実作者たちは何を考え、何を選択し、どのように作品を作り上げるのか。本書では2018~2022年度の授業から21の対話を通じ、その声に耳を傾け、あるいは問いを投げかけ、現代の映像制作の核心を探ります。巨匠と呼ぶにふさわしいヴェテランから新時代を切り開く新世代の作家まで、「いま、映画をつくる」ことの意義、そして可能性を、多様な切り口から学ぶことのできる一冊です。
登壇ゲスト
青山真治/芦澤明子/大九明子/大友啓史/大林宣彦/奥寺佐渡子/菊地健雄/岸善幸/空族(富田克也+相澤虎之助)/黒沢清/周防正行/諏訪敦彦/関弘美/想田和弘/冨永昌敬/中島貞夫/西谷弘/深田晃司/丸山昇一/三宅唱
・担当教員による座談会「映画について教えるということ──講義「マスターズ・オブ・シネマ」について」
〈研究内容紹介〉
今回の本に採録されたものを活字で読み返していると、映画のインタビューってもともとはこういうものだったはずだという確信を強くしました。かつて「カイエ・デュ・シネマ」でゴダールやトリュフォーといった批評家たちが始めた、「我々はあなたの映画をこう見た」と作り手に意見をぶつけて、そこから何かを引き出すような批評の一環としてのインタビューは、すっかり減ってしまった。作り手と批評家の真の「対話」が、今どれだけあるか、この本のサブタイトルにある「対話」というものの価値を改めて考える機会になってほしいと願っています。(藤井仁子)
この講義は公開インタビューではなく、あくまでも対話であり、私たち教員というのは、ある意味で作り手の人たちと学生を結ぶメディアです。そしてメディアというのは、マクルーハンも言っているように透明ではない。だからこそ私たちは、そのメディアとしての責任を果たすためにも、自分の意見をきちんと伝えなければいけない。1つの作品に対し、見る人が100人いればそこには100通りの受容の仕方がある 。その受容のあり方を、できるだけ豊かなものにしていく場がこの授業だと考えています(岡室美奈子)。
早稲田大学文学学術院教授
岡室 美奈子(おかむろ みなこ)
早稲田大学文学学術院教授、文化推進部参与。前・早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長。文学博士。専門はテレビドラマ論、現代演劇論、サミュエル・ベケット論。主な編著書に『ベケット大全』(白水社、1999年)、『六〇年代演劇再考』(水声社、2012年)など、翻訳書に『新訳ベケット戯曲全集ゴドーを待ちながら/エンドゲーム』(白水社、2018)などがある。
早稲田大学文学学術院教授
長谷 正人(はせ まさと)
早稲田大学文学学術院教授。専門は映像文化論・文化社会学。著書に『悪循環の現象学』(ハーベスト社、1991年)、『ヴァナキュラー・モダニズムとしての映像文化』(東京大学出版会、2017年)ほか、翻訳書にトム・ガニング『映像が動き出すとき──写真・映画・アニメーションのアルケオロジー』(編訳、みすず書房、2021年)ほか多数。
早稲田大学文学学術院教授
藤井 仁子(ふじい じんし)
早稲田大学文学学術院教授。専門は映画学。編著書に『入門・現代ハリウッド映画講義』(人文書院、2008年)、『森﨑東党宣言!』(インスクリプト、2013年)、共訳書にスーザン・レイ編『わたしは邪魔された──ニコラス・レイ映画講義録』(みすず書房、2001年)。
(2023年4月作成)