Global Japanese Studies早稲田大学 文学学術院 国際日本学

学生報告書

御手洗靖大 文学研究科 日本語日本文学コース

UCLAシンポジウム参加報告

文学研究科日本語日本文学コース 修士一年 御手洗靖大

2019年3月13日から15日にかけて、UCLAにて行われたシンポジウムに参加した。シンポジウムの表題は「THE WOMAN IN THE STORY -FEMALE PROTAGONISUM IN JAPANESE NARRATIVES」というものである。日本文学における女性主人公をテーマとして、日本の古代文学から現代批評まではばひろくとりあげられた。

三日間にわたるシンポジウムで、印象的であったのは、登壇者の専攻する時代の幅広さである。たとえば、Gaye Rowley氏(早稲田大学)は与謝野晶子による『源氏物語』訳研究で高名であるが、本シンポジウムでは、近世の女性による日記『松蔭日記』の研究発表であった。

日本における日本文学研究者は、多くの場合、専攻する作品の時代ごとのグループに属することが多い。その点、本シンポジウム登壇者は、ある時代のある作品研究ではなく、日本に見られる文学的事象を研究するというアプローチの人が多く見られたというのも、日本の文学研究と異なる点なのかもしれない、ということだ。いわば、文学から日本をみるというアプローチである。もちろん、かならずしもそれだけでは無いだろうが、「日本」というものを理解するための文学研究としての側面があるということである。彼ら(とあえて表現するが)にとって、「日本」という存在、そして日本文学はどこまでも他者なのかも知れない、そう感じた。

日本文学が他者であること。これは、日本語を母語とし、日本人として教育を受け、そして、どこかで自分とつながっているであろうと思いながら日本古典文学を研究しようとしている私にとっては、衝撃的なことであった。改めて、日本文学研究者としての自分の立ち位置を確かめたくなった。

さて、シンポジウムにおいて、私がもっとも関心をもったのが、Sharalyn Orbaugh氏(University of British Columbia)の研究発表である。氏の問題意識は、次のように述べられる。

How can an author write the life of a woman who chooses not to act in a phallocentric space where her every action is by definition counterfit, who chooses not to speak in a phallogocentric echo chamber?

「女性らしさ」という価値観は誰が作り出したか、それは男である。そしてその価値観は、物語のなかにも仕組まれている。女性の人生を記述するとき、その記述が文学的価値があると評価されるためには、主人公には、「男によって評価されるような女性像」が必要となる。Orbaugh氏はそのような主人公の記述を拒絶した二人の女性作家をとりあげた。

FEMALE PROTAGONISUM(女性主人公)は男によって仕組まれたものであるということ。同時に、そこには作者が女であることの価値付けも含まれる。このもっとも顕著な例が、現代短歌における俵万智の出現である。

現代短歌においてもっとも売れ、読まれ続けている歌人は俵万智である。彼女を見いだしたのは佐佐木幸綱という男性であり、また、彼女の評価を決定づけた角川短歌賞次席は、選考委員4人のうちの3人の男性による賛成によって決まった。その代表歌は

「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

である。詳しい分析は論旨がズレるためこれ以上の言及はしないが、Orbaugh氏の問題意識をもとに、現代短歌における女性主人公(=女性歌人)を考えることが可能である。このことをシンポジウムでの質疑で指摘した。現代短歌における女性主人公の問題は今後の研究課題としたい。

研究課題に加えて、同じく和歌を研究対象とする院生仲間ができたことも記しておきたい。イェール大学のEric Esteban氏は英語の理解力のない私に、発表内容の要旨を手早くまとめ、理解を促してくれた。

優秀な海外の仲間ができたのは、研究生活においても非常に大きい。ともすれば日本の中で完結するようにおもわれる研究生活に、今後世界へのまなざしを与えるだろうと思われる。

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