報告書
文学研究科美術史学コース 博士後期課程2年 太田小雪
この度、2024年10月27日から12月4日にかけて、SGU国際日本学拠点の派遣大学院生としてカナダと米国にて滞在研究を実施した。10月27日から11月30日までの約一か月は、バンクーバーのThe University of British Columbia(UBC)Department of Asian Studiesに滞在し、授業参加及び同大人類学博物館(MOA)での展示見学と作品調査を行った。続く11月30日から12月4日にかけて米国・シアトルに滞在し、University of Washington(UW)での授業参加とSeattle Asian Art museum(SAAM)での作品調査を行った。
UBC滞在中はアジア研究科で開講されている授業を中心にゼミや講義に参加させていただいた。Adheesh Sathaye教授によるインドの叙事詩である『マハーバーラタ』を読み解く講義や、Tsering Shakya教授によるチベット・ヒマラヤ地域に関する講義、また中村冬日教授によるアジアの視覚芸術に関する講義、Christina Laffin教授による日本文学のセミナーなど、計8つのクラスに参加し、毎週10回の授業に参加する形となった。各講義、セミナーともに事前のリーディングを踏まえつつ学生が積極的に発言、議論を行っていたことが印象的であった。特にLaffin先生のセミナーでは人文系の論文を書くにあたりどのような方法論や理論的枠組みを使用していくかについて文学研究を超えた様々な人文系の論文を読みながら議論を重ねる形式で今日のアジア研究のアプローチ方法などを学ぶことができた。同セミナーでは滞在最後の回で本学の山本聡美先生による「人新世と人文学」に関する講義もあり、学生たちとこれまでの議論を振り返りつつこれからの人文学研究の視座について知見を深めることができたのは大きな収穫となった。
加えてUBC滞在時には同大の図書館が所蔵する貴重図書やMOAが所蔵する作品を直接調査する機会も得た。特にMOAにてアジアのコレクションを担当する中村冬日先生から同館の蒐集背景や特色についてご教示いただき、今後の自身の研究対象ともなる、未紹介作品が数多く所蔵されていることを確認できた。この他にも、同館はカナダ先住民資料に関する先駆的取り組みにおいて、人類学博物館としての世界的なロールモデルとなっていることも知り、滞在中に何度も訪れることができたのは展示の在り方を詳細に学ぶ貴重な機会となった。
またその後のシアトル滞在時にはUWのMiriam Chusid教授の担当されている仏教美術に関する講義(宗教的造形を博物館で所蔵する意義や歴史的背景について)が、私の研究の関心と重なる内容であり、その回に参加できたのは幸運であった。その後Chusid先生、山本先生と共にSAAMを訪問し同館学芸員のAaron Rio氏、修復担当の Tanya T. Uyeda氏のご協力のもと作品調査を行った。北米の博物館でのアジアの蒐集・展示について、研究者や学芸員の方々から実際の作品の観覧とともに教えていただくことができたのはまたとない学びの経験であった。
繰り返しになるが今回の滞在を通して、講義やセミナーまた日々開催される講演イベント、資料の閲覧等で学内外の学生・研究者の方々と交流できたことが最大の刺激になったと言える。1か月という短い期間ではあったが、素晴らしい先生方と研究者・学友に恵まれ、手厚いサポートをいただいて非常に充実した滞在となった。皆様に深く感謝しつつ、この経験を今後の研究活動に活かしたい。