- 日時:2021年11月20日(土曜日)14:00〜17:15
- 場所:早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)オーディオルーム
- 主催:早稲田大学国際文学館
- 共催:スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点
- 協力:柳井イニシアティブ グローバル・ジャパン・ヒューマニティーズ・プロジェクト
1. 開会の辞(14:00〜14:05)
・ 十重田裕一 早稲田大学国際文学館館長・文学学術院教授
2. 国際文学館館内オンラインツアー(14:05〜14:15)
※当館ウェブサイト・イントロダクションの『ロバートキャンベルさんの案内で国際文学館に入ってみよう』でフルバージョンをご覧いただけます。
3. 第一部 対談 「物語と心――ストーリーが生まれ、人々に届くことをめぐる二つの語り合い」(14:15〜15:25)
・ 小川洋子 作家
・ ロバート キャンベル 国際文学館顧問・早稲田大学特命教授
・ Q&A:栗原悠 早稲田大学国際文学館助教
4. 第二部 鼎談 「越境する文学――創作と翻訳」(15:40〜17:10)
・ 李琴峰 作家
・ 由尾瞳 早稲田大学文学学術院准教授
・ 榊原理智 早稲田大学国際文学館副館長・国際学術院教授
・ Q&A
5. 閉会の辞 (17:10〜17:15)
・ ロバート キャンベル
総合司会
・ 権慧 早稲田大学国際文学館助教
シンポジウム概要
第一部では作家の小川洋子氏と本館顧問のロバート キャンベル氏が対談を行なった。
まずキャンベル氏が小川氏に国際文学館への印象を尋ねた。小川氏は、「村上春樹さんのデビュー作の『風の歌を聴け』でいうと、風のよどむ場所がなく、ときどき自分が何階にいるかわからなくなる」と語った。
次いでキャンベル氏は『人質の朗読会』のエッセンスを伝え、一部を朗読しつつ「小川さんの物語を読んで、通底しているものを考えると、人々の中にある「当たり前」が奪われていくことのに対して人はどのようにバランスをとろうとするのか」と問いかけた。小川氏はこれに「抵抗しない人の強さ、現実を受け入れる強さを私は書きたい」と応じた。
キャンベル氏は自身の専門である近世文学に引きつけながら、「日本で暮らす人の中で普遍的に共有されている感じ方」として、「<苦・楽>が一つの言葉としてめぐりくるものとしてあり、不幸をやり過ごすことが幸福である、という思想が基層にあるのではないか」と述べた。
最後に、『密やかな結晶』を小川氏が日本語原文で、キャンベル氏がスティーブン・スナイダー英訳で朗読した。
Q&Aセッションでは、小川文学に繰り返されるモチーフの問題やインスピレーションについて質問が相次いだ。
第二部では、まず由尾瞳氏が「日本文学の海外での翻訳と受容」をテーマに、英語圏における女性作家や翻訳家の活躍に焦点をあてた。
主に男性作家の作品が翻訳されたきたことに対して、1990年代から女性作家も次々に文学市場に登場しはじめたという。この現象とともに注目に値するのは女性翻訳家たちのグループの登場であることも指摘されている。
榊原理智氏は授業で学生たちと一緒に『彼岸花が咲く島』を読んだ時の感想を紹介し、物語のユートピア的な冒頭とディストピア的な設定などを列挙し、学生から続編のリクエストを伝え、報告をしめくくった。
李琴峰氏は小説の執筆と自作を訳す作業について紹介し、「自分の作品だからこそ、仕掛けや細かいところまでわかっていて、“直す”権限がある」と話した。さらに、『独り舞』は日中両語で異なる部分があるといい、日中両語で『独り舞』の一部を朗読した。
三人の報告後には、李氏の作品を中心に、二言語創作、ジェンダー視点からの創作、越境し続けている文学など議論は幅広いトピックに及んだ。
Q&Aセッションでは、李氏の創作活動を中心に多言語による文学環境などに質問が集まった。
以上のように、本シンポジウムは国際文学館館内からのライブ配信によって200名に近い視聴者を得、また多くの質問が寄せられる結果となった。現代日本文学や越境しつづけている文学に対する関心の高さを伺うことができた。