Authors Alive! ~海外文学最前線~ カミラ・グルドーヴァ講演・朗読会(2025/5/28)レポート

早稲田大学国際文学館 研究助手 佐藤優果

翻訳者の育成と翻訳文学の発展、世界各国の翻訳者交流を目的とする「国際文学館翻訳プロジェクト」。2年目となる本年は、すでにスタートした翻訳者レジデンシーに加えて、作家や編集者を海外から招聘し、講演や交流活動などに携わっていただくプロジェクトが進行中です。その第一号として、カナダ出身、スコットランド在住の作家 カミラ・グルドーヴァ(Camilla Grudova)さんを5月22日(木)~6月6日(金)の間招聘しました。そして、5月28日(水)には国際文学館にてグルドーヴァさんに対談と朗読を行っていただきました。聞き手は、文学館顧問でグルドーヴァ作品を翻訳している(「アガタの機械」、MONKEY23号)柴田元幸さんが務め、『人形のアルファベット』(河出書房新社、2025年)単行本訳者の上田麻由子さんにも登壇いただきました。

まず、グルドーヴァさんがどのように作家になったのかということからお話しされました。幼少期にアーティストの母やその友達の作家と共同するように物語を書くことをはじめたグルドーヴァさんは、グロテスクな物語が原点にあったと言います。影響を受けた作家について話すことが好きだとさまざまな作家の名前を挙げられました。おとぎ話をリライトするアンジェラ・カーターや、ロアルド・ダール、バーバラ・コミンズ、バーバラ・ピム、レオノーラ・キャリントン、メアリー・ノートンといった面々です。作家として進化するために、いろいろなものを読む必要があると感じているグルドーヴァさんは作家である前に読者であると言います。柴田さんは、影響を受けた作家たちの共通点として、社会に抑圧されていた女性が多いということを指摘しますが、グルドーヴァさんはどちらかというと想像力やスタイルといった特徴を好んでいたと答えます。そして関連して、自分の作品を特定のメッセージを伝えるために政治的に書こうとしているわけではないが、予想しないものが解釈によって広がっていくことの可能性について言及されました。

次に、グルドーヴァさんの作品のグロテスクさが、三つの作品(第一短編集『人形のアルファベット』、長編Children of Paradise、第二短編集The Coiled Serpent)を通してどんどん上がっているという話から、小説のグロテスクさ——たとえば汚いトイレなど——は、読者にショックを与えるために描かれているのではなく、階級の問題と結びついているというお話がありました。そして、1作目はカナダのトロントらしく、つづく2作はイギリスのエディンバラで書いたので、住む場所が作品に反映されているかもしれないと、美しいエディンバラについて、ミュリエル・スパークの移動と執筆の話、スティーブンソンの『ジキルとハイド』はロンドンというよりはエディンバラの二面性を書いていると読めること、『トレイン・スポッティング』の街でもあることを語りました。

今回翻訳された具体的な作品についての話題も語られました。「アガタの機械」はどのように生まれたのかを柴田さんが質問すると、グルドーヴァさんは、1920年代の切り絵を使ったロッテ・ライニガーの映画、マリア・ワーナーの伝記、反転された色の服を着たウクライナの道化師、エルサ・モランテの小説など多くの着想源について語りました。「アガタの機械」で見たくないイメージが視界に飛び込んでくるのは、インターネットでさまざまな画像を目にしてしまうこととつながっている、また本作は白昼夢といった体験と結びついているかもしれないという言葉に、そうした日常的な経験がリアリズムでない小説に入りこんでくること、そのリアルさがグルドーヴァさんの小説の魅力だと柴田さんは指摘しました。

その後、翻訳者の上田麻由子さんに登壇いただき、主にイギリス滞在時に取り組んでいたグルドーヴァさんの小説を訳す楽しさや、原文のシンプルで削ぎ落とされた表現を日本語にする工夫を語っていただきました。「蝋燭受けの悲しき物語」「蛾の館」のような柴田さんいわく「想像力の暴走」的グルドーヴァさんの小説の濃密さにチューニングするのは時間がかかること、対照的に静けさに満ちた作品はスムーズに入り込むことができるというお話をいただきました。装画を担当したタダジュンさんにも、表紙に使われた絵をご説明いただくという嬉しいサプライズもありました。

最後に、グルドーヴァさんによる原文と上田さんによる翻訳を一節ずつ交代する朗読が行われました。「ほどく」”Unstitching”を堪能したあと、グルドーヴァさんはイメージや細部に注目してほしいと言いつつも、「女性には内面がない」と扱われてきたことからこの小説が書かれていると語りました。それから、会場のみなさんとの質疑応答の時間が設けられ、翻訳やそのクリエイティビティ、日々の執筆スタイルについて、また日本の印象や、黒澤明『七人の侍』、小津安二郎、安部公房、三島由紀夫『仮面の告白』を好まれていることなどをお話していただきました。


カミラ・グルドーヴァ(Camilla Grudova)
カナダ出身、スコットランド・エディンバラ在住。マギル大学で美術史とドイツ語の学位を取得。2016年「ワクシー」でシャーリイ・ジャクスン賞(中篇部門)を受賞。同作は、翌年の英国幻想文学大賞の最終候補にも選出された。2017年、デビュー短篇集『人形のアルファベット』をフィッツカラルド・エディションズより刊行し、話題になる。2023年、初長篇Children of Paradiseが女性小説賞の候補に選出。同年、『グランタ』誌が十年ごとに選出する「若手作家ベスト20」に選ばれる。他の著書にThe Coiled Serpentがある。

上田麻由子
文筆家・翻訳家。上智大学非常勤講師。訳書に、ヘレン・オイェイェミ『あなたのものじゃないものは、あなたのものじゃない』、サンドラ・スター『ジョゼフ・コーネル 水晶の籠』、ロクサーヌ・ゲイ『むずかしい女たち』(共訳)、シリ・ハストヴェット『震えのある女』など。著書に『2・5次元クロニクル2017-2020――合わせ鏡のプラネタリウム』などがある。

柴田 元幸
米文学者、早稲田大学特命教授、国際文学館顧問、翻訳家。ポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、レベッカ・ブラウン、スチュアート・ダイベックなどアメリカ現代作家を中心に翻訳多数。文芸誌『MONKEY』日本語版責任編集、英語版編集。


【開催概要】
・開催日時:2025年5月28日(水)18時30分~20時
・会場:早稲田大学国際文学館 地下1階
・主催:早稲田大学国際文学館

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