【国際文学館翻訳プロジェクト】ローレル・テイラーさん 滞在レポート(2025/11/23-12/08)
2026.02.09
「国際文学館翻訳プロジェクト」は、若手翻訳者の育成、翻訳文学の発展、そして世界各国の翻訳者交流を目的として、2024年度にスタートしました。その一環として、海外の翻訳者を日本に招き、1か月ほど滞在していただきながら研究活動や講演、ワークショップを行う 「翻訳者レジデンシー」 を実施しており、米国デンバー大学で日本語・日本文学の専任講師を務めるローレル・テイラーさんに当館に滞在いただきました(滞在期間:2025年11月23日~12月8日)。12月3日にはトークイベント【Translators Talk】翻訳と創作 二人のローレル・テイラー?にご登壇いただき、翻訳者として、また詩人としての両方の視点からお話しいただきました。以下、ローレル・テイラーさんの滞在レポートをお届けします。
ローレル・テイラー
2020年の前、私は「感染」という単語を日本語では知らなかったが、世界パンデミックを通したら、もちろん知らないわけがなくなった。そして2025年の12月に早稲田の国際文学館の翻訳レジデンシーから帰国し、一週間も経たず、私はインフルエンザに感染された。「感染」を経験した。
滞在レポートにはこれが不幸の始まりのように聞こえるかもしれないが、インフルでベッドから起きられない間、「感染」の妙な字を考え始めたのだ。なぜかというと、その言葉の中に「感じる」、そして「染める」が生きているからだ。つまり文字通りに考えれば、ある「感じ」が自分という生地を染めていったわけなのではないか。
病気の場合、その「感じ」の実体はもちろんウイルスや細菌のことだが、感染されているものが実に「感じ」なのであれば、「感染される」ことは生物的な健康のことに限られていないともいえるだろう。思考、気持ち、本能、勘。こういった無形のものも自分という織物を染めることができる。そしてそうであれば、海外でレジデンシーをするという経験はその織物を今までの色の変更を喜んで受け入れるのに違いない。
レジデンシーは何より自分の環境を変えたり、日常を崩したり、注目をナイフのように研いだりすることのためのものだ。私が早稲田に到着したら、その通りにした。締め切りに追われながら、十一月中旬に来日し、国際文学館でのレジデンシーを文学という気高い理想のために使うように私は誓った。
今年瀬尾まいこ著の『そして、バトンは渡された』の英訳と『ありか』のサンプル英訳をすることになり、そのため早稲田の日々をほとんどその前者の編集と後者の翻訳作業の締め切りに間にあうために使用していった。つまり、私という布を瀬尾の「感じ」に自ら染めていった。瀬尾の色は何かというと「家」に近いような気がする。現代の社会で「家族」というと今でもその理想が親子三、四人の核家族だと日本でもアメリカでも言えるだろうが、私は実家を離れてからほとんど気まぐれの猫一匹と過ごしてきたので、大人としてそのようなきれいすぎる核家族の写真を一回も撮っていない。
しかし、私が生きている人生には家族がないと思ったら、そうでもない。早稲田にいる間、かえって私の文学の家族と一緒に温かい時間を過ごせることができたからだ。瀬尾が描く人物のように、私の家族は結婚や血で結ばれたものではなく、他の糸で結ばれていると私はよく思う。国際文学館のレジデンシーでそれぞれの翻訳作業を無事に終わった上、柴田元幸さんをはじめ、由尾瞳さん、伊藤比呂美さん、小磯洋光さん、川上未映子さん、ここで全員の名前を書くと永遠になりそうな私の文学家族のメンバーである詩人、翻訳家、作家に再会できた。彼らの色とりどりに染まった。
文体や好きな作品、影響を受けた作家や詩人、言葉への不思議な好奇心といった無形の感じで私たちは家族のようなものになる。例えば、滞在中、隣町珈琲で柴田先生と伊藤先生と対談を行なわせていただき、そして、あそこで小野小町の話をしたら、伊藤先生も小野小町よりインスピレーションは受けているということがわかった。つまり、文学家族の中では小野小町が私たちの曾×42おばあさんだった。私たちはわざと小野小町の色を自分の布に少々加えた。
同じくある日、松田青子著作品を翻訳しているAsri Pratiwi Wulandariさん(インドネシア語)、Geywalin Likhitvidhayavuthさん(タイ語)、Rita Kohlさん(ポルトガル語)三人プラス松田先生本人の座談会を拝見することができ、昼食で英語の帝国主義的な支配性に対してどうやって抵抗すべきかについて話し合いも互いにでき、そちらの方々のフェミニスト文学への関心で新しい文学家族の色を四つも見つけた。
早稲田文学館での翻訳滞在のおかげで自分の一般的に地味な日常の服装が新たな多色の柄を得、自分の文学への感じ、自分の文学家族が前より幅広く色深くなった。何より感謝している。
ローレル・テイラー

米国コロラド州生まれ。現在翻訳家、作家、デンバー大学で日本語・日本文学の専任講師として勤務。アイオワ大学修士課程修了(文学翻訳)、ワシントン大学セントルイス博士課程修了(日本文学・比較文学)。バチェラー八重子、松田青子、藤野可織、瀬尾まいこ、様々な作品を英訳。川上未映子の『黄色い家』(Knopf)の由尾瞳と共訳が2026年3月出版。詩集『Human構造』(七月堂)2024年出版。
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