Waseda Weekly早稲田ウィークリー

コラム

「早稲田スポーツ」以前【第2回】

それは武術からはじまった

大学史資料センター非常勤嘱託 大江 洋代(おおえ・ひろよ)

我らが早稲田大学体育各部の源流をたどれば、それは1895年4月設立の早稲田倶楽部に求めることができるとされる。けれども、それ以前の「スポーツ」については、先号で紹介した運動会を除き不明な点が多く、謎に包まれていた。しかし、現在、本学で取り組まれている『早稲田大学百五十年史』の編纂(へんさん)過程で、その姿が次第に明らかになってきた。「早稲田スポーツ」以前【第2~3回】では、大学史における最新の研究成果を織り込みながら、草創期の学生による知られざる「スポーツ」について考えてみたい。

創立から5年目、1887年当時の学校地図には「撃剣道場」という15坪の建物が書き込まれており、学内に「撃剣」を行う場があったことが確認できる。この道場を用いて行われていたと考えられる撃剣活動が、毎週日曜開催の「振気会」であった。月会費制の校内撃剣サークルである。修行者がふらりと道場に立ち寄ることもあったようで、近隣に鳴らした道場であったのかもしれない。

明治時代の撃剣部と大隈重信(大学史資料センター所蔵)

さらに「撃剣道場」では、1882年、講道館の嘉納治五郎によって生み出された「柔道」も活動していた可能性もある。「講道館修行者誓文帳」には、1885年に2名の東京専門学校在学生の名前が確認できるという。

そして、撃剣や柔道に励んでいた学生は、猛者という言葉がふさわしい者たちであった。「当時の学生というものは、こんにちの皆さんと比べるとずいぶん極端なことを好みました。例えば体育に熱心な人は、ほとんど体育気狂といってもよいぐらいで、授業に出ないで、毎日相撲を取ったり、撃剣をやったりしていました。甚だしいのになると、寒空に毛布一枚、袷衣一枚きりでやってくるのですが、そういう体育の野心家がいました。そのかたわらでは非常な勉強家が苦学していて、一杯の水と一塊のパンでしのいで本ばかり読んで昼も夜も青い顔をしています。(中略)そういう時代を我々はどう考えて居たのかというと、ずいぶん世間に向かって誇っていましたよ。これこそがまさに自由教育の特色であると。したがって学問の独立というものも、この自由の境涯から起きるものと威張っていたのです」(宮川鉄次郎、1888年卒)との回想が示すように、本学の創立間もないころ、「スポーツ」がすでに、早稲田の校風の一部を構成していたことは感慨深く思われる。

また、明治後期の卒業生の回想となるものの、「中心人物もなく、いわゆる烏合の衆の集まりに過ぎなかった。部長もなければ、面倒な規約もなく、腕に覚えのある連中が、各部をかけもちで対外試合に出場していた」(泉谷祐勝、1906年卒)という思い出も語られている。したがって、このころの「スポーツ」は、組織的かつ日常的に行われているものではなく、現在の体育各部やサークルのようなイメージとだいぶ異なるということも判明する。

さらに当時は、後に早稲田スポーツの象徴となる野球など西洋由来のものではなく、撃剣、柔道、相撲といった伝統武術が好まれていた点にも注目したい。全国から東京専門学校に集まってきた学生たちは、そのふるさとで磨いてきた武術を競っていたのかもしれない。

だが、この時代は、日本の武術全体が変化する時期でもあった。伝統武術に西洋由来のスポーツの考え方が取り込まれ、武術が武道へと変化していく途上にあった。また、教育の場では、知育と徳育が一体化した「体育」という考え方が重視されはじめていた。伝統武術にも近代化の波が押し寄せていたのである。

学生がめいめいに鍛錬していた「スポーツ」の舞台はどのように変化していったのであろうか。次号をお楽しみに。

参考文献: 「在京国誌」(「2016年度篠田ソノ子氏寄贈篠田克己旧蔵資料」、大学史資料センター所蔵)、和田穣「創立時の東京専門学校校舎について」(『早稲田大学大学史記要』9 、1976年)、早稲田大学編刊『早稲田大学八十年誌』(1962年)、第五十回記念早慶対抗剣道史編纂委員会編刊『早慶対抗剣道史 第50回記念』(1985年)、早稲田大学柔道部百年史編集委員会『早稲田大学柔道部百年史』(早稲田大学柔道部・柔道クラブ、1997年)

「早稲田スポーツ」以前【第1回】

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