数年前のことになるが、早稲田大学をはじめとする都内の大学で地方出身学生の割合が減少傾向にあるという報道に接したとき、意外な気がした。早稲田大学と言えば、各地から学生が集まるイメージがあったからだ。しかし、実際に教員として教え始めてみると、もちろん留学生にも地方出身の学生にも出会うが、確かに首都圏出身の学生が多い。
こうした背景には、経済的な要因などとともに、若い世代の「地元志向」があると言われ、後者の理由については好意的な見方もあるだろう。ただ、私自身の実感も込めて述べるなら、生まれ育った場所とは異なる地での生活を(自らの意志により)経験することは、大いに意味があると思っている。かく言う私は地方の出身で、大学入学を機に上京し、その後は外国留学を経て、出身地域とは異なる地方にもくらした。そして、それぞれの地で、ふとした瞬間にこれまでの自分の常識が通用せずに戸惑い、結果、それがある種の思い込みに過ぎず、別のものの見方・考え方があることに気づかされる経験をした。それは、この地方にはこんな珍しいものがあるとか、こういう施設がないとか、そういった表面的なことではなく、自分のものの見方がいかに一面的であったかを痛感させられるような体験であった。
無論、こうした気づきは、住む場所を変えなければ得られないというものでもない。学生の皆さんには、日本の各地や国外での活動やフィールドワーク、さらには、様々な立場の人たちと話をし、本を読むことなどを通じ、多様なものの見方・考え方に接する経験をしてほしいと願っている。
第1042回
(M)