【学生の声】まつだいスタディツアー「アートを支える」に参加して
文学部2年 二上 結
ほくほく線を降りてまつだい駅の改札を出ると、眼前には紅葉がかった山々が広がっていた。大学周辺では見ることのできない清々しい風景に、思わず一つ深い息を吸った。だが木々の合間に目を向けると、そこには赤や青といった原色で彩られたアート作品が点在している。何と違和感のない調和であろうか。アート作品といういわば「人工物」が、自然との境目を感じさせずに木々の合間に存在し、かつその光景があるがままのものとして目に飛び込んできたことに私は非常に驚いた。
集合時間の一時間前に到着してゆとりがあったため、駅構内や周辺を散策していると、旅行に来た、という風な人々が想像していたよりも多くいることに気が付いた。もちろん、テレビなどで芸術祭の特集が組まれ、話題となっていることは知っていたが、実際に訪れるまでは、夏休みなどの休暇シーズン以外にも賑わいを見せているとは思っていなかった。
そのため、普段から観光客が来ており知名度のあるプログラムに、これからボランティアとして関わることに少し緊張を覚えたのを記憶している。
集合した後、まず初めに車で山中を案内していただいたが、山道のカーブを曲がる度に突然アート作品が現れるため、ここでも再び何度か驚いたことを覚えている。屋外展示と言えば、それまで美術館の庭園に置かれた銅像ぐらいしか見たことのなかった私の目には、その景色がことごとく新鮮なものに感じられた。
そもそも私が今回のスタディツアーに参加しようと考えたのは、主に二つの動機による。一つは、学芸員の資格課程を履修しており、「大地の芸術祭」において作品を屋外でいかに保存・展示しているのか興味を持ったことだ。もう一つは、祖母が糸魚川市に住んでいるのだが、同じ新潟県内でも松代は訪れたことのない地域であったことだ。
他にも、泊りがけで長時間にわたってボランティアしたいと考えたのも大きな理由である。今回のように宿泊を伴うプログラムに参加するのは初めてであったため、二日間も行動を共にするメンバーと果たして上手くやれるだろうか、と当初は不安に感じていた。しかし、皆優しく面白い人ばかりで、時間はあっという間に過ぎ、ツアーの終了した現在では互いに連絡を取り合う間柄となった。素敵な仲間と出会えて本当に良かったと思っている。
実際に作業をする中で、様々な気付きや学びを得たが、特に印象に残っているのは雪に関するものだ。
一日目には「かかしプロジェクト」というかかし型の作品を地面から抜き、ブルーシートで包む作業をしたのだが、そうするのは雪が降ると作品が雪に埋もれて曲がってしまうからだと伺った。作品は三人がかりでないと持てない程に重量のある金属板で作られていたのだが、それも曲がってしまう程に雪は重く積もるのだと知って驚いた。
作品の雪囲い以外にも、木の枝を落としたり、木々同士を束ねたりする作業や、通路に雪除けのネットを垂らしたりする作業を行った。今回、実際にアート作品に触れる機会は少なかったが、雪に備えて行った一つ一つの作業はすべて、結果的に芸術祭を支える行為となっているのだと気付いた。
芸術祭が開幕した当初、地域には開催に反対する住民の方々も少なからずいたという。農舞台の入り口へと続く通路沿いに、屋号が書かれた板が並べられていたのだが、そのうち色の塗られたものは芸術祭に当時賛同していた家庭のもので、無色のものは反対していた家庭のものだと伺った。このように賛成・反対に関係なく、地域全ての家庭の屋号が並べられているのはいいね、とメンバー同士で話した。
松代のようにいわば「来るもの拒まず」の精神を持つ地域は素敵だ。一日目の晩に、十日町市役所松代支所の方々とお話しする機会があり、松代はただの観光地ではなく「交流地」を目指している、と伺った。私自身、初めて松代を訪れたにも関わらず、二日間を通して常に自然体でいることができた。地域の方々は皆さん親戚のような温かさをもって関わって下さり、「よそ者」とし見られていると感じた瞬間は一度もなかった。このような地域は他には滅多にないと言えるのではないだろうか。
松代では食の魅力にもたくさん触れることができた。棚田ハウスや農舞台での食事は松代地域で採れた食材を豊富に使用しており、一品一品の味わい深さには舌鼓を打たずにはいられなかった。それらの料理は地元のお母さんたち、という風な方々が丁寧に作ってくださっており、私たちにどこから来たのか、松代はどうか、と気さくに話しかけてくださった。あたかも祖父母宅を訪れたかのような温かみのある食卓であった。
今回の旅は、人と関わることの楽しさや大切さを再確認する時間となった。普段おのずと小さな殻に閉じこもりがちな私であるが、この二日間によって、自分の世界を広げられたと確信している。今回のように機会を見つけたならば、多少不安があったとしてもまずは迷わず飛び込んでみることが大事なのだと身をもって感じた。今後もWAVOCなどのプログラムを通して、自分とは専攻も興味範囲も異なる様々な人と出会い、自分自身を刺激し、その経験をもって成長の糧としていきたい。