WAVOC20周年記念インタビュー
~学生時代のボランティアが今の原動力に ~ 岩瀬 詩由さん
2022年に設立20周年を迎えたWAVOCでは、早稲田大学在学中にボランティアに関わり、現在は社会人として活躍されている方々にインタビューを行っています!
WAVOC学生リーダーの池田は、読売新聞記者の岩瀬詩由さんにお話を伺いました。岩瀬さんは、教育学部理学科生物学専修をご卒業後、環境・エネルギー研究科に在籍中、狩り部でご活動されていました。狩り部の活動やWAVOCの授業、在学中のご研究を通じて、動物と人との共生は簡単ではないと感じたと言います。そんな経験が原動力となり、「動物記者」になりたいという岩瀬さんに、様々な人の意見を聞くことの大切さを教えていただきました。
狩り部の活動について
――どうして狩り部に入部されたのですか?
もともと動物との共生に関心があり、「環境とボランティア」という授業で岩井先生とお会いしたことがきっかけです。その授業では、タンザニアでアフリカゾウとの共生を実践します。その際に、アフリカゾウとタンザニアの方々が共生できていない実態を知りました。そして、岩井先生から狩り部のお誘いを受け、日本でも獣害があることを知り、自分にも何か獣害対策ができないかと思い入部しました。
――狩り部の活動で印象的だったことは何ですか?
一番印象的だったのは、罠にかかっていた動物の「解体」です。「命を奪った」「命をいただいてしまった」という感覚がありました。だからこそ無駄のないようにおいしく食べようと思いましたね。解体以外にも、皆で美味しいお肉を食べたり、取れたての筍をごちそうしてくださったり…そんな思い出もあります。

狩り部での解体作業の様子
WAVOCの授業について
――WAVOCの授業を履修されたきっかけは何ですか?
「社会貢献とボランティア」「戦略的環境研究」という2つの副専攻を履修していて、その副専攻を学ぶ中でWAVOCの授業も多く履修しました。
学部では、生物のことを学んでいたのですが、生物のことだけを学んでいても、人間と生物がどのように共生するかは見えてこないと感じていました。そこで、文理両方の感覚が欲しいと思って、副専攻を履修しました。
――その中で、「社会貢献とボランティア」を履修されたきっかけは何ですか?
両親が動物愛護に関する活動をしていたことが関係しています。私が子どもの頃から、家にも犬や猫がいて、里親さんに出す前に家で一度引き取ったり里親を探すイベントに一緒に出たりと、保護ボランティアのようなことをしていました。その活動を通じて、子どもながらに「ボランティアは何となく良いことだ」という認識を持っていました。ですが、動物愛護に関する活動では、避妊・去勢はきりがなく、「ボランティアはいくらやってもきりがない」という両親の声を聞くこともありました。ボランティアが頑張っても、ボランティアをしている人自身が疲弊していってしまう現状があり、「ボランティアに対する懐疑心」のようなものを抱くようになりました。こうした背景から、大学生になってそもそも「ボランティアとは」という疑問を抱くようになり、自分がボランティアを実践しつつもボランティアのことを学問的に学びたいという思いで、副専攻を履修しました。
――「ボランティアに対する懐疑心」とはどのようなものですか?
保護猫に関しては、「そもそも捨て猫はどうして増えてしまうのか」という根本的な原因を突き止めないと、いくら避妊・去勢をしても問題の解決は難しいということを、両親の活動する姿を見て感じました。あとは、これはタンザニアで感じたことでもあるのですが、お菓子をねだってくる子どもがいて、でもそこでお菓子をあげてしまうのが本当に良いことなのかと疑問に思いました。お菓子をあげるというのは、その場だけの解決になってしまうと思っていて…もっと広い視野で考えると、途上国支援として物資を送るのは良いことなのかといった問題にも通じてくると思います。ボランティアのやり方によっては、また違ったことを感じるかもしれないのですが、私はこのようなことを感じていました。
――先ほどお話があった、岩井先生の授業でのタンザニアでの実習ではどのようなことをされたのですか?
2週間で一週間ずつ2つのタンザニアの村に行きました。ホームステイのような感じで一緒に寝泊まりをして、現地の防護柵を見て回ったり、被害に遭った方のお話をうかがったりしました。

タンザニアでの集合写真
――実習を通じて、どのようなことを感じましたか?
動物園も好きでよく行っていたのですが、柵越しで見るので、動物に対する感情としては「かわいい」という思いが強かったです。それに対して、現地では、食事をする場所から一歩出たらハイエナが目の前にいたということがあり、強い恐怖を感じたことを覚えています。もし動物園だったら、ハイエナに対しても「かわいい」「かっこいい」という感情を抱いていたと思うのですが、実際に野生のハイエナを見たら「やられる」「逃げなきゃ」と思いましたね。アフリカゾウに殺された方がいるというお話を伺った後だったので、なおさら恐怖心を覚えました。動物に対して、初めて「かわいい」ではない感情を感じた瞬間です。ですが、それが本来あるべき野生の姿なのではないかと思いました。実際に若い男の人がアフリカゾウに踏み潰されたというお話をうかがって、「仲良く手を繋いで一緒に暮らす」という形の共生は難しいのだと感じました。現地のNPOの方に「共生するにはどのようにすれば良いと思いますか?」と聞いたら「壁を作るしかない」と言われたこともありました…。このようなお話をうかがって、正直ショックでしたね。それまでは、動物との共生と言うと「ペット(愛玩動物)との共生」というイメージを持っていて、「仲良くみんなで平和に」と考えていたのですが、リアルなお話を伺って現実はそうはいかないのだと痛感しました。
――ボランティアに関する授業を受けて感じたことはありますか?
学生が行うボランティアとしては「お世話になった」という気持ちが大きいですね。「勉強させてもらった」という感じです。「(自分が)役に立った」という気持ちは正直全然なくて、そこまではできなかったです。ただ、できなかったからこそ「社会人になったらこういうことをしたい」という原動力にはなりました。大きい意味での「ボランティアとは」という問いに対する答えはまだ出ていないのですが、学生ボランティアという意味では、社会に出るときの原動力になるのではないかと思っています。ボランティアを受け入れてくれた方々にとって、自分たちが実際に役に立っていたかは分からないのですが、「意味がない」ということはなく、世界を少しでも良くしたいという気持ちが芽生えること自体に意味があるのかなと思っています。社会人になって自分で何かをしようというときに、還元できたら良いなと思って、私は仕事に励んでいるところです。おこがましいですけど、「恩返し」みたいな感じです。
――WAVOCの授業の中で、印象的だった授業はありますか?
「体験の言語化」(兵藤先生)が印象的でした。「WAVOCの授業の中で」というより、大学で受けた全ての授業の中でも印象的な授業でした。個人が感じたネガティブなことも、実は社会課題につながっているということを実感しました。具体的には、テニスコーチをしていたら男の子になめられたという体験を言語化したのですが、これについて、もともと信頼関係が出来ていなかったというのもあるかもしれないし、女性だからなめられたというのもあるのかなと思います。そこから話を広げていって、自分のちょっとしたことを、男女の働き方の違いのお話につなげました。この授業を受けていなかったら、この体験からそこまで真面目なことを考えなかったと思います。「どうしてそうなっているのだろう」「どうしてそう思うのだろう」と考えることを積み重ねることで、様々な課題に対してただ「嫌だ」「むかつく」と思うのではなく、しっかり考えられるようになりました。
現在のお仕事について
――どうして読売新聞の記者になられたのですか?
端的に言うと、幼稚園児から農家の方、知事まで幅広い人の意見を聞かないと本来の課題解決の方向性や方策は分からないのではないかと思っています。はじめは動物と触れ合いたいという思いから環境省のレンジャー(国立公園の保護官)になりたいと思っていたのですが、それぞれの立場の人の話を聞かないと、その人たちの声を踏まえた解決策を考えることは難しいのではと思うようになりました。なので、色々な人の声を聞ける職業である記者に魅力を感じました。あとは、純粋に話を聞くことが好きというのもあって記者を選びました。

仕事道具のカメラと一緒に
――狩り部の活動や大学時代のボランティアで得たことが現在のお仕事に生きていると感じることはありますか?
大学時代の活動が原動力になっていると感じています。「あのときはできなかったけど、今は伝えることができる」という思いが支えになっています。
私は2020年に入社後、1年目は警察、2年目からは行政を担当し、多様な年代や立場の人に取材をし、いろいろな世界を知ることができる刺激的で楽しい仕事をさせてもらっています。
1年目には、住宅街でイノシシが駆け回り、5時間半にもわたる大捕物を取材しました。地元猟友会の狩り部にとっては最も身近な存在の猟師にも話を聞きにいきました。すると「マスコミは嫌いなんだ。マスコミが駆除したことを報道すると、イノシシを殺したって猟友会が悪者扱いされるんだ」と突き放されてしまいました。痛いほどその気持ちが分かるはずなのに、急に壁ができたような気がして、自分の立場が変わったことを改めて思い知らされました。一方で、今の記者としての自分にできることは、そうした猟師の嘆きや獣害問題の深刻さを記事にすることだと強く感じました。
――お仕事の中で、何か動物に関する記事を書かれることもあるのですか?
幸いにも、仕事で書きたいことを書かせていただける環境にあるので、動物関係の記事を書くことがあります。昨年は、多頭飼育崩壊の問題を大きく取り上げたり、保護猫の活動を取り上げたり、動物福祉に関する活動をされている方のお話をうかがったりしました。1年目のときはイノシシの被害に遭った方のお話をうかがいましたし、県内で19年ぶりに熊に人が殺されてしまったときに、その関連で獣害に関してまとめた記事を出しました。やわらかい記事だと、コロナ禍で中止されていた里親の募集を再開しましたという記事も書きました。
――最後に、今後の展望を教えてください。
職場でも言っていることなのですが、「動物記者になりたい」と考えています。記者としてやらなければならない仕事もやりつつ、動物との共生をテーマにした記事を書き続けたいです。ライフワークのような形でやっていきたいと思っています。
また、動物に限らず、社会の課題を知ってほしいという思いがあります。新潟支局で仕事をする中で、人口がどんどん減っていき、地方が軽視されている感覚を覚えます。しかし、そのような地域の声こそ拾わなければならないと思います。正直、記者も人手不足で、広い地域を一人で担当するということもあるのですが、その地域の声を私が拾わなかったらその人たちの声は届かなくなってしまいます。どんなに良いことをしていても、伝えないと知ってもらえないので、伝えたいことがある人の声を拾い上げられるようにしたいです。今はSNSで主観的に発信できる時代ですが、新聞記者として、その人の声を客観的に見つめたり反対の意見にも目を向けたりと、多角的な視点で伝えていきたいです。
取材・文:WAVOC学生リーダー 池田 日陽
【プロフィール】
岩瀬詩由(いわせしより)さん
2018年 教育学部理学科生物学専修卒業
2020年 環境・エネルギー研究科卒業
現在 読売新聞東京本社 新潟支局 記者
狩り部での活動に加え、大学院では「動物との共生」をテーマにご研究されていた。