The Hirayama Ikuo Volunteer Center (WAVOC) 早稲田大学 平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)

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ゾウに襲われる村で、追い払う若者たちの奮闘

ゾウに襲われる村で、追い払う若者たちの奮闘

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授 岩井雪乃

早稲田大学ボランティアセンター(WAVOC)科目「アフリカゾウとの共生を実践するボランティア」とWAVOC公認プロジェクト「エコミュニティ・タンザニア」では、学生と教員が連携しながら、アフリカゾウによる農作物被害問題に取り組んできました。そして、この度、その活動を本にまとめて出版しました。

表紙画像(線あり)

『ぼくの村がゾウに襲われるわけ。−野生動物と共存するってどんなこと?』岩井雪乃著(合同出版)
http://www.godo-shuppan.co.jp/products/detail.php?product_id=553

 

ここでは、本には書ききれなかった、ゾウを払う様子を紹介します。

ゾウを追い払う様子を観察

タンザニア北部では、2000年代に入ってからアフリカゾウが農作物をあらす害獣となっています。以前、ゾウは保護区内にいましたが、村の中まで畑の作物を食べに入ってくるようになってしまい、時には人が殺される事件も起きています。村びとたちは、自分の生活と生命を守るためにゾウを追い払い、保護区に戻そうと努力していますが、10トンもある巨大な生物に立ち向かうのは命がけで、簡単なことではありません。そして、それが1頭のみならず、多いときには200頭もの群れで押し寄せて来ることもあるのです。このような状況に人びとはどう対処しているのでしょうか?

家の前で平然と木を食べるゾウ

家の前で平然と木を食べるゾウ

2月のある日

その日の午後4時ごろ、村びととともに、村と保護区の境界に設置しているワイヤーフェンス(われわれのプロジェクトで設置)を見回っていると、ゾウの群れ(6頭)を発見しました。ゾウは、まだワイヤーの外(保護区側)にいましたが、しきりにワイヤーを嗅ぎ回っていて、今にもポールを倒して入ってきそうでした。この日の前日は、久しぶりに雨が降った日でした。村びとによると、ゾウは雨が降った後に畑に来ることが多いそうです。今の時期は、まだ畑の作物(トウモロコシ)は50cmていどで小さく、ゾウにとって食べごろではない時期です。それでもやってくるのは、雨の後はいい匂いがしているのでしょうか。

村の中に入っているゾウ

村の中に入っているゾウ

近所の若者たちに連絡がいき、すぐさま10名ほどが集まりました。口笛、ブブゼラ、バロティ(銃声に似た音がでる手作りの爆竹機)、犬、弓矢など、それぞれに持っている道具を駆使してゾウを脅かしながら走り回りました。ようやく、ワイヤーから離れた保護区の方へ追いやることに成功した時には夜8時になっていました。その日、家に着いたのは夜10時を回っていました。

ワイヤーを嗅ぎ回るゾウ

ワイヤーを嗅ぎ回るゾウ

 

若者たちの追い払いチーム

若者たちの追い払いチーム

ようやく終わったときには真っ暗に

ようやく終わったときには真っ暗に

ところが翌朝

ゾウはワイヤーの切れ目を見つけ出し、村の中に入っていました。朝8時から、再び追い払いです。15名が集まって出動。しかし、3時間追い払っても、ゾウは出ていってくれません。脅かされて逃げて、そしてワイヤーにぶつかると、また村の方に戻ってきてしまうのです。なかなかワイヤーの切れ目に行ってくれません。そのうちに、群れが分かれて2頭と4頭になってしまい、追い払う人数が足りなくなってしまいました。近隣地区からも応援をよび、さらに人数を増やして右往左往すること10時間。夕方6時になって、ようやく切れ目から保護区へ出ていきました。

弓矢と山刀は基本装備、ブブセラも効果的

弓矢と山刀は基本装備、ブブセラも効果的

DSCN1435

手作りの爆竹機、銃声のような音がする

帰路につく時、若者たちは満身創痍でした。ゾウとともに数十キロを走り回った結果、ねんざして杖をつくもの、木の根を踏み抜いてびっこを引くもの、爆竹機でやけどしたもの・・・。そして、全員が疲労困憊してお腹をすかせていました。

木の根につまずいてねんざしたメンバー

木の根につまずいてねんざしたメンバー

 

わたしはこの翌日に村を後にしましたが、その日の晩にもまたゾウの群れが来て、若者たちは一晩中追い払いをしたそうです。彼らは、寝る間もなく、農作業や家畜の放牧など他の労働をしている暇もありません。これでは彼らの生活が成り立たず、追い払いを続けることもできなくなり、ゾウに対処できなくなってしまう心配があります。そうなった時、人びとは自らの生活をどうやって成り立たせるのでしょう? ある村びとは、「畑の作物をゾウに食べられてしまうなら、狩猟をするしかないじゃないか」と怒りをあらわにしていました(住民がおこなう弓矢や罠による狩猟は法律で禁止されている)。

セレンゲティ地域の人びとにゾウを保護することを強制しているのは、タンザニア政府であり、観光業者であり、ゾウを見たい観光客であり、自然保護を求める先進国のわれわれです。村びとが試みている「ゾウと共存するための追い払い」を、遠くにいるわたしたちはどう支援できるでしょう? わたしはこれまでに、32kmのワイヤーフェンスを設置するプロジェクトをおこなってきました。次は、この追い払い活動をいかに支援できるか、新しい展開を模索しているところです。

 

 

 

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