「お化け屋敷でひんやり、優しい繋がりで心はぽかぽか」
政治経済学部4年 加藤 岳
「うそつき…」身体にぎゅっと力を入れ、目を伏せながら薄暗い和室を進んでいく幼子の視界の隅に映る、恐ろしい表情で恨み言を繰り返す老婆… 恐怖に肩を震わせながら歩く小学生が墓地の前で遭遇する、この世のものとは思えぬ顔色をした和服姿の男や女… 出口の明かりが見え、やれやれと胸をなでおろした大人たちに向かって伸びてくる無数の青白い手… ここに足を踏み入れた者たちは誰ひとりとして正気を保ったままこの世に戻ってくることは出来ない。絶望と無念が重苦しい空気を漂わす、糸魚川の夏に突如として現れたお化けの館…
そんな恐ろしいお化け屋敷の運営ボランティアの一員として、ぎらぎらと太陽が照りつける夏本番の2023年8月、5人の早大生が糸魚川市の方々と共に汗をかきました。糸魚川市のお化け屋敷は今年で13年目。町おこしの一環として、そして子どもたちの夏の思い出作りの一環として始まり、以来地域の方々の手によって守り続けられています。
数ヶ月前から構想を練り、時間を掛けて作り上げられたお化け屋敷のセットは全て現地ボランティアの方々の手作り。卒塔婆が無造作に並んだ墓地はドラマのセットと見間違えるほどに巧みな造形で、培われてきた技術力の高さが現れていまし た。
今回のテーマは「地図から消えた村」。雰囲気を作る首の取れかかった古い人形や、昭和の暮らしを思わせる和室の家具に、細かい部分にも一切手を抜かない実行委員会の皆さんの本気を感じることが出来ました。
糸魚川は、早稲田大学校歌の作詞者である相馬御風の出身地であることから、街と大学の繋がりは強く、市民の方々も早稲田の今をよくご存じでいらっしゃいます。2016年の大火後、復興ボランティアの一環としてお化け屋敷運営へのボランティア活動が始められ、コロナ禍による中断を経ましたが、早大生はお化けたちと4年ぶりの再会を果たすことが出来ました。
私が今回のボランティア活動に参加した動機は、“地元”や“故郷”の空気を味わいたいと思ったからでした。大学進学と同時に上京し、感染症流行のため、生まれ育った地域には帰ることが出来なかった3年間。東京に馴染んでしまった身体と心がふと、誰もがお互いに支え合うような良い意味での“田舎”の暮らしを欲していることに気付きました。
実際に糸魚川へ足を運んでみると、地域の方々はみなさん本当に温かく、細やかな気遣いをしてくださり、前から知り合いだったかなと思うほどフレンドリーに接してくださいました。懇親会では皆さん全員が校歌を歌って送り出してくださり、胸が熱くなりました。
人口減少や大火という困難に向き合い、行政と市民が協力し地域一体で工夫して乗り越えていこうとされる姿を拝見し、前に進んでいく大切さを改めて教えていただきました。地域創生に関わる多くの課題を抱える日本ですが、我々一人ひとりが、地域で暮らし、様々な場所でこの国を支えている存在なのだということを実感しました。この国を足元で支えている人々の存在を大切にしなければならないと強く感じ、自分自身も周囲と手を取り合い尊重し合いながら生きていこうと、そう思っています。
糸魚川の皆様には大変お世話になりました。3日間でしたが、第二の故郷と呼ぶことに躊躇いを感じないほど心を近くすることが出来ました。ありがとうございました。
ただいまを言える場所があることが幸せです。