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閉経後女性の代謝に最適な食事・運動のタイミングとは?

閉経後女性の代謝に最適な食事と運動のタイミングとは?
~脂質の利用を促進する運動のタイミングが明らかに~

発表のポイント

  • 閉経後の女性を対象として、運動時の脂質代謝の観点から、低グリセミック食品を運動前のどのタイミングで摂ることが最適かを検証した研究はこれまでありませんでした。
  • 本研究では運動の60分前よりも、運動の120分前に低グリセミック食品を摂ることにより、運動後の脂質代謝が促進することが分かりました。一方、運動中の代謝や運動後の食欲への影響はみられませんでした。
  • 閉経後女性の食後脂質・糖代謝を改善することの重要性と、最適な運動タイミングを明らかにしました。

概要

低グリセミック食品(Glycaemic index; GI)は、食後血糖とインスリン※1の上昇を抑えて、その後の運動の脂質代謝を促進することが明らかになっています。早稲田大学スポーツ科学学術院宮下 政司教授、同大学スポーツ科学研究科博士後期課程の坂崎 未季(当時)らの研究グループは、女性は加齢に伴って肥満や脂質代謝異常を生じやすくなるため、低GIの朝食を摂ったあとに運動を行うことが脂質代謝を改善する観点から有用ではないかと考えました。特に閉経後の女性を対象に、GIの違いによる食後の血糖・インスリンの経時的な変化において、異なるタイミングで運動を行うことによる代謝や食欲への影響を検討したところ、歩行中の脂質・糖代謝やその後の食欲に影響はありませんでしたが、歩行後の脂質代謝は歩行の60分前よりも120分前に低GI食を摂る方が促進することを明らかにしました。

本研究成果は、『European Journal of Clinical Nutrition』(論文名:Acute effects of pre-exercise high and low glycaemic index meals and exercise timings on substrate metabolism and appetite in postmenopausal women)にて、2025年4月15日(火曜日)にpublish ahead of printがオンラインで掲載されました。

これまでの研究で分かっていたこと

低GIの食品は、食後の血糖値の急激な上昇やインスリンの分泌を抑えることによって、食後の脂質代謝を促すことが知られています。また、GIの違いは食欲を調節するホルモンに影響することも分かっています。ただし、食事のGIの違いだけでは体重管理や生活習慣病の予防・改善に与えるインパクトは限られていることから、運動との組み合わせによるアプローチが重要だと考えられます。
低GI食と運動を組み合わせたこれまでの多くの研究では、アスリートや運動習慣を持つ人を対象として運動パフォーマンスに与える影響を検討していました。これらの研究では、運動前に低GI食を摂ることによって、糖質だけでなく脂質をエネルギー源として効率的に利用することができ、運動パフォーマンスを向上させる可能性が示唆されていました。さらに健康の維持や改善の観点では、私たちはこれまでに、中年女性を対象に歩行の120分前に低GIに設定された朝食を摂ることによって、高GIの朝食と比較して運動中の脂質代謝を促進し、糖代謝を抑制することを報告してきました(Sakazaki et al., Journal of Nutritional Science. 2023;12:e114)。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

低GI食を歩行前に摂ることによって脂質代謝を促進させることは、加齢とともに肥満や脂質代謝異常を生じやすい閉経後の女性にとって、より重要な役割を果たすと考えられます。一方で、食後の血糖・インスリンの経時的な変化を考慮すると、食事から運動開始までの時間がどの程度であれば運動中の脂質代謝を促すのに最も適したタイミングであるのかは不明でした。そこで、本研究では閉経後の女性15名(平均年齢58歳)を対象に、運動前の食事のGIと運動のタイミングの違いが、代謝や食欲に及ぼす影響について検討しました。

試験の参加者は、①(食事開始から運動開始までの時間が)120分-高GI試行、②120分-低GI試行、③60分-高GI試行、④60分-低GI試行をそれぞれ1週間以上空けて4回行いました。高GI試行の場合は高GIの朝食(パンやマッシュドポテトなど)、低GI試行の場合は低GIの朝食(玄米やヨーグルトなど)を9時に摂ることとして、120分後または60分後に30分間の歩行運動を行ったあと、13時まで安静にしました。試験中は脂質・糖質の利用量を測定するために呼気ガスを継続的に採取しました。また、30分間隔で血液を採取し、食欲に関するアンケートを行いました。

その結果、30分間の歩行中の脂質・糖質の利用を示す「累積脂質・糖質酸化量」は4試行間に違いがみられませんでした。また、食欲に関してもGIや運動のタイミングの違いによって明確な影響はみられませんでした。一方で、歩行後の1時間の血糖(図1)およびインスリン(図2)の上昇曲線下面積※3は、120分の試行よりも60分の試行で高GI、低GIのいずれの試行においても高値を示しました。インスリンの経時的な変化をみると、特に60分-高GI試行において運動により低下したインスリンが再度上昇していました。また、脂質代謝の血液中の指標である遊離脂肪酸は、60分の試行よりも120分の試行で高値を示し、120分-低GI試行がどの試行よりも有意に高値でした(図3)。したがって、低GI食を摂ってから120分後に運動をすることによって、血糖およびインスリンの上昇を抑えることにより、運動後の脂質代謝が亢進することが分かりました。

 

研究の波及効果や社会的影響

本研究では、閉経後の女性が低GIの食事を摂って60分後に運動を行うよりも時間を空けて120分後に運動を行う方が、運動後の脂質代謝を促進することを明らかにしました。加齢とともに食後の血糖およびインスリンの応答が異なるため、単純に低GIの食事を摂ったからといって、すぐに食後の血糖やインスリンの上昇が抑制されるとは限らないため、健康維持や生活習慣病の予防の観点から、「どのような食事を摂るべきか」に加え、「食後どのタイミングで運動をしたら最適か」という疑問に対する一つの提案となるような結果であり、実生活に活用が可能な研究であると考えられます。

今後の課題

閉経前の女性を対象とした私たちのこれまでの研究(Sakazaki et al., Journal of Nutritional Science. 2023;12:e114)と比較して、閉経後の女性では低GIとして推定値で設定していた朝食を摂取した後でもインスリンが比較的高い値まで上昇していたことが本研究で確認されました。これにより、運動中の脂質・糖質代謝の違いがみられなかった可能性があります。したがって、食事と運動による生活習慣病の予防・改善のためのアプローチには、加齢に伴うインスリン抵抗性※4を予防することが必要不可欠であるということが考えられます。
今後の展望として、高齢者や男性を含む幅広い年代や性別を対象に、低GI食の摂取と最適な運動のタイミングを検討する必要があります。

研究者コメント

これまで、女性を対象として低GI食の摂取と運動の組み合わせによる代謝や食欲への影響を検討した研究はありませんでした。また、当該研究領域は、欧米の若年者を対象にこれまで主に研究されてきているため、加齢や人種による食後のインスリン分泌能が異なることで、その後の運動に伴う脂質代謝に影響するのではないかという疑問を抱いていました。さらに、特に日本人は欧米と比較して炭水化物の摂取割合が高い傾向にある一方で、近年、極端な糖質制限が体重管理や生活習慣病の予防・改善のひとつのアプローチとして実践されていることに疑問を抱き、GIは「食後の代謝応答を把握する」上で食事の質的管理として重要な指標のひとつになると考え、本研究に着手しました。本研究では、食事のGIの違いだけでなく運動のタイミングというアプローチを加えることにより、加齢と共に脂質代謝に関する健康リスクが上昇する可能性のある閉経後女性において、実生活に応用可能な汎用性の高い知見を得ることができました。今後も、日常生活における食事や行動の改善から健康維持・増進に繋がるような研究に取り組んでいきたいと考えます。

用語解説

※1 インスリン

血糖を下げる働きや、脂質の分解を抑制する働きをもつ膵臓のβ細胞で作られるホルモン。

※2 グリセミック指数(Glycaemic index; GI)

食後の血糖の上昇度合いを示す指標のこと。対象となる食品(炭水化物)を摂取したときの血糖の上昇度合いを、同量のブドウ糖を摂取したときを100とした場合の相対値で表す。

※3 上昇曲線下面積

時間経過にともなう増加量(初期値を0とした場合)の面積のこと。

※4 インスリン抵抗性

インスリンの効果が低下している状態のこと。インスリンが十分に分泌されていても、血糖が下がりにくくなる。

論文情報

雑誌名:European Journal of Clinical Nutrition
論文名:Acute effects of pre-exercise high and low glycaemic index meals and exercise timings on substrate metabolism and appetite in postmenopausal women
執筆者名(所属機関名):坂崎 未季(早稲田大学スポーツ科学研究科), Yibin Li (早稲田大学スポーツ科学研究科), 山田 善貴 (早稲田大学スポーツ科学研究科), 宮下 政司* (早稲田大学スポーツ科学学術院; School of Sport, Exercise and Health Sciences, Loughborough University; Department of Sports Science and Physical Education, The Chinese University of Hong Kong)

掲載日時(現地時間):2025年4月15日
掲載日時(日本時間):2025年4月15日
掲載URL: https://www.nature.com/articles/s41430-025-01615-z
DOI: 10.1038/s41430-025-01615-z

研究助成

なし

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