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全光コンピューティングの新手法、Diffraction Castingで 大規模並列論理演算が可能に

全光コンピューティングの新手法、Diffraction Castingで大規模並列論理演算が可能に

発表のポイント

  • 大規模並列論理演算が実行可能な全光コンピューティングの新手法「Diffraction Casting」を提案しました。
  • 提案手法が、集積性、活用性、実用性等で優れた性能を持つことを数値実験により示しました。
  • 人工知能分野等における昨今の莫大な計算需要の解決に寄与することが期待されます。

Diffraction Castingの概念図

概要

昨今の人工知能等の飛躍的な発展に伴い、GPU(Graphics Processing Unit)やTPU(Tensor Processing Unit)に代表される並列型演算器(注1)の需要が高まっています。一方で、従来の電子式コンピューティングにおける速度、規模、エネルギー効率等の性能向上の限界を見据え、光の物理的性質を用いた新たな演算手法が活発に探索されてきました。

東京大学大学院情報理工学系研究科の堀﨑遼一准教授、益子遼祐大学院生、成瀬誠教授(研究当時)らの研究グループは、光の波動性を活用するために新たに設計した複数の回折光学素子(注2)から成る小型光学系を用いて、大規模並列論理演算が光の速度で実行可能な全光コンピューティング(注3)の新手法「Diffraction Casting」を提案しました。本手法では、これまで困難とされていた16種の256ビット並列論理演算が可能になりました。また数値実験による性能評価で、本手法の従来法に対する高い集積性、拡張性、実用性を明らかにしました。

研究グループは本研究で次世代計算システムにおいて、空間並列性を活用した光コンピューティングが多大に寄与できる可能性を示しました。また、本手法は、コンピューティングにとどまらず、イメージングやセンシングと融合した新たな情報処理機構の枠組みの基盤となり、幅広い分野へ波及することが期待されます。

図1:Diffraction Castingを用いた演算結果の例
(a) 256ビット(16×16画素)並列入力データの例と、(b)入力データに対して提案手法を用いて16種の論理演算をおこなった出力結果。画像のように二次元に微細に高集積された任意の二値入力データに対して、エンコーディング(符号化)やデコーディング(符号化して処理されたデータの復元処理)を伴わず、全16種の論理演算が誤差なく光の速度で実行可能なことが初めて確認された。

発表内容

昨今の人工知能やIoT等の飛躍的な発展に伴い計算需要が益々巨大化する一方で、従来の電子式コンピューティングにおいて速度、規模、エネルギー効率等のムーアの法則(注4)に従った性能向上の限界が近づきつつあります。ポストムーア時代を見据え、光の持つ多様な物理的性質を活用することによりこれらの課題の超克を目指す、光コンピューティング分野の研究が近年活発化しています。光コンピューティング実現のための様々な手法が検討されていますが、演算規模の拡大性とデバイスの集積性の間に依然として大きな課題が存在し、スケールアップに適した新たな演算手法の提案が望まれていました。

東京大学大学院情報理工学系研究科の堀﨑遼一准教授、益子遼祐大学院生、成瀬誠教授(研究当時)らの研究グループは、早稲田大学理工学術院の川西哲也教授が代表を務める学術変革領域研究(A)「光の極限性能を生かすフォトニックコンピューティングの創成」プロジェクトにおいて、1980年代に我が国で発明された「Shadow Casting」と呼ばれる並列型光演算法に着想を得て、小型光学系を用いて大規模並列論理演算が実行可能な全光コンピューティングの新手法「Diffraction Casting」を提案しました。提案手法では、光の空間並列性および波動性を積極的に活用するために新たに設計した回折光学素子を積層した小型光学系により、光を各回折光学素子層で変調することで、所望の演算が光の速度で並列に実行されます。特に提案手法は、光学系に入射する光パターンの変更のみで演算選択が可能であり、既存手法では不可欠であったエンコーディングやデコーディングを伴わないため、高集積な全光演算が可能となります。

加えて、研究グループは数値実験により提案手法の性能評価を行い、これまで困難とされていた16種の256ビット並列論理演算を単一の小型光学系で誤差なく達成できることが確認されました。人工知能を学習する際の計算資源として用いられているGPUやTPUに代表されるように、現在の情報社会において並列演算は重要な役割を担っており、光の速度で大規模並列論理演算を実行できる提案手法は、大きな社会的意義を持ちます。提案手法は、独自の光学系設計により、従来法に比較して高い集積性、拡張性、実用性を併せ持つことも数値実験において示されました。

本研究は、次世代計算システムにおいて、空間並列性を活用した光コンピューティングが多大に寄与できる可能性を示しました。さらには、本手法はコンピューティングにとどまらず、イメージングやセンシングと融合した新たな情報処理機構の枠組みの基盤となり、幅広い分野へ波及することが期待されます。

本研究は、日本時間2024年9月30日21時に国際学術誌「Advanced Photonics」のオンライン版に掲載されました。

図2:演算ビット数(並列規模)と演算種類の数をパラメータとした時の回折光学素子枚数と演算誤差との関係
演算ビット数(並列規模)と演算種類の数の大幅な増加に対して、回折光学素子枚数の僅かな増加のみで誤差なしの演算が達成可能であった。回折光学素子の枚数が大幅に節約できるという高い実用性が示された。

発表者・研究者等情報

東京大学 大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻
堀﨑 遼一 准教授
益子 遼祐 修士課程
成瀬 誠  教授 (研究当時)

論文情報

雑誌名:Advanced Photonics
題 名:Diffraction casting
著者名:Ryosuke Mashiko, Makoto Naruse, and Ryoichi Horisaki 責任著者
DOI: 10.1117/1.AP.6.5.056005

用語解説

注1)並列型演算器
大規模に並列されたビットに対して、並列論理演算やベクトル行列演算等の処理を行う演算器。昨今隆興する人工知能分野において、画像や文章は巨大なベクトル等で表現されるため、特に需要が高い演算である。

注2)回折光学素子
光の回折、干渉、吸収、屈折などの伝播現象を波動光学に基づき精密に制御する光学素子。

注3)全光コンピューティング
光を用いたコンピューティングの中でも、特に演算過程において光信号と電気信号の変換(光電変換)を伴わずに演算を実現する手法の総称。光電変換は演算速度や規模、エネルギー効率を悪化させる主な要因の一つである。

注4)ムーアの法則
半導体集積回路の集積率は常に一定の指数関数的割合で増加するとする経験的予測。半導体を用いた電子式コンピューティングの際限ない性能向上を予見したが、近年は性能向上のペースが鈍化し、ムーアの法則の限界に近づいていると考えられている。

研究支援

本研究は、日本学術振興会の学術変革領域研究(A)「光の極限性能を生かすフォトニックコンピューティングの創成(課題番号:22H05197)」および科学研究費助成事業(課題番号:20K05361、23K26567)の支援により実施されました。

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